第10話 イルヴァニア王都

 王都周辺は高い壁がそびえ立っており、この壁沿いに数ヵ所だけ設けられた検問所を通過してようやく中へと入れる。

 これまでの俺ならそこで締めだされるのがオチだったが、今回は向こうから招待されているという立場のため、あっさりと通してくれた。まあ、諸々の手続きは全部イスナーがやってくれたんだけどね。


 というわけで、俺は生まれて初めて王都に足を踏み入れたのだが……あまりの人の多さに開いた口がふさがらなくなっていた。


「何を呆けているんだよ」

「い、いや、あまりにも人が多くて……」

「無理もありませんね。国内で第二の都市であっても規模としてはここの半分くらいでしょうから」


 俺はその第二の都市にすら行ったことがないのでめちゃくちゃ衝撃を受けているんだよなぁ。

 ここの賑やかさに比べたら、これまで訪れた都市は全部田舎町って思えるくらいだ。


 やがて馬車は運河にかかる大きな橋の前で止まる。

 ここだけ明らかに警戒が厳重だった。

 どうやら小高い丘の上から王都を見た際に説明された西地区がこの先なのだろう。


 王都に入る際はイスナーだけでよかったが、今回はブロードも呼びだされて俺は馬車にひとり残される。その間も武装した兵士たちが馬車を囲んでおり、俺が何か変な行動でも起こそうものならそのまま串刺しにされそうな気配だ。


 しばらく待っていると、ようやくふたりが戻ってくる。


「相変わらず手続きが面倒だなぁ、ここは」

「それだけの守りをしなければいけない場所ですからね、この先は」

「そりゃそうだがよぉ」


 うんざりした様子で語るブロードとイスナーだが、ここから先が貴族の居住エリアになっているならそれくらいの警備は必要だよな。


 ――と、いうか、兵士たちが気にかけていたのは俺の存在だったらしい。つい昨日まで冒険者稼業をしていたということもあり、俺の格好は回りに比べるとみすぼらしいもの。疑われても仕方がなかった。これでも元王子なんだけどなぁ。

 とはいえ、俺が行こうとしているわけじゃなくて招待された身。だからログナス家の屋敷まで使いを送って確認を取ったりと、通常より時間を要したらしい。せっかく王都へ来たんだから、あとで服でも買っていこうかな。

 

 その後、長い鉄橋を渡って西側の地区へと入る。

 やはり特別な場所というだけあり、さっきまでの喧騒や人混みが嘘のように静かで落ち着いた場所であった。

 しばらく進むと、やがてひと際大きな屋敷が飛び込んでくる。


「まさか……あの屋敷か?」

「おう。デカいだろう?」

「あ、あぁ……エルドールにいるどの貴族の屋敷よりデカいよ」

「エルドール? 君はエルドール王国の出身なのか?」


 しまった。

 つい口が滑って余計なことを……俺が悪役王子だったことは伏せておいた方が絶対にいいよな。すでに王位継承権は剥奪された身とはいえ、いろいろとまずいだろうしな。


「前に一度だけ行ったことがあるんだ。貴族の屋敷が他の国のものより大きかったから印象に残っていたけど、ここのはそれ以上だ」

「まあな。ソルヴァニアは大陸最大国家。エルドールと比べたら規模が違うよ」

「それもそうか」


 一応元王子という立場だが、確かにエルドールとソルヴァニアでは国家の規模がだいぶ違ってくる。父上やふたりの兄たちも、ソルヴァニアとはことを荒立てないようにと常に気を遣っていたな。


 第三王子時代はピンと来ていなかったが……こうやって実際にソルヴァニアの中枢部分に足を踏み入れると、それを実感してくるな。仮に俺が国王になったら、これほどの大規模な王都を持つ国とはできれば仲良くしていきたいと思う。


「さあ、そろそろ下りる準備をしましょう」

「そうだな。ほれ、おまえも」

「分かった」


 いよいよ屋敷に到着か。

 一体どんな成長をしているか……不安と楽しみで複雑な心境になってきたよ。




※このあと18時にも投稿予定!

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