第19話 森の神殿③
やったね。二人ともレベルアップした。
これでレベル5になった。
僕は身体強化をLV2に。
詩穂さんは目的の土魔術を、そして余りのポイントは温存することにした。
何か必要なことになるかもだし、なければ火魔術を3に上げるには3ポイント必要だから温存しておくのも必要だと相談した結果だった。
「これで先に進めるわね」
「ああ、この先がどうなってるのかわかんないけど今更だしな」
「そうね。今まで通りやれることをやるだけだわ」
いつ終わるかも何もわかんない状況、不安と恐怖に押しつぶされないのは詩穂さんという存在がいてくれるからにほかならない。
彼女がいるからこそ頑張れるし、体を張って彼女を守ろうと思う。
傍らに眠り続ける少女のようにはしたくない。
「彼女起きないわね」
「生きてはいるが、これがどういう状態なのかわかんない限り待つしかないな」
「ええそうね‥‥それより、ご飯作るからちょっと待ってて」
「詩穂さん僕も手伝うよ」
「ありがとう。じゃあ甘えちゃおうかしら」
詩穂さんのはにかむ姿を見ながらのお手伝い。
ああ癒しだ‥‥これは癒しだ‥‥癒しに違いない。
殺伐とした迷宮のオアシス、これはまさに彼女のことのようだ。
「あああぁぁ! 米! 米が食べたい!」
「もう、贅沢言わないの!」
「だって、こんな美味しい肉があるのに白米がないんだよ。焼肉には白米でしょ!」
「はいはい。元の世界に戻れたら、いっぱい食べさせてあげるから我慢しなさい」
「へっへっへ。言質取ったもんね。これで約束破ったら泣いちゃうからね」
「ご飯でもデザートでも作ってあげるわよ。だから子どもみたいなこと言わないで早く食べなさい」
「は~い」
詩穂さんとの楽しい夕食タイムが終わり、昨日に引き続き一日の汚れを落とす時間がやってきた。
日に日に大胆な行動に出る詩穂さん。
昨日はアレも見られてしまい下着も洗濯された。
このままでは僕の理性が崩壊しそうだ。
扉の先には詩穂さんが体を拭いている‥‥恋人になったことだし、ちょっとくらい覗いても‥‥いやいやいやダメだろそれは。
「ふう、さっぱりしたわ。涼真君もどうぞ」
「ぶっ! なななっ! 詩穂さんその格好は‥‥」
扉を開けた詩穂さんのあられもない姿に唖然としてしまう。
いや、これから洗濯するんだし、どうしようもないのはわかってるけど‥‥あまりに堂々としたその姿に見てるこっちが恥ずかしくなってしまう。
「エッチな涼真君は私の残り湯で何するのかな~」
「な、な、な、な‥‥なんてこと言うんだ。ただ体拭くだけだよ!」
「あっやし~ まっ、そういうことにしといてあげるから早く綺麗にしてきなさい」
バレてます。しっかりバレてます。
僕は逃げるようにその場を後にした。
気まずい‥‥‥
何が気まずいって‥‥彼女が僕のパンツを洗ってくれているからだ。
その頭上には彼女の身につけていた僕のワイシャツと白い魅惑の布たちが堂々と干されている‥‥しかし‥‥あれ何カップあるんだろ?
花柄の刺繍の入った可愛らしいそれは僕を誘惑するようにそこに存在している。
ごくりと唾を呑み込む。
少し手を伸ばせば濡れたそれに手が届く。
その持ち主も抱きしめれる距離にいる。
しかし、恋愛初心者の僕にはどうしたらいいのかわからない。
一歩踏み込むべきか現状維持か‥‥
結局‥‥僕は何もできませんでした‥‥
僕は意気地なしです。
しかし、焦る必要はない。
まだ僕たちの仲は始まったばかりだから‥‥下手にドジを踏んで嫌われるようなことは避けねばならない。
それは恋人としても迷宮を生き残るパートナーとしても、彼女は大事な存在なのだから関係が悪化しては元も子もない。
僕は部屋で今後のことを考えていた。
そこへ洗濯を終えた詩穂さんが部屋に入ってきた。
それはいい、だがなぜか僕の隣に座り身体の一部が密着させてくる。
「詩穂さん!?」
「べ、別にいいでしょ‥‥これくらい‥‥私たち恋人なんだし、涼真君だって嬉しいでしょ? それとも嫌?」
「嫌じゃないけど‥‥むしろ嬉しい‥‥‥」
「ならいいでしょ」
「う、うん‥‥‥」
な…なんだ!? この状況‥‥隣には毛布に包まった詩穂さん。
その詩穂さんが僕に寄りかかっている。
毛布の中には何も着ていない状況でそれはどういう意味だ?
ヤバい‥‥考えるまでもなく興奮してきた。
「急に喋らなくなってどうしたの? もしかしてこの姿が気になる?」
「う、うん‥‥」
「私ね‥‥涼真君に会うまで恋愛とかしたことなかったの‥‥恋人同士になったふたりがどんなふうに付き合ってるのかも知らない‥‥篠木さんにも話したけど‥‥これからどうしたらいいか全然わからないの」
「詩穂さん‥‥僕は詩穂さんのこと誤解してたみたい。堂々としてるし、てっきり経験豊富なのかなって思ってたりしたこともあった‥‥でも、詩穂さんも僕と同じ恋愛初心者なんだね」
「あれはその‥‥だって‥‥汚れてたら嫌じゃない? 臭ったら涼真君に嫌われちゃう。涼真君のアレだって初めて見たし内心凄いドキドキしたんだから‥‥」
頬をうっすらと赤く染め少し照れくさそうに黒髪をいじりながら話す詩穂さんと、何事もなかったかのようにアレとパンツを洗う詩穂さんとはまるで別人のように思えてしまう。
そして、詩穂さんは熱い眼差しで僕を見つめてくる。
「ねえ‥‥キスっていうの‥‥してみたくない?」
「き、キス!?」
キス! キスとは愛情を相手に伝える一般的な手段。
外国では挨拶や儀礼として公然と頬や手の甲にキスをする風習がある。
そして、好き同士の男女がお互いの愛を確かめるキスもある。
詩穂さんのいうキスとは‥‥その唇と唇が重なる特別なキスのことだろう。
マジ? まじですか?
「ぼく、初めてだけどいいの?」
「うん。私も初めてだから‥‥」
すると詩穂さんは目を閉じ小さく顎を突き出してくる。
赤く染まっていた頬がさらに真っ赤になているが、僅かに身体を震わせている。
そうか‥‥詩穂さんも無理してんだな。
そんな詩穂さんの様子を見て僕は自分の心が熱くなるのを感じた。
僕は詩穂さんの頬に手を添えて、緊張しながらゆっくりと顔を近づける。
そして、そっと唇を重ねた。
詩穂さんの艶やかな吐息。
詩穂さんの匂い。
詩穂さんの温もり‥‥‥
それらすべてが僕の思考を鈍らせ、何も考えられなくさせていく。
「‥‥きて‥‥起きて! 涼真君ったら」
詩穂さんの声が聞こえる。
もう朝か? 溜まっていた疲労のせいで長い時間寝ていたような気がする。
もうちょっとだけ、この幸せの詰まったベットで寝ていたい。
「涼真君起きて! あの子が目を覚ましたの!」
あの子って誰だ? それよりもっと寝たい‥‥
ぎゅうううぅぅ。
「いたたたたたたたっ! 詩穂さん痛い! 起きたから、ほっぺたつねらないで!」
どうやら起きない僕に業を煮やして強制的に起こしにきたようだ。
どうせなら優しく起こしてほしい。
ほっぺをつねるのではなく、目覚めのキスとかで優しく起こしてほしい。
「もう、全然起きないからでしょう! それより大変! 女の子が目を覚ましたの。早く一緒に来て!」
女の子とは三つ目の扉で石化していた少女のことだ。
全然目を覚まさず心配していたが‥‥そうか目を覚ましたのか。
これで一安心だな。
僕は少女のいる女神像のある部屋の扉を開けた。
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