第18話 森の神殿②
「よし! 次の像に行こう」
「おいおい! どうやったんだ?」
古橋先輩たちが駆け寄ってきた。
僕たちは戦士像のロジックを説明した。
こうなったら別行動をする必要もないから一緒に行動することになった。
次の戦士像は斧を持っており紋章は風を示している。
つまり属性に例えると緑が当てはまる。
緑といえば手元には緑色に輝くメダルがある。
「メダルをハメるよ」
緑色のメダルを戦士像の鎧の窪みにはめると頭上の松明に火が灯った。
「よし! 残り二つ」
「‥‥ねえ、その理論だと‥‥水は涼真君が使えるとして土はどうするの?」
「「「あっ!」」」
詩穂さんの指摘に全員?が声を上げたと思う。
じゃっかん1名無口な人もいるが、そこは今気にすことじゃない。
「メダルはモンスターのドロップ品でしょ? ならばモンスターから入手するか、レベルアップによる土魔術の習得しかないと思うの」
「どのみち、モンスターを倒さないと先には進めないってことか」
「雑魚モンスターはともかく、巨大豚のような強敵は勘弁してもらいたいな」
「でも、そいつらがメダル持ってそうじゃない?」
「‥‥はぁ‥‥とりあえず、残りだけでも火を灯しましょう」
「だな。後のことは後で考えようぜ」
次の像は杖を持っている戦士像で紋章は水。
僕の水魔術で難なく火が灯った。
残る戦士像はハンマーを持った戦士像、紋章は予想通り土だった。
「で、どうする?」
どうするとはどっちを探すという意味だろう。
この神殿を中心に森のどちら側を探せば強敵モンスターと遭遇するかだ。
「確率的に三分の一、さあどっち」
なんでみんな僕の方を見てくるの?
まさか僕に決めろとでも? 冗談じゃない。
「先輩の野生の感は?」
「貴様馬鹿にしてんのか? ああん?」
「ソンナコトアリマセンヨ」
「まあいいだろう ――― クンクン ―― クン ―― こっちだ」
こいつがアホで助かった。
古橋先輩の感を頼りに森を進むと強敵の反応がある。
「やるじゃん先輩」
「だろ。俺だってやるときはやるぜ!」
森の奥にはこれまた大きな豚がいた。
スマホには[ミストボア] と表示された。
ミスト‥‥霧? なんか外れっぽいのは気のせいじゃないよね。
昨日の三つ目の巨大豚より一回りは小さいがそれでも2mくらいはありそうな大きな豚のモンスターだった。
「昨日と同じ作戦で」
「おう!」
僕と古橋先輩が先制攻撃を仕掛けた。
豚の左右に分かれての同時攻撃、剣が豚の胴体を捉えたと思ったが感触がない。
ええっ!? 豚の姿が霧となって消えただと‥‥
だが、気配察知はひしひしとその存在を告げている。
「先輩後ろ!」
辺りに漂う霧が先輩の背後に集まっていたのだ。
僕の声で気付いたのかどうかわからないが間一髪で豚の突進を躱した先輩。
そして、豚はまた霧状になって霧散していった。
「厄介だな。攻撃のチャンスはおそらくほんの一瞬、カウンターしかない」
そう、霧豚が実体化するのは攻撃を仕掛けるときのみ。
問題はその攻撃がいつ来るかだ‥‥なにせ全方位すべて霧に囲まれた状態、いつどこから来るのかも予測がつかない。
気配察知も霧豚が実体化する寸前までは曖昧な反応だからだ。
これでは岩木呂君の落とし穴も効きそうにない。
どうする? いったん退却するか? だがそもそもこの豚から逃げれるのか‥‥
来る! 今度は僕の背後だ。
ドオオオン! 突進を盾で受け止めた手が痺れ強い衝撃音が轟く。
だが、このチャンスを逃す訳にはいかない。
剣を豚の首目掛けて振り下ろした。
しかし、不安定な体勢からの攻撃では霧豚には致命傷は与えることができなかった。
霧豚は怒りの咆哮とともに再び突進してくる。
しかし、ただの突進なら回避は難しくない。
僕は霧豚の突進を危なげなく躱し、逆に胴体を切り裂いていく。
そこに追撃の炎の矢が降り注ぐ。
さしもの霧豚もたまらず霧状に体を変化させた。
今のでかなりのダメージを与えたはずだ。
最初に盾で攻撃を受けた腕が痛い。
これは折れたかもしれんな‥‥だが治療している暇はない。
霧豚がどこから襲ってくるかわからない状況での治療はリスクが高い。
気配察知が不快な感覚を察知した。これは今までとは違う感覚だ‥‥そう思った直後、一瞬だがビリッと電気が体を通ったような感じが襲ってきた。
これは‥‥攻撃か‥‥なにか一瞬硬直するような特殊攻撃か。
「きゃああああぁぁ!」
しまった油断した。霧の範囲外だと思っていた篠木さんたちの方に狙いを移したのか、霧豚が岩木呂君に体当たりを食らわしていた。
もろに体当たりをくらった岩木呂君は派手に吹っ飛ばされていく。
そして、次なる獲物を見つけた霧豚が詩穂さんたちを狙っている。
「間に合えぇぇぇぇ!!」
霧豚の突進が篠木さんに届こうとする直前、身体強化をフルに使ったダッシュからの突きが霧豚の腹に突き刺さった。
それが止めとなり霧豚が粒子となり消え、豪華な装飾の施された宝箱が現れた。
なんとか倒せた! そして、詩穂さんや篠木さんを守れたという安心感から僕はその場で倒れ込んだ。
「涼真君‥‥怪我は? すぐに治療を!」
僕を心配してくれる詩穂さんの顔が近い。
「僕より先に岩木呂君を‥‥」
「安心して、彼は篠木さんたちが見てるわ。それより涼真君も治療を」
左手の痛みが消えていく‥‥
悲痛な顔をした詩穂さんにも安堵の表情が戻った。
「見ろよこれ! すげえ肉と鞭と弓か。それと青のメダルだ」
―――― まったくこのサルは‥‥どうしようもないな。
幸いなことに岩木呂君もダメージは負ったが治療が間に合った。
意識は失ったままだが、じきに目を覚ますだろうとのこと。
やっぱりメダルはハズレか。しかしドロップ品は良いな。
魔石が10個、豚肉と[ショートボウ] [レザーウイップ] そして青色のメダル。
分配品は相談して魔石と豚肉は半分ずつ。
ショートボウは僕たち、レザーウイップは篠木さんたちが貰うことになった。
メダルは必要ないのだが一応僕が預かることになった。
どうでもいいけけどレザーウイップってまさか篠木さんが使うの? 猛獣使い? それとも‥‥いや考えるのはよそう。
「目的のメダルじゃなかったけどレベルは上がったと思うがどうする? 回復の水も使ったし強敵との連戦は避けたいとこだが‥‥撤収でいいか」
「あーしも撤収にさんせー。岩木呂もやられちゃったからね」
「じゃあ、それまで休憩だな」
ただ待っているのもアレなので、バナナ料理を詩穂さんに作ってもらった。
作り方は簡単。バナナをバナナの葉で包み蒸し焼きにするだけ。旅行番組などで南米とか赤道直下の辺りで食べられる現地料理ってやつだね。
黄色いバナナはもちろんだが、青いバナナも蒸すことによって甘みも酸味も増しておいしくなるらしい。
トウモロコシの粉があればモロに南国料理を味わえるのに残念だ。
お味の方はというと確かに甘くなり、青いバナナはどことなくカレーに入っているじゃがいもみたいになった‥‥なんか不思議な味がする。
お猿さんも美味しそうに食べていると、その匂いにつられたように岩木呂君が目を覚ましたようだ。
外傷も治り意識もしっかりしてきたのでこれで安心だ。
明日は神殿に現地集合することにして、これで解散することにした。
おそらくだが方角的に南方方向(仮)に進めば、自分たちの扉がある壁にたどり着けるはずである。
道中にもモンスターは出るだろうが強敵はこっちには出ないはずであり、雑魚なら魔術レベル2を使える僕たちなら安全に戦える。
案の定モンスターに何度も遭遇したが、身体強化と魔術を駆使して確実に仕留めていった。これでレベルアップは間違いないと思う。
しばらく進むと壁面が見えてきた。
ここまで来ればもう迷うことはない。
壁沿いに進むと僕たちの部屋がある扉が見えてきた。
「ただいま~」
「なんかもうここが私たちの家って感じね」
自然に出てしまった言葉に同意してくる詩穂さん。
女の子に免疫のない僕にとって詩穂さんのこういった言動はちょっと刺激が強すぎる‥‥これではまるで同棲しているかのように聞こえてしまう。
いや、実際には半同棲状態なのだが、これは迷宮という非日常空間なのだから仕方がないのである‥‥が、やはりどうしても意識しちゃう。
「レベルアップ楽しみだね」
「これでレベルアップしてなかったら怒るわよ」
「ははははは、違いないや」
女神像にスマホをセットすると電子音が部屋に鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます