第20話 森の神殿④

 女の子が寝ていたベットは空だった。


 だがその奥 ―――― 部屋の一番奥に身を隠すように怯える少女の姿が見えた。


 僕たちの存在に気が付き少女が静かに頭を上げた。


「おはよう」


 少女に声をかけるも返事はない。かなり怯えているようだ。

 僕は詩穂さんの顔を見ると頷いて少女に話しかけた。


「ねえ、あなたお名前は? 私は3年の三郷詩穂よ」


「‥‥‥‥助けて‥‥酷いことしないで‥‥‥」


 怯える少女が震えながら声を発した。


「大丈夫よ。私たちはあなたに酷いことしないわ。私たちはあなたの味方よ」


「‥‥ここはどこですか? 私は誰かに誘拐されて監禁されたの? 私たちどうなっちゃうの‥‥‥‥ふぇええええぇぇぇえん」


 少女はくしゃりと顔を歪めて泣き顔になったかと思うと泣き出した。

 そんな少女を詩穂さんが子どもをあやすように抱きしめた。


「いい? 落ち着いて聞いてね。私たちは誘拐されたわけじゃないから。うぅぅん、ある意味誘拐されたようなものね。その誘拐犯が人でなく神様?ってだけで」


「‥‥神様? 私‥‥神様に誘拐されたの?」


「そうね。そう認識してもらっても構わないわ。正確なところ私たちもすべてを把握しているわけじゃないの。良い神様なのか悪い神様なのかわからないけど、その神様に私たちはこのゲームみたいなこの世界に連れてこられたの。あなたも本とスマホを見たでしょう?」


 少女が無言で頷いた。


「あなたはその本に書かれていたミッションに失敗してペナルティ?的な何かで石になってたのよ。その辺は覚えている?」


 少女は石になったのを覚えているのか、また泣き出した。

 酷なことかもしれないけど、これだけはハッキリさせないといけない。


「このまま何もしなければ、またあなたは石になってしまうわ」


「ぐすっ‥‥どうすれば助かるの?」


「モンスターを倒すのよ」


「モンスター? モンスターってなに?」


「醜い顔をした小人みたいな鬼ね。ゴブリンって名前らしいわ」


「そのゴブリンをどうやって倒すの?」


「やり方はそれぞれだけど、簡単な方法は武器を使って殺すのよ」


「こっ、殺すの? そんなの私じゃ無理! そんなことできないよぉぉ!」


 大人しそうなこの少女には無理な話である。

 だが、詩穂さんはそんな少女を冷ややかな目で見つめている。


「ええ、私も最初は怖かった。でも勇気を振り絞って部屋を出てゴブリンと戦いなんとか1匹倒したの。でもその次にね、ゴブリンに負けて、殴られ自由を奪われ強姦されそうになったわ‥‥でもそんなときに彼、この涼真君が颯爽と現れ、私を救ってくれたのよ。彼がいなかったら私はもう、この世にいなかったでしょうね」


「そんなことが‥‥」


 改めて説明されると少しはずい。


「タイムリミットは2時間もないわ。このままなにもせずまた石になるか、それとも勇気を出して戦うか。戦うなら私たちがサポートしてあげる。戦うということはもちろん命のやり取り、大怪我や命を失うこともあるかもしれない。でも何もしなくても、どのみち死ぬことになるわ。私は何もしないで死ぬのは嫌だから先に進むの」


「選ぶのはあなたよ。私はあなたがどっちを選んでも反対しない。あなたの好きにしなさい」


「私は‥‥‥私は‥‥生きたいです。こんなところで死にたくない!」


「そう。よく決心できたね。共に生きて日本に帰りましょう。ところで、あなたのお名前は? 私は三郷詩穂、こっちの彼が泰阜涼真君」


 冷ややかな目をしていた詩穂さんも少女の生きたいという言葉で、いつもの優しい顔つきに戻った。その笑顔はまるで女神のような満面の笑みだった。


「ご、ごめんなさい。私は下条しもじょうこずえです」


「下条さんね。何年生? 私は3年よ。彼は瑞北の2年」


「1年です。1-Aです。私のことは"こずえ"と呼び捨てにしてください。みんなそう呼びますから」


「じゃあ私のことも詩穂、彼も涼真君って呼んでね」


「詩穂先輩に涼真さんですね。よろしくお願いします」


「うん。よろしくね、こずえちゃん」


 

 こうして、こずえちゃんが新たに仲間に加わった。


 こずえちゃんは小柄だがスラリとした可愛らしい女の子だ。

 細身だが出るとこは出ている。どことはいえないが出ている。

 肩まである黒髪におっとりとした童顔、背が低く童顔の顔立ちは年齢より幼く見える。ちなみに下着は水玉模様だった。

 

 こずえちゃんが目を覚ました理由も判明した。

 詩穂さんが僕より先に目を覚まし干した洗濯物に着替え終わり、寝たきりのこずえちゃんのカウントが0になったままのスマホを何気なく女神像にセットしたこところ、時が動きだしたかのようにカウントが刻まれ、こずえちゃんが目を覚ましたとのことだった。

 

 こずえちゃんの残り時間は約1時間半。

 初期装備の短剣では心もとないので詩穂さんの槍を借りた。

 もちろん、槍なんて触ったこともないそうだ。

 短い槍とはいえそれなりの重量はある。

 槍の重さでふらつくも構えることはできる。

 それだけできればゴブリンの1匹くらいは僕のサポートがあれば楽に倒せる。


 倒せるのだが、やはり女の子にはゴブリンとはいえ生物を殺したという葛藤と手に伝わる感触で彼女は嘔吐した。

 可哀想だが、こればかりは慣れてもらうしかない。


 スキルはまず身体強化を選んでもらった。

 これで槍も楽に持てるようになる。


 続いてゴブリン2匹との戦闘。

 これもなんなく倒しレベルが2になった。

 スキルは弓術と精神強化を選んだ。

 槍を詩穂さんに返し、こずえちゃんには昨日ゲットしたショートボウを装備してもらった。弓も扱ったことないけれどスキルの恩恵で使いこなすことはできる。

 矢に制限はあるが魔法以外で遠距離攻撃ができるのは素晴らしい。


 次は料理を作ることだが、これは詩穂さんに任せた。

 女の子がふたり調理場にいる空間‥‥僕の居場所はなかった。


 だが、これでようやく3人で森に進めるようになった。


 僕がレベル5  スキルは身体強化LV2、剣術、水魔術LV2、精神強化、気配察知

 詩穂さんもレベル5 身体強化、火魔術LV2、土魔術、槍術、精神強化、気配察知

 そして、こずえちゃんがレベル2 身体強化、弓術、精神強化


 こずえちゃんのレベルをもっと上げたいところだが、篠木さんとの待ち合わせの時刻まで余裕がない。

 予定外となるこずえちゃんのパーティ参加だが、人数が増えるということは喜ばらしいことである。

 待ち合わせの時間に多少遅れても理由を説明すれば、篠木さんもこずえちゃんを歓迎してくれるに違いない。



 森を進む3人。

 森の業軍に不慣れなこずえちゃんに合わせているため、その歩みは遅い。

 慣れもあるだろうけどレベルが上がった僕と詩穂さんは、最初の頃に比べだいぶ逞しくなっている。それは肉体的にも内面的にもだ。


「はあ はあ‥‥よく、おふたりは平気ですね」


 歩き疲れたこずえちゃんは肩で息をしている。


「これはなんていうかレベルの恩恵かな。そのおかげで体力的にだいぶ差があると思うんだ。今ならスキルを使わなくても有名アスリートといい勝負ができそうな感じなんだよね。こずえちゃんもレベルが上がればこうなるよ」


「ううぅぅ‥‥がんばります」


 無理をしても仕方がないので少し休憩することにしよう。

 その旨を伝えると途端にこずえちゃんの疲れた顔に花が咲いた。


 詩穂さんがリンゴを切ってくれたので一口もらう。

 リンゴの酸味が口の中に広がったときだった。背中に背負ったリュックサックが光り出した。いや、正確にはリュックではなく謎の本が光ったのだ。


 えっ? なんで? 本を開くと次のミッションが表示されていた。


 ~ 神殿の主を倒せ ~


 これが新しいミッション‥‥だがどうして‥‥神殿のトーチはまだひとつ残っていたはずであり、火を灯すにはメダルか土魔術が必要なはずである。

 考えられるのは誰かがメダルを手に入れてトーチに火を灯したとしか思えない。

 いったい誰が? 篠木さんたちか? それとも別の誰かか?


「休憩は終わりだ。僕たちも神殿に急ごう!」


 ふたりは頷き森を急いで進む。


 目の前に大きなピラミッドが見えてくる。


 神殿の内部に入ると、目についたのは中央の戦士像。

 邪悪な豚の顔をした戦士像の足元には地下へと続く階段があった。


 僕たち3人は互いに頷き合って階段を下りていく。



 長い階段を下りると、そこには大きな扉があった。

 僕たちは意を決してその扉を開くと、そこには壮絶な光景が広がっていた。

 


 〜〜 あとがき 〜〜

 お読みいただきありがとうございます。

 涼真君と詩穂ちゃん。そしてこずえちゃんを加えた3人の冒険が気になった

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