第23話 神殿の主③

 薄暗い広間でインペリアルオークと対峙するふたり。


 詩穂さんの手から炎が放たれる。

 だが、オークは何事もなかったかのように戦斧で炎をかき消した。


 そして、僕の背に悪寒が走った。


「詩穂さん離れて!」


 警告を放つも遅かった。


 ビリッと一瞬電気が体を通ったような感じ、これは霧豚も使ってきた一瞬身体が硬直する特殊攻撃だった。


 そこに戦斧の一撃が迫る。

 鈍く響く音と共に盾が砕け散った。


 危なかった。回避が間に合わなかったら僕はあの盾のようになっていた。

 とっさの判断で盾をオークに投げつけ攻撃を反らしたのだ。


 これで盾も失った。もうこの手は使えない。


 ならばと、しゃがみ込んだ姿勢から、オークにカエルジャンプのように高々と跳躍しその剣をオークの肩口から真下に向かって振り下ろした。


 傷口は結構深いように見えるが、皇帝オークは平然と僕に向かって戦斧を振りかぶってくる。

 振り下ろされた戦斧と僕の剣が交差した。


 パキンと音を立て剣の刀身が半分に折れた。

 オークは追撃するように戦斧を振り上げる。

 マジか? こっちは剣を折られ手が痺れているんだぞ。


 だが、その戦斧は振り下ろされることはなかった。


 オークの背後から詩穂さんの槍の一撃と、こずえちゃんの矢がオークの背に刺さったからである。

 そこに獣人化した犬猿の飛び蹴りが皇帝オークの後頭部にヒットした。


 さすがの皇帝オークも連続攻撃に怯んだようだ。

 しかし、致命傷には程遠い。


「ありがとう。だが、みんな気をつけろよ」


「おう。お前ばかりカッコつけさせるかよ。少しは俺も活躍しないと女の子にモテないじゃないか!」


「先輩そんなこと考えてたんですか? 今はそれどころじゃないでしょう!」


 僕も以前同じことを考えていたことなど忘れたかのように古橋先輩を叱咤する。

 でも、その心情は痛いほどわかる。

 動機は不純でも結果が出せればそれでいい。


「ブホォォォォォォ‼」


 皇帝オークがひと際大きく雄叫びを上げた。

 

 戦斧をかざし溜めるようなこのモーションは?


「散開!」


 僕の声でオークの一番近くにいた古橋先輩も瞬時に距離を取る。

 皇帝オークの特殊攻撃だ。


 しかし、そう何度も同じ攻撃を喰らうわけにはいかない。

 大技を繰り出した隙をついて折れた剣の残りの刀身でオークに一撃入れる。

 そこに追撃の矢がオークの右目に突き刺さった。


 皇帝オークの苦悶の声が広間に響き渡る。


「今だ! 畳みかけろ!」


 僕の剣が、詩穂さんの槍が、古橋先輩の蹴りがオークに降り注ぐ。


 それでもオークはまだ倒れない。


 そこに深追いした古橋先輩をオークの張り手が襲った。


 派手に吹っ飛ばされ床に転がる先輩。

 だが、その動きは無駄ではなかった。

 僕は詩穂さんからショートスピアを借り受け、オークへと跳躍した。


 狙うはその首! 筋肉という鎧に覆われた皇帝オークでも弱点である喉元は鍛えられないはずである。


「うおおおぉぉぉぉぉぉっ‼」

 

 全身全霊の力を込めた槍の穂先が皇帝オークの喉元を捉えた。


 皇帝オークの巨躯が力を失ったようによろけ、そして粒子となり盛大に四散した。

 


 倒せた! 神殿の主であるインペリアルオークを倒せた!


 そう思った刹那、僕と詩穂さん、こずえちゃんの3人は宇宙空間のような場所に浮くように立っていた。


「えっ!? なに?」


 突然の事態におどろく僕たち。

 宇宙空間のような謎の場所、空気はあるようで息はできる。


 綺麗な星々。また変な所に飛ばされたものである。

 僕がそう思ったとたんに一番明るい星の輝きが眩しいほど大きくなっていく。


 あまりの眩しさに手で目を覆った。


 そして、優しそうな女性の声が直接脳に語り掛けてきた。


〔わたしの選びし子たちよ。よくぞ試練を打ち勝ちましたね。まずはファーストステージクリアおめでとうと言っておきましょう〕


 試練? 私の選びし子たち? ということはこの声の主が僕たちをこんな目に遭わせた張本人? いや張本神か?


〔そう、わたしがあなたたちを選んだ神、○を司る神○○○○○です。あなたたちを選んだわたしの目は正しかったようですね〕


 なんだ思考を読まれているのか? それに肝心な部分が聞き取れないぞ。


〔ごめんなさいね。あなたたち人間には理解できない発音みたいね。これはどうしても理解できない種族としての壁だから気を悪くしないでね〕


「神様の目的は何です? 私たちを使って何をしているんです? それにファーストステージって何ですか? まだ次のステージがあるってことですか?」


 詩穂さんの質問はもっともだった。

 さあ、自称神様の言い分はどうだ? どう答える?


〔ごめんなさいね。それは教えられないの‥‥でも安心して、わたしはあなたたちの味方よ。そしてこれからも見守っていくわ〕

 

 それはどういう意味ですか?


〔ごめんなさい。そろそろお別れの時間が来てしまったわ。じゃあこれからもあなたたちに○の加護があらんことを‥‥〕


「待って、まだ聞きたいことがあるの!」


 詩穂さんの言葉を待たずとして眩しい光が消えた。

 静寂に包まれる空間。


 そして、世界が歪む‥‥





 気が付くと皇帝オークと死闘を繰り広げた広間に立っていた。


 手にはショートスピアが握られている。


 僕たちは元いた神殿の地下広間へと戻されたようだった。

 さっきのはいったい‥‥


 僕たちはお互いの顔を見る。

 詩穂さんたちもまだ理解していないようだった。


 しかし、わかっていることがある!

 それは‥‥‥


 僕たちはインペリアルオークとの戦いに勝利したということだ!


「ウッシャァァァァ――――――ッ‼」


 僕は槍を頭上に高々と掲げ全身でガッツポーズを決めた。

 その雄叫びで我に返った詩穂さんが僕の元に駆け寄ってくる。


 僕たちは互いに生き延びたことを喜ぶように抱擁した。


「私たち、あのオークに勝ったのね」


「ああ」


「神様にもあったね」


「ああ」


「優しそうな綺麗な声だったね」


「ああ」


「‥‥‥‥私のこと‥‥好き?」


「ああ」


「もう、しか言わないのね」


「ああ」


「‥‥‥もういいわ」


 僕たちはその後、無言で抱きしめ合った。

 詩穂さんの華奢な肩を抱きながら高鳴る鼓動を抑えることができなかった。

 抱きしめ合い唇を重ね合った。



 

 



「おサルの先輩しっかりしてください」


 こずえちゃんの言葉に僕たちは現実に引き戻された。

 詩穂さんの温もりをいつまでも感じていたいがそうはいかない。

 戦いに勝利したとはいえその犠牲は大きかった。

 古橋先輩は? 篠木さんはどうなった?


「‥‥‥生きてるの‥‥これ?」


 獣人化した先輩は思いのほか丈夫なようで意識は失っているが息はある。

 ボロ雑巾のような体も、ちぎれた片腕以外は回復の水でなんとかなりそうだ。


 篠木さんの方はと思い近寄ろうとしたところ、詩穂さんに止められた。


「涼真君はあっちに行っててください!」


 チラリと見た篠木さんは五体こそ満足だが、着ていたはずの制服は破かれ黒の靴下以外は身につけておらず全裸の状態で寝かされていた。


「ご、ごめん‥‥」


 詩穂さんに睨まれたので謝って目を反らした。

 いつから意識がないのかわからないけど、きっと皇帝オークに酷いことをされたに違いない‥‥惨いことを‥‥‥


 しょうがないので扉を確認することにした。

 フロアのボスを倒したことで鍵は解除されたはずだ。


 しかし、大扉は施錠されたままで開きそうにない。

 どういうことだ? まだ先に進めということか?


 僕はスマホを見た。


 涼真 LV5 インターバル時間 4,311:24


 なんだインターバル? 自称神様は次のステージと言ってたのを思い出す。

 その時間がこの時間か‥‥えっと‥‥約3日かな。

 このカウントが0になったときに次のステージに進めると言ったところか。


 それまでゆっくりできるとして、この後どうしろと?

 広間に閉じ込められてんですけど。

 ねえ、神様‥‥女神様教えてくださいよ。


 しかし、当然のように反応はまったくない。

 いかん、これではまるでアホの子のようだ。


 しょうがないので広間の奥に行ってみることにした。

 広間の中心から奥はまだ行ったことがなく、薄暗いせいで全体が見えないので先がどうなっているのかわからない。


 だだっ広い広間を抜けると、そこには豪華な装飾の施された扉があった。


 僕は詩穂さんたちを呼びに行き扉を開けた。

 ちなみに古橋先輩は僕が、篠木さんはこずえちゃんの上着を着せられ詩穂さんたちが運んでくれた。


 扉の先には小部屋になっており、床には青白く光る魔法陣があった。




  〜〜 あとがき 〜〜

 お読みいただきありがとうございます。

 ファーストステージをクリアした3人。

 その3人の冒険が気になった、続きを読みたい

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