第15話 遭遇③

 巨大豚が穴に落ちた。


「すげえなこの穴」


 約3mの巨大豚がすっぽりはまるほどの深度の深い穴。

 この穴を掘ったのは岩木呂君のスキル[アナヲホルモノ]


「やったか!?」


 古橋先輩がそう呟いた。あっ、それ言っちゃダメなやつ・・・そう思った刹那、穴を覗き込んでいた古橋先輩を風の刃が薙ぎ払った。


「ぐああああぁぁぁ!!」


 先輩の絶叫が辺りに木霊する。


「先輩!」


 急いで先輩の元に駆け寄り、持っていた水筒の水を傷口に振りかけた。

 女神像の泉の湧き水の効果はすさまじく先輩の傷がみるみるうちに癒えていく。

 なんとか一命は取り留めたようだが戦力低下は免れない。


「詩穂さん! 火魔術で攻撃をお願いします。豚の魔法は僕が防ぎますから安心して攻撃してください」

「ええ、わかったわ」


 僕が詩穂さんの前で盾を構え守りながら、背後から詩穂さんが炎の矢を放つ。

 盾に風の刃の衝撃が響く。

 盾の耐久力と巨大豚の生命力、はたして先に無くなるのはどっちだ。


 穴から巨大豚の叫び声が聞こえる。

 登ろうとしているようだがその都度、岩木呂君のスキルで再び落ちていく。

 どんだけしぶといんだこの豚。


 炎の矢を放つ詩穂さんも辛そうだ。このままでは魔力切れを起こしてしまう。


「詩穂さんは少し休んでいて」

「ごめんね。その代わりにこれを‥‥」

「ありがとう」


 詩穂さんから受け取ったのはショートスピアだった。

 盾を置き槍を持つ手に力を込める。


 そして、力を込めた槍を巨大豚の顔目掛けて槍を放った。


 ショートスピアは巨大豚の額の第三の目に突き刺さり、断末魔の叫びが聞こえた。


 巨大豚が粒子となって四散した。


「終わったみたいね」

「ああ、こうも強いなんて思わなかったよ」

「岩木呂君の落とし穴のお陰で倒すことができたよ」

「いや、こっちこそ倒してくれてありがとう」

「それに倒したのは君たちだ」


 これは二組の連携プレーの勝利といっても過言ではない。

 倒したのは僕たちでも、それをお膳立てしたのは古橋先輩や岩木呂君だ。

 僕たちだけでは倒せなかったかもしれない。

 仮に倒せたとしても長期戦は必然であり怪我をした可能性も高い。

 

 さてと‥‥お宝ちゃんはないかな?


 改めて縦穴を見るとかなり深い。

 そして、底には宝箱があった。


「宝箱!」


 穴に飛び降りたのは傷が癒えたばかりの古橋先輩だった。

 僕もそれに続いて穴に飛び込んだ。


「開けるぞ」

 

 先輩が装飾の付いた大き目の宝箱を開ける。

 ドキドキ! ワクワク!

 中に入っていたのは、生肉と魔石が幾つかと緑色に輝くメダルだった。


「しゃあぁ!! 豚肉だぜ豚肉!」

「これは豚バラと豚ロース?」

「おうよ。これで肉が食えるぜ! 焼いたら旨そうだ」


 僕たちは生肉を拾い上で待つ詩穂さんたちの元にジャンプした。


「どう分配する?」

「そうね‥‥あーしらは3人、あなたたちは2人、肉は多くもらうわよ」

「3人って篠木さん何もしてないじゃん」

「なにかいったかしら?」

「なんでもないです‥‥」


 虚勢を張る篠木さんにビビッてしまった。


「なら、メダルは私たちがもらうわ。それなら肉の分として同等でしょ」

「おけまる。なにに使うかわかんないメダルなんか、あんたたちにあげる。それよりこれからどうする? まだ探索続ける? それとも引き返す?」


 これは悩む選択肢だ。

 ここがどの辺りかわかんないけど中ボスみたいなモンスターが出るくらいだ。森林エリアの中心か、さらに奥に近いところだと推測できる。

 もう少し進めば神殿があるかもしれない。ないかもしれない。

 戦闘とここまでの距離を歩いてきたことで疲労も溜まっている。

 豚肉も手に入ったことだし引き返して、休息を取った後に出直すというのも手だ。


「いったん引き返しましょう」

「詩穂さん。詩穂さんがそうしたいなら引き返そう」

「なら決まりね。ほら、あんたたち帰るわよ」

「はい」


 こうして僕たちは引き返すことにした。


「でも詩穂さん、ここまで来て引き返して良かったの?」

「そうね。先に進めば何かあったかも知れないけど、疲労も溜まり回復の水も使っちゃったでしょう。引き返した方が正解よ」

「確かに引き際としてはいいタイミングかもね」

「でしょ。また強いモンスターと遭遇するかもしれないし、どうせなら万全な状態で挑みたいわ。先を急ぐのも大事だけど命はもっと大事だもの」

「だね。さすが詩穂さん」


 リスクを冒して先に進むことも大事だがそれは生きていてこそのもの、急がば回れとはよくいったものだと思う。


 しばらく歩いた所で篠木さんたちと別れることにした。


「じゃあ、13時間後にまたあーしらの所に集合でいいっしょ」

「それでいいよ」

「イチャイチャして寝坊すんなよ」

「しねーよ!」


 まったく、なんてこと言いやがるんだあの人は‥‥


「篠木さんと仲いいんだね」

「そう見えるの? クラスでは全然話したことないよ。篠木さんみたいなカースト上位者が僕なんか相手しないって」

「でも、涼真君と楽しそうに話してたよ」

「そりゃあ、取り巻きがアレだからじゃあない?」

「あははは。なるほど‥‥そう、そうだよね」

「変な詩穂さん」


 なんだろう? ひょっとして詩穂さん、僕が篠木さんと仲いいと思ってヤキモチ焼いたの? ‥‥なわけないよな。

 いくら何でも自意識過剰だよな‥‥


 しばらく歩いて行くと見覚えのある廃墟とリンゴの木があった。

 

「なるほど、ここに出るのか」

「ついでだからリンゴ採って帰りましょう」

「そうしよう」


 リンゴをリュックに詰め込み自分たちの扉へと帰ってきた。


 帰ってきてそうそう女神像の元へと向かった。

 強敵も倒したしレベルアップも期待できる。

 そして、なんといっても泉の水が飲みたかったのである。


 泉の水には回復効果がある。

 疲労困憊の状態には最適であるからだが、その水を飲んだときのリフレッシュ感がたまらない。まるで疲労を溶かしてくれるような爽快な気分になる。


「そうだ詩穂さん。コップ貸して」

「どうするの?」

「こうするの。ふぬぬぬぬ!!」


 リンゴを搾りリンゴ水にしたのだ。


「わあぁぁ! すごい、ありがと」

「どういたしまして。じゃあ、僕も自分のを」


 うまっ! 女神像印のリンゴの天然水うまっ! 

 これもし日本で売ったら大ヒット間違いなしだよ。

 それほど美味しい水だった。


 そして、二人共レベルが上がった。


 僕は水魔術をLV2に、詩穂さんは槍術そして気配察知を習得した。

 直接戦闘をすることは少ないかもしれないけど、護身用には必要だと判断したからにほかならない。


「ご飯作るからちょっと待っててね」

「わーい。今度は何かな~」

「涼真君お願いがあるのだけど、魔石の交換でお醤油ダメかな?」

「醤油? 魔石も溜まってきたし別にいいけど何作るの?」

「ふふふふふ。できてからのお楽しみよ」


 なにこの可愛い女の子‥‥

 そんなことされたら、いつまでもここに居たくなってしまうじゃないか。


「そうだ涼真君。寝るとこベットが一つしかないでしょ。今夜も床で寝たら流石に可哀想だからベット運んできたら?」


「ええっ!? それって今夜も一緒の部屋で寝るってこと?」


「当り前じゃない。私はこんなとこで一人で寝るの嫌よ」


 あかん‥‥このパターン詩穂さんが言いだしたら反論は聞き入れないやつだ。

 ここはおとなしく指示に従おう。

 僕を信頼してんのか、それともホントに一人で寝るのが怖いから?

 それとも‥‥誘ってるのか‥‥考えすぎだよな‥‥‥


 とりあえずベット運ぼう。


 ん? この部屋の作りというか扉の位置‥‥なんか変じゃないか? 

 気のせいかな‥‥変なこと考えてるからいけないんだなきっと。

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