第24話 再会①
えええええっ!? ここは?
僕は辺りを見渡す。
前の席には居眠りをしている男子生徒。
隣には黒板を写す女子生徒。
教壇にはハゲた男性教諭。
そう、ここは教室。そして今は古文の授業中だった。
教室の様子は普段と何も変わらない。
あの世界での出来事は夢‥‥白昼夢だったのか?
いや、あの生々しい感触は現実だ。
その証拠に身体の中に不思議な力を感じることができる。
なら、やはりあれは現実なのか‥‥‥
なんらかの力‥‥そう、神様の神力的な力で時が戻されたか、時が止まった状態であの世界へと飛ばされ、そして戻ってきたと考えるべきか。
考えられるのは神殿の奥の部屋にあった魔法陣。
「どうした篠木、そんなに慌てて。何か忘れ物かね」
ハゲた男性教諭の言葉でクラス中の視線が集まる。
「どうしたの静香? 顔色悪いよ。保健室いく?」
酷く動揺して青い顔をした篠木さんの姿がそこにあった。
「先生。静香を保健室に連れていきまーす」
数人の女生徒に付き添われて篠木さんが教室を出ていった。
「先生! 僕もお腹痛いのでトイレ行ってきます」
「泰阜うんこか?」
後ろの席の男子生徒が揶揄ってくる。
めんどくさいので男子生徒のことは無視して教室を出た。
行先はもちろんトイレではなく保健室だった。
気配察知の影響か保健室の中にいる人の気配がわかる。
今はまだ大勢の気配がする。
付き添いの女生徒だろう。カースト上位者の篠木さんは人気者で心配する連中も多い。これが僕だったら誰も付き添ってはくれないだろう。
しばらくすると、その気配が減り、残った保健の先生もどこかへ行ったようだ。
「篠木さん」
「泰阜か‥‥‥あーしらはどうなった」
「覚えてないの? てか、どこまでおぼえているの?」
保健室のベッドで休む篠木さんと話をした。
篠木さんたちが先走ってオークと戦闘したこと。
そして、戦いに敗れ‥‥‥篠木さんは酷い目に遭っていたこと。
彼女が覚えているのはここまでだった。
岩木呂君が亡くなったこと。
古橋先輩が片腕を失ったこと。
僕たちに新しい仲間としてこずえちゃんが加わったこと。
自称神様に謎空間で会ったこと。
そして、次のステージのこと。
「んで、ファーストステージとやらをクリアした泰阜らはいいとして、あーしらはどうなるの? このまま終わり?」
「さあ、それは僕にもわからない」
「んだよ、役にたたねーな」
「時間軸がどうなってるかわかんないけど、残り猶予は3日だった。それでどうなるか僕にはわからない。だから‥‥僕は行くよ」
「行くってどこに?」
「西高!」
どうしても詩穂さんに会いたい。
授業をさぼることになるけど、どうしても会いたくてたまらない。
「‥‥‥そうか、彼女にもありがとうって言っといて」
「うん。篠木さんもゆっくり休んでね」
「ああ、そうさせてもらうよ」
こうして僕は学校を後にした。
僕たちの住む瑞北市には、いくつかの高校がある。
僕の通う瑞北高校。偏差値はいたって普通どこにでもある学校だ。
詩穂さんの通う西高は県内でも有数の進学校である。
僕は学校まで自転車で通っていた。
西高は行ったことはないが場所は知っている。
高台にある高校として有名だからだ。
西高までかなりの距離があるが自転車のペダルをこぐ足が軽い。
登坂もなんのその。
どうやらレベルアップの影響は、こっちの世界でも影響があるらしい。
スキルこそ使えないが、それに準する力は使えそうだった。
ほどなくして西高に着いた。
時間的にまだ授業中だし、どう詩穂さんと連絡を取ろう‥‥
そもそも彼女の連絡先さえ知らないのだから仕方がない。
しょうがない。校門で少し待つか。
そのうち誰か通るだろうから、その人に呼び出して貰おう。そう思ったときだった。
「涼真先輩じゃないですか。 どうして西高に?」
体操着姿のこずえちゃんが僕に気が付き駆け寄ってきた。
「こずえちゃん。いいところに!」
「ははーん。さては詩穂先輩に会いにきたんですね」
「そんなとこだよ。そゆことでお願いしてもいいかな」
こずえちゃんはニヤニヤした顔で僕を見てくる。
「先輩! 貸しひとつだからね。今度何か奢ってくださいね」
「ああ、でもお手柔らかにお願いします」
小悪魔的に微笑むこずえちゃんに苦笑した。
ほどなくしてチャイムがなった。
そして‥‥‥
僕の前に詩穂さんがいる。
西高の制服であるブレザーを着た詩穂さんだ。
流れるような長い艶のある黒髪。
眼鏡をかけた姿は初めて見たが、その奥にあるのはパッチリとした大きな目だ。
詩穂さんは僕の前で無言のまま、もじもじと立っている。
やっぱ‥‥かわいいな詩穂さん。
‥‥‥‥‥‥‥
無言の詩穂さんはいいのだが‥‥遠巻きにやたら視線を感じる。
「‥‥涼真君‥‥来てくれたんだね」
突然、詩穂さんが口を開いた。
「私たち‥‥戻ってこれたのよね?」
「そのようだね」
「じゃあ‥‥デート‥‥‥できるよ‥‥ね」
「うん。うんうん」
ああ、そうだこれでデートもできるし、手料理も食べられる。
「授業中にこっちに戻って来られたけど‥‥その‥‥ずっと‥‥涼真君、あなたのことを考えていたの‥‥‥でも、連絡先も知らないし」
「詩穂さん‥‥僕も。だから会いに来た」
「うん。ありがと‥‥でも、ここはちょっと目立つかな‥‥」
「あははははは‥‥」
気付けば、遠巻きに見てくる女生徒の数が増えていた。
学校の校門のところで他校の生徒である僕と女生徒が会っているのだ。
進学校とはいえ刺激と娯楽に飢えた生徒はどこにでもいる。
「涼真君スマホ貸して、これ私のIDと電話番号」
僕は自分のスマホを詩穂さんに渡した。
これでようやく詩穂さんと、どこでも会話やSNSのやり取りができる。
キーン コーン カーン コーン 授業開始前の予鈴が鳴った。
「ごめん、私行かなきゃ。涼真君、放課後駅前のモフドナルトで待ってて」
そう言い残して詩穂さんは去って行った。
えええぇぇぇ‥‥そんな‥‥それだけ?
抱擁は? 熱いキスは? そんなことを期待してたのは僕だけなの?
そりゃあ、こんな観衆の前で抱き合えるほどメンタルは強くないけど‥‥ねえ。
仕方がない‥‥待ちますか。
駅前のモフドナルト。若者に人気のバーガーチェーン店。
しかし、駅前が騒がしいな。事故か何か?
まあ、自転車のある僕には関係ないか。
ひとりで店に入る勇気のない僕は詩穂さんが来るのを待った。
ひたすら待った‥‥それはもう、ひたすら待った。
スマホに詩穂さんから通知が来た。
学校が終わったようだ。
もうすぐ詩穂さんに再び会える。
それだけで僕は胸の高鳴りを覚えた。
「ごめんなさい。待たせちゃったわね」
「ううん。そんなことないよ。僕こそ授業中に押しかけてごめんね」
「それより駅が騒がしいけど、どうしたのかしら」
「なんでも人身事故だって。代替えのバスが出てるから、それでいつもと違う雰囲気なんじゃない?」
「そう‥‥それよりも店に入りましょう」
人気のハンバーガーショップだけあって人の列ができていた。
どれにしようかな‥‥なんかこういったファーストフードもひどく懐かしく思えてくる‥‥‥それほど過酷な状況だったからだ。
僕はレタスとトマト、そしてとろけたチーズの入った特製モフバーガーにポテトとモフシェイクを頼んだ。
詩穂さんはテリヤキモフバーガーとモフシェイクだった。
「私‥‥男の子とこんな店に入ったことないから緊張するわ」
「僕も男の友人としか来たことないから楽しみだよ」
テーブルに座って仲良くハンバーガーを食べる。
久々に食べたパンの味、そして病みつきになるポテト、冷たく口の中に広がるシェイク‥‥美味しい。確かに美味しい。
しかし‥‥詩穂さんの料理の方が美味しく感じるのはなぜだろう。
「ねぇ‥‥私たち。周りからどういう風に見られてるかな」
「どうって‥‥カップルかな‥‥‥」
僕はそこまで言って自分が恥ずかしくなった。
「これって、デートよね?」
「そうだね‥‥‥デートだね」
詩穂さんも顔がみるみる紅潮してきた。
ヤバい‥‥‥このあとどうすればいいんだ?
恋愛初心者の僕には、どうしたらいいかわかんない。
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