第17話 森の神殿①

 詩穂さんと恋人になった。


 吊り橋効果もあるだろうが人生初の彼女ができた。

 これほど嬉しいことがあろうか。いやない!


 そうと決まればこんな所とはおさらばしたい。


 日本に戻り、詩穂さんとデートして手作り料理を堪能するんだ。

 進学希望の詩穂さんと同じ大学に行きキャンパスライフを満喫するんだ。

 その後どうするかは将来の僕が決めればいい。


 今! 今この時を生きているのは僕たちなんだから!


「涼真君は朝から元気ね」

「だって早く日本に帰りたいじゃん」

「そうね。そのためにも腹ごしらえは大事だと思うの」


 朝食をとったのち、女神像の間で準備をしていると以前気になった扉の配置が妙に気になって仕方がなかった。


「どうしたの?」

「いやね。この扉の位置がね‥‥僕たちが寝室に使っている扉が壁の中心、んでその隣が僕の目を覚ました部屋に繋がる廊下。じゃあその反対側のここ。左右対称にすると扉があっても不思議じゃないんじゃない?」


「言われてみるとそうね。篠木さんたちも3人いたし、ひょっとして私たちの他にも誰かの部屋が?」


「その可能性はある。詩穂さんの部屋も最初は無かったんだ。現れたのはおそらくミッションが関係していると思う。なんらかの理由でミッション失敗して部屋に閉じ込められた可能性も考えられる」


「なら早く探して助けないと」

「ああ、そうだな」


 だが、それっぽい所を探しても扉も隠し通路もなかった。

 諦めかけたころにふとスマホの存在を思いだし、壁に当ててみると壁が音を立てながら動きだし中から扉が現れた。


 僕と詩穂さんは頷きながら扉を開けた。


 真っ暗な長い通路、その先に進むと再び扉があった。


 その扉を開けると――――そこにはうずくまった少女の石像があった。


「石像? やけにリアルね。まるで何かに怯えているみたい」

「詩穂さん、この石像って元は人じゃない? ミッション失敗した女の子」

「だとしたら助けることできるの?」

「わかんないけどやれることはやろう」


 とは言ったもののどうすれば石化が解ける?

 何か状態異常の回復アイテムが必要なのかも‥‥回復といえば女神像の水しか思いつかない。


 少女の石像に水をかけると、石像が薄っすらと輝き石化が徐々に解けだした。


 石像が元の女の子の姿に戻っていく。

 この制服は詩穂さんと同じ西高の制服だな。


「詩穂さん、この子知ってる?」

「ごめんなさい。たぶん下級生だと思うけど知らない子だわ」

「とりあえずここはなんだ。部屋に運ぼうか」

「ええ、そうしましょう」


 彼女の前で知らない女の子を抱きかかえるのもどうかと思うが、詩穂さんそこは大人の対応をみせてくれたので安心した。

 ちなみに、抱きかかえたときに水玉がチラリと見えてしまったのは事故である。

 それにしても小柄な女の子だな。身長は140cmくらいじゃないか?

 制服着てなかったら中学生と間違えてしまいそうになる。


「目覚まさないわね」

「ああ、彼女のものだと思うスマホもカウントが [ 00:00 ] で止まったままだしこのまま目を覚まさない可能性もある」

「なら、やれることは少なそうね。彼女がいつ起きてもいいように食べ物と水を置いて私たちは先へ進みましょう」

「ああ、篠木さんたちの所に急ごう」


 名前もわからない女の子のことも心配だが、僕たちにもやることがある。




「遅いじゃない。まさかホントにイチャイチャしてたんじゃないでしょうね」

「‥‥まだ時間前だよ」

「なによその間と反応は? もう、それだけで二人の仲が進展したのかわかるっしょ。詩穂さん、そこのとこ後で詳しく教えてもらうからね」

「それより聞いて聞いて」


 僕たちは話を誤魔化すように石化した女の子の話をした。


「なるほろね。カウントが止まると石化しちゃってゲームオーバーか」

「でも、コンテニューはできそうだな」

「問題はその方法だな。時間なのかアイテムなのか謎が多いな」


「とりあえず昨日の続きへと進みましょう」

「おう」


 目指すは昨日巨大豚と激闘を繰り広げた場所。

 そこまでは往復したことで草木が倒れ、ちょっとしたけもの道になっていた。

 道中何度かモンスターと遭遇したが5人の敵ではなかった。


 そうしてしばらく進むと見覚えのあるバナナの木を発見し、さらに進むと大穴を発見した。ここが巨大豚と戦った場所で間違いなさそうだった。


「少し休憩してから奥へと進みましょう」

「OK! そうしよう」

「なら俺は体力あるからこの辺探してくるよ」


 古橋先輩は相変わらずサル、もとい野生児だな。


「さあ、邪魔者いなくなったし―、詩穂さん昨日の出来事話してもらうわよ」


 ふたりの女子は僕の制止を無視して恋バナを話始めた。

 ダメだこのふたり、こうなったら僕にできることはない‥‥だけど詩穂さんに余計なこと吹き込まないでくれよ。




「見つけた! 見つけたぞ! 神殿だ!」


 慌てたサル、じゃなくて古橋先輩がバナナを持って現れたのは、ふたりが恋バナで盛り上がっているときだった。


 古橋先輩の案内でバナナの群生地までくると、その先にあったのは、マヤ文明を訪仏させるピラミッドのような遺跡だった。

 石を切り出して組み上げられた遺跡は神秘的で、所々に豚をモチーフにした彫刻が彫られていた。


 ピラミッドの中に入るとそこは広い空間で、墓標や天文台とは違い確かに神殿と呼ぶに相応しい作りになっていた。


 その空間の中心部。


 そこには豚の顔をした戦士像が鎮座している。

 その戦士像の足元には何かの古代文字が刻まれていた。


「読めねえよ」

「待って、スマホをかざして見て」


 スマホを見ると古代文字が日本語に翻訳されていた。

 要約すると、この先に進む方法。四隅のトーチについての説明文だ。

 トーチに火を灯すには、それぞれ対応したアイテムか属性エネルギーが必要らしかったが、肝心のことが相変わらず書かれていない。


 それぞれ対応したアイテム? 属性エネルギー? なんだそれ?

 それがどんなアイテムなのか説明不足にもほどがある。

 唯一考え得るアイテムはこの緑色のメダル。


「二手に分かれて調べてみよう」


 とりあえず、部屋の四隅にある彫像を二組に分かれて調べてみることにした。

 こっちの組はもちろん僕と詩穂さん。


 僕たちが向かった先には槍を持った豚顔の戦士像が立っており、その頭上には火の消えた松明が飾られていた。

 

「たぶん、あの松明に火を灯すには、この戦士像をどうにかしないといけないんだと思う‥‥問題はその手段なんだけど」

「対応したアイテム‥‥メダルかしらね?」

「だと思うのだけど、これをどうすればいいのか、わかんないとこが問題だよね」


「ねえ、この丸い窪みメダルのサイズとピッタリじゃない?」


 それは戦士像の鎧、胸当ての部分にある丸い窪みだった。


「確かにサイズはピッタリだね。はめてみるよ」


 メダルを手におそるおそる窪みにはめてみる。

 

 ――――が、いくら待とうとも何も反応を示さない。


 違ったか‥‥メダルを外し、他にないか調べてみる。


 この紋章は炎かな? 何気ない鎧の紋章だが属性ってのが引っかかった。

 ひょっとしたら、この像は炎を司る像なのかもしれない。

 だとしたら炎=赤、持っていないが赤いメダルが必要なのかも‥‥

 メダルは持っていないが炎なら詩穂さんが使える。


「詩穂さん、仮説だけどこの戦士像は炎を司るアイテムもしくはエネルギーが必要なんだと思うんだ。だから詩穂さんの力を貸してもらいたいんだけど」


「なるほど、試してみる価値はあるわね」

「でしょ」


「じゃあ下がってて‥‥火魔術!」

 

 詩穂さんの放った火魔術の炎が戦士像に吸い込まれていく。


 ボウッ! 戦士像の頭上の松明に火が灯った。


「やった成功だ。残り3属性だ」 

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