第16話 遭遇④

「ジャジャーン!! 今夜はラーメン風なんちゃって麺よ」


「麺? ラーメンなの?」

「食べてみたらわかるわよ」

「いただきます」


 見た目は確かに醬油ラーメンだった。

 茶色のスープにチャーシュー代わりの豚ロース、薬味のネギっぽいもの、そして謎の麺‥‥匂いもラーメンの匂いだ。

 でも、どうやって麺を? 


 謎の細長い麺を口に運ぶ‥‥あっ! これは‥‥


「詩穂さんわかった! この麵大根でしょ」

「正解! 大根見つけたでしょ。それを細切りにして麺に見立てて、骨付きの豚肉で出汁を取ったスープと合わせてみたの」

「それで醤油が必要だったんだね」

「そそ。おかわりもあるからいっぱい食べてね」

「あちがとう。いただくよ」


 細切りにした大根、シャキシャキの歯ごたえがあって食べやすい。スープも濃縮された旨味に大根の甘みが加わり絶妙なあっさり感が美味しいかった。

 チャーシューの代用品だという豚ロースも味付けがしっかりされておりスープとよく馴染む。これに白いご飯があれば最高なのに残念でならない。


 詩穂さん特製ヘルシー?ラーメン風大根麺を頂いたあとのリンゴも美味しかった。

 ウサギのようにカットされた皮を見たのはいつ以来だろうか。

 子どもの頃に遠足のお弁当に入っていたのは覚えている。


 なんだろう、この幸せ感‥‥好きになった女の子の手料理食べれたからか。

 それとも、この生活が気に入っているのか‥‥帰りたいはずなのに帰りたくない自分も確かにいる‥‥どうしたらいいんだろう。



「涼真君‥‥お願いがあるの‥‥」

「どうしたの? もう寝る時間?」

「ううん‥‥その前に‥‥少し部屋使いたいのだけどいいかしら?」

「それはいいけど、どうしたの?」

「いいからこのお湯、あっちの部屋に運んで」


 お湯で僕は理解した。詩穂さんはお風呂に入りたいのだと。

 お風呂といっても湯船もなくシャワーもない状況でできるのは体を拭くくらいなものだ。それでも長時間森の中をさ迷っていたのだから汗や汚れを拭くだけでも大分違うだろう。詩穂さんが終わったら僕もお湯使わせてもらおう。


「じゃあ、お湯ここに置いとくね」

「ありがとう。覗かないでね」

「なっ! 覗くわけないだろ」

「でしょうね。涼真君はそんなことできる男の子じゃないもんね」

「‥‥それはどういう意味?」

「さあ、どうでしょう? それより早く出ていってくれるかしら」

「ご、ごめんなさい」


 慌てて部屋から出る僕。


 扉を挟んだ状態で詩穂さんが体を拭いていると思うとドキドキする。

 詩穂さんって胸も大きいしスタイルいいよな‥‥

 ああ、詩穂さん‥‥詩穂さんの黒髪、吸い付きたくなるような唇、魅惑の胸の膨らみと眩しいおみ足‥‥どれをとっても素敵である。


 覗きたい! だがそんなことして嫌われたくない。

 詩穂さんは僕を信用してくれてるし、覗いて今の関係を壊したくない。

 だが、除きたい! 


 いかんいかん! この二日間ずっと詩穂さんと行動してて溜まっているみたいだ。

 この場にいたら覗いていなくても詩穂さんに気持ち悪がられてしまう。

 水でも飲んで気持ちを落ち着かせよう。


 ヤバいな‥‥詩穂さんの湯浴みする姿を想像したら勃起が止まらない!


 落ち着け‥‥落ち着け‥‥落ち着け‥‥‥


 そう思っていると突然扉が開いた。


「あちがとう‥‥涼真君も体拭いてくるといいよ」

「う‥‥うん。そうさせてもらうよ」


 見られた! 詩穂さんに勃起してるとこ見られた!

 どうしよう、メッチャ恥ずかしい。

 そうだ逃げよう。ここは逃げるのだ!


「あっ! 涼真君待って!」

「え?」

「下着洗濯するからパンツ脱いで置いといて」

「洗濯? 詩穂さんが?」

「そうよ。替えの下着ないから洗濯しとかないと明日困るでしょ」

「そうかもしれないけど僕は遠慮しとくよ」


 この現状でそれはヤバい! ヤバすぎる!

 その理論だと詩穂さんは今ノーパンノーブラということになる。

 そう思うと白いシャツの膨らみが気になって仕方がない!


「遠慮しなくていいから! ホントはシャツも洗いたいとこだけど、そうすると着る物なくなっちゃうから我慢するんだから‥‥ほらさっさと脱ぎなさい!」

「い、今ここで!?」

「そうよ、文句は受け付けません!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!





 しくしく‥‥詩穂さんに全部見られた‥‥

 もうお婿にいけない‥‥

 

 詩穂さんにパンツを剥ぎ取られた僕は、逃げるように部屋に駆け込んだ。


 そこには桶に入ったお湯とタオル代わりに使った詩穂さんのブラウスがあった。


 ‥‥‥‥これ‥‥詩穂さんが使ったやつだよな‥‥‥



 詩穂さんすみません。ありがたく使わせていただきます。




 ううぅ‥‥ノーパンでズボンを履くと気持ち悪い。


 毛布を持って土間に行くとそこには――――

 僕のトランクスと一緒に白い一対の布が干してあった。


 上下お揃いのそれは神々しく、このまま飾っときたいくらいに美しかった。


「こらっ! そこじっと見つめない!」

「すみません!!」


 詩穂さんに怒られてしまった。

 それより、どう詩穂さんに接すればいいんだ?

 詩穂さんは僕のアレももちろん見たんだろうし、パンツも洗ってくれた。

 恥ずかしくて顔は見れないけど本題はこっちだ。


「これ毛布‥‥これを使えばシャツも洗濯できるでしょ」

「でも、これ一枚しかないよ」

「うん。だから詩穂さんに使ってほしいんだ」

「ありがとう。じゃあ遠慮なく使わせてもらうわ」


 あれ? 詩穂さん意外と普通だ‥‥なんで?

 僕を男として見ていない?

 それとも、これくらいじゃ動じないとか‥‥

 男のアレも見慣れてる?

 ハハハハハ‥‥やめよう深く考えるのは‥‥


 洗濯物も竈に火が入った土間なら明日の朝?までには乾いているだろう。


「いつまでそこにいるつもり?」

「えっ?」

「私、洗濯したいからシャツ脱ぎたいのだけど‥‥それとも、やっぱり私の裸見たいのかな~? ふふふっ、健全な男の子だもんね。当然よね」


「ち、違います! 違わなくはないけど違います!」


 小悪魔な発現をする詩穂さんから逃げるように部屋を出た。


 まったく、あの人はなんてこと言うんだ‥‥せっかく落ち着いた心もアレも再び燃え上がってしまったじゃないか‥‥どうしてくれんだよ。

 

 もう寝よう。今日は戦闘で疲れたし明日に備えて寝よう。


 煩悩退散煩悩退散煩悩退散‥‥



「あれ? 涼真君寝ちゃった?」


 詩穂さんが毛布姿で部屋に入ってきた。

 てことは毛布の下は真っ裸‥‥

 その姿のまま隣のベットに入った。

 つまり、隣には裸の詩穂さんが寝ているということになる。


 煩悩退散煩悩退散煩悩退散‥‥煩悩退散!




「涼真君‥‥起きてるでしょ。涼真君のこと教えてよ。家族構成は?」

「両親と妹の4人家族」

「妹かぁ‥‥歳はいくつ?」

「歳は離れてて今9歳だったかな」

「小学生かぁ‥‥可愛いんだろうね」

「そんなことないよ、生意気な小娘だよ」

「いいなあ、私ひとりっ子だからそういうのあこがれるな」


 突然始まった詩穂さんとの会話。

 家族の話から住んでいる町の話まで様々だった。

 今がチャンスだ。今なら自然な流れで詩穂さんの情報を聞き出せる。


「詩穂さんって恋人いるの?」


 言った! 言っちゃった。


「恋人? 恋人はいないかな‥‥でも、気になる人はいるかな」


 そっか‥‥そうだよな。詩穂さん、美人だし好きな人くらいいるよな。


「私こんな地味な容姿だし、学校では目立たない存在なの‥‥」


「地味? 詩穂さんが? それはおかしいと思うな。詩穂さんはスタイルも見た目も綺麗だと思うのに‥‥西高の連中は見る目がないな」


「もう、涼真君ったらお世辞が上手いんだから」


「お世辞じゃないよ。僕は詩穂さんのこと素敵だと思うし、料理もできる詩穂さんの彼氏になれたらってどんなに思ったことか‥‥」


「涼真君‥‥わたし、さっき気になる人いるって言ったよね。その人は私のピンチを助けてくれた人なの‥‥ちょっと頼りないとこもあるけど根は真面目で私のこと大事にしてくれる私の騎士様よ」


「詩穂さんそれって‥‥」


「そう‥‥私の気になる人ってのは涼真君あなたのことよ」




 〜〜 あとがき 〜〜

 お読みいただきありがとうございます。

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