第35話 地下迷宮④

 ボス部屋に現れたのは僕たちに瓜二つの3人組。

 僕はその相手を見てぞっとした。そこに居るのは僕自身の姿なのだ。

 顔立ちも持っている武器も一緒、違うのは少し肌の色が違うこと。


「まさか、ドッペルゲンガー」


 現れたのは僕自身、自分とそっくりの姿をした分身体のような偽物。

 死や災難の前兆であるドッペルゲンガーが地下迷宮のボスのようだった。


 僕は偽者に向かって右手を上げると、偽者の僕も右手を上げた。

 右手を下ろし左手を上げて手を振ると偽者も同様のことをしてきた。


「何してるの? 馬鹿みたいなことして」

「いやだって、鏡みたいで面白しかなって‥‥相手の僕も同じことしてるし、ほら偽者の僕だいぶお茶目だよ。こっちに向けてお尻ぺんぺんしてるし」

「‥‥ほんとね。あっ、偽物の私に頭叩かれた」


 向こうではまるで漫才のようなコントが繰り広げられている。

 これがこのエリアのボス? まるで緊張感がない。


「馬鹿やってないで戦うわよ」


 詩穂さんが槍を構え、偽者に向かって火魔術を放った。

 火魔術LV3の炎の火球だ。だが、その火球は偽者の火球によって相殺された。


 爆音と爆風が吹き荒れる戦場、僕はその爆風に乗じて偽者に向かって走り出す。

 目指すは偽者の僕。だが僕の行く手を阻む者がいる。

 それは槍を手にした黒髪の女性、偽者の詩穂さんだった。


 詩穂さんの持つ槍の穂先が僕に迫る。


「ちょっ! 詩穂さん危ない! 危ないから槍振り回さないで」


 だが、僕の声は詩穂さんには届いてない、逆に問答無用とばかりに閃光のような突きが僕に降りそそぐ。

 偽者とはいえ詩穂さんと同じ姿を傷つけることは僕にはできない。

 助けを呼ぼうとするも、詩穂さんも僕と戦っている。

 こずえちゃんも弓や魔法で自分と戦っている。


 これ、ひょっとしてやばくない? 僕には詩穂さんを傷つけることができない。だが、相手は僕を殺そうと本気で攻撃を仕掛けてきている。

 偽詩穂さんの攻撃は的確に僕の急所を狙ってきており、いつまでも躱しきれるとは限らない。はっきり言ってジリ貧だ。


「きゃあぁぁぁ! 涼真君やめて」


 詩穂さんの悲鳴が聞こえてくる。詩穂さんも偽者の僕に追い詰められているようだった。このままでは不味い‥‥どうする。どうすればこの状況を打開できる。

 せめて相手が詩穂さんではなく僕自身だったら‥‥‥


 僕は偽詩穂さんの攻撃を避けながら考える。

 偽物、ドッペルゲンガーを打ち破るには3人の協力が必要だ。

 僕自身が偽者の僕を打ち破る必要があり、その行く手は偽詩穂さんが阻んでいる。


 となれば‥‥残された手は‥‥‥‥


「詩穂さん、ごめん!」


 僕は偽詩穂さんの槍攻撃を掻いくぐり彼女にタックルするように抱き付いた。

 むにょん。僕の手のひらに彼女の柔らかい肉まんの感触が広がる。


 ドッペルゲンガーは喋ることができない。

 声は聞こえないが、その口の動きから悲鳴を発しているように思える。

 それに羞恥心から顔も真っ赤になって悶えている。


「ちょっと何やってるのよ!」


 本物の詩穂さんから抗議の声が上がる。

 だが、それでいいのだ。

 後は本命が釣れれば‥‥‥


 僕のいた場所を剣が走っていく。

 あっぶね。

 偽者の僕の持つ長剣が頭上を掠めていったのだ。

 だが、これこそ僕の狙っていた状況。

 偽詩穂さんを守ろうと偽者の僕が斬りかかってくるのを待っていたのだ。

 相手が僕自身なら問題なく剣を振れる。


 同族嫌悪、僕自身を映す鏡とでも言うべきか自分自身の嫌な姿や行動がわかってしまうのだ。本来なら決め手に欠ける相手。

 だが、それは通常時ならの場合であり、今フリーになっている人物がいる。


「もう! 何やってるのよ! あとで覚えてなさい」


 そう、詩穂さんである。

 詩穂さんが横たわる偽者に槍を突き立てる。

 偽者の詩穂さんは粒子になって消えていった。


 これで 3 対 2 。数の上でこっちが有利に立つことができる。

 詩穂さんはそのままこずえちゃんの加勢に入る。


 憤怒の形相になった偽の僕が向かってくるがここは無理をして相手をしなくてもいいのである。時間さえ稼げればそれでいい。

 やがて偽者のこずえちゃんを倒したふたりが偽の僕を取り囲む。


 こうなればさしもの僕の偽者にも隙が生まれる。

 その隙を見逃さずに僕は長剣を振り下ろした。

 偽の僕が苦悶の顔を浮かべながら粒子となり消えてゆく。

 僕たちの勝利だ!



 偽者ドッペルゲンガーの消滅と同時に僕たちはまた宇宙空間のような謎の空間に立っていた。

 そして、また一番明るい星の輝きが眩しいほど大きくなっていく。


〔わたしの選びし子たちよ〕


 神様 ――― 優しそうな女性神の声が直接脳に語り掛けてきた。


〔試練のクリアお見事でした。これにて試練はいったん終了です。泰阜涼真、モンスターとの戦いよく頑張りましたね。三郷詩穂、パートナーをよく理解し支えることができましたね。下条梢、良き仲間に仲間に恵まれ、よくぞ恐怖心に打ち勝ちましたね。あなたたちの活躍を楽しみにしていた甲斐あって試練クリアとなりました〕


 試練クリア‥‥てことは、これで終わりなのか。日本へと戻れるのか。また日常へと戻れるのか。


〔安心するのはまだ早いぞ!〕


 なんだ? 女性神とは違う別の声が聞こえてきた。


〔お主たちは試練をクリアした。クリアタイムもそこそこのモノである。それは認めよう。今後はその力をどう使おうとお前たちの自由である〕


〔ハッハッハ。戸惑っておるな。お前たち3人と生き残った4人には特別な祝福ギフトが与えられておる。その力を私利私欲に使うも良し、他者を従えらせるも良し、勉学に勤しむも良し、もちろん何もせずひっそりと暮らすもお前たちの自由である〕


 また別の声だ。女性神の他にも神々がいるのか。この場には最低3人の神々が居ることになる。

 祝福‥‥レベルアップとスキルのことか。その力を使いどうするかは僕たち自身に委ねられるということなんだろう。


〔我らはいつでもお前たちを見ている。さあ行くがいい〕

〔お主たちの活躍を楽しみにしておるぞ〕

〔じゃあ頑張ってね。あなたたちに○の加護があらんことを‥‥〕


 眩い星の輝きが収まっていく。

 そして、世界が歪むように暗転する。



 気が付くと僕は見慣れた教室で椅子に座って数学の授業を受けていた。

 手足が動く。あぁ‥‥戻ってこれたんだ。

 日本に、戦いのない日常へと戻ってきたんだ。


「先生。ちょっとトイレ行ってきます」


 僕はスマホを握りしめ教室を飛び出したのだった。




  〜〜 あとがき 〜〜

 お読みいただきありがとうございます。

 神々のゲームをクリアした涼真君たち。

 涼真君たちの今後が気になる、続きを読みたい

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