第21話 神殿の主①
大きな扉を開けると、そこは大きな広間だった。
血の臭いがする。
それになんだ、この不快な音と臭いは?
広間の奥に誰かいる‥‥誰だ? 神殿を解放した誰かか?
だが、それは一瞬にして絶望感に変わる。
「ひっ! なにあれ‥‥‥」
こずえちゃんが震えた声を上げるのも無理もない。
異形の存在‥‥まさにそんな表現が相応しい存在‥‥‥
2m以上はありそうな巨体、横に太った体躯、だが人と違うのはその頭が豚か猪だと思わせる異様な姿をしているからだ。
その姿は戦士像のそれと同じで酷く禍々しい。
[オーク] この豚頭の醜いモンスターの名前だ。
だが、気にするのはそこじゃない!
そのオークは3体、それぞれが何かをしている。
手前のオークは何かを食べている。その足元には人影が転がっている。
その隣では頭の潰れた人形に腰を振るオークの姿があった。
その奥にもオークが一体。
オークたちは僕たちに目をくれず、それぞれ何かに没頭している。
手前のオークに足元に転がっている人影に見覚えがあった。
あれの顔はサル‥‥いや古橋先輩か、だがどこか違う。先輩はもっとこうサルそのものなのだが、このサルは何か変だ。
なんというか、猿の顔に犬の耳と鼻が付いている感じ‥‥酷くバランスが悪い。
全身傷だらけの犬猿の片腕はちぎれ、苦痛に歪んだ顔は僕に何かを訴えているようにも見える。
あれは‥‥やっぱり古橋先輩なのか? まだ生きてる! なら四つ目のトーチに火を灯したのも先輩たちなのか?
僕たちが遅れたせいで早まった行動をしたのか、レベルアップで新たな力を手に入れ、土のメダルの守護者たるモンスターを倒せるほどの力を手に入れたのか。
だが、それでもオークには敵わなかった。
その結果がこれか‥‥なぜ僕たちを待たなかった。
なにか理由があっての行動だろうが仲間を見捨てることはできない。
だが、僕たちでこの異形のオークに勝つことができるのか?
いったん引くべきではないのか?
3人だけでメダルの守護者たるモンスターを倒せてるほどの実力者でも敵わなかった強敵だぞ。こっちは3人いるとはいえ、そのうち二人は女の子。しかも、こずえちゃんはまだレベルが低い。そんな状況で戦えるのか?
ここは古橋先輩を見捨てて逃げるのも手じゃないのか?
レベルを上げ戦いの準備を万全に整えた状態で挑むべきじゃないのか?
だが、はたしてそれでいいのか?
知り合って間もないとはいえ仲間を見捨てるのか?
だけど戦って勝てる保証は? 勝算はあるのか?
詩穂さんとこずえちゃんを危険な目に合わせて良いのか?
死ぬかもしれない戦いに巻き込んで良いのか?
僕自身死ぬかもしれない。
たとえ生きていても詩穂さんが死んでしまったらどうするんだ?
「‥‥‥げろ‥‥にげて‥‥くれ‥‥」
掠れそうな小さな声だが古橋先輩の声だ。
その瞬間、一陣の風が僕の横をすり抜けた。
「詩穂さん!」
一陣の風の正体は僕の後ろにいた詩穂さんだった。
僕が躊躇している間に詩穂さんが飛び出したのだ。
手に持つ槍を構えオークに果敢に挑んでいく。
その槍がオークの太った横腹に突き刺さった。
オークが詩穂さんを睨みつける。
肥満の体には槍の一撃は通用しないのか。
「詩穂さん、いったん後方へ前衛は僕が!」
もうこうなったら戦闘は避けられない。
僕は覚悟を決めオークに剣を向ける。
デカい。ゆっくり立ち上がったオークはその巨体もさることながら威圧感が半端なく大きい。小振りなゴブリンとは比較にならないほどデカい。
「生存者を救出して、可能ならいったん退却するぞ!」
女の子ふたりも頷いた。
最悪女の子だけでも先に逃がさないといけない。
オークが口に咥えていた何かを吐き捨てた。
あれは‥‥人の腕? 先輩の腕を食ってたのか。
僕は巨大な両手用ハンマーを構えるオークと対峙した。
あんな大きなハンマーの一撃を喰らったらひとたまりもない。
「ブホォォォォォ――――ッ!!」
雄叫びを上げハンマーを振り上げるオーク。
その一撃をバックステップで躱し大きな隙が生まれたオークに剣の一撃を入れる。
そこに後方から炎の矢が降り注ぐ。
肉の焦げる臭い、苦しむオークに追撃の一撃を入れる。
だが、それでもオークは倒れない。
大振りに振られたハンマーが敷石を砕く。
ハンマーの打撃点を中心に敷石が放射状に爆砕する。
凄まじいパワーだ。
幸いなことに残りの2体は戦いに参加してこない。
隣のオークが腰を振っている人形‥‥あれは岩木呂君か‥‥
いや‥‥岩木呂君だったモノか‥‥
それは頭は潰され見るも無残な姿に成り果て、さらに死体に鞭を打つかのようにオークにケツを掘られていた。
スキル"アナヲホルモノ"が掘られてんじゃねえよ! と毒付きたいが、今はそんなことを言っているときではない。
もうひとり‥‥篠木さんは無事か?
奥にいるオークの影から人の足が見える。篠木さんの足か?
彼女は生きているのか?
だが、それを確認している暇はない。
まずは目の前のオークをどうにか倒さないといけない。
醜い肥満な体型、暗緑色の肌、豚鼻と下顎から牙がはみ出ている姿は魔物に相応しい姿かもしれないが、実際に目にすると恐ろしい。
人は人外の存在に嫌悪感を抱くものである。
これが可愛いケモミミの女の子だったら違ったかもしれないが、目の前で対峙しているオークは、とてもそんな可愛らしい存在ではない。
薄暗い広間の中で僕はぶるりと震わせた。
恐怖と怯えはある。だが、それ以上に詩穂さんたちを守らねばならない。
彼女を失うことの恐怖の方が怖いのだ。
雄叫びを上げハンマーを振り回すオークの攻撃を躱し、がら空きになったオークの顔面を僕の片手剣が捉えた。
さしものオークも頭部は弱点だったようで、そのデカい体躯は粒子となり四散していく。
「まず1体! 詩穂さんは古橋先輩の保護を、こずえちゃんは僕の援護をお願い」
「了解!」「わかった」
ふたりの声が背後から聞こえた。
次は肉塊と化した岩木呂君の亡骸を弄ぶオークが相手だ。
仲間のオークがやられても構わず腰を振り続けるオークに背後に回り込み、一撃を入れようとしたときだった。
オークが突然振り返り、肉塊とかした亡骸を僕に向かって投げつけてきた。
迫りくる肉塊を避けた僕にオークの持つトゲトゲのメイスが迫る。
さっきのオークより一回りほど小さいオークだが、身長170cmの僕とそう変わらないが横幅は僕の倍以上はある。
僕はわずかに腰を落として上体を仰け反らせ、オークの一撃を躱す。
そこにカウンターで水魔術を打ち込み、怯んだオークに剣を突き立てた。
その刃には確かに手応えがあった。
だが、その手応えを感じた瞬間、頭部に激しい痛みが走る。
頭蓋骨が割れるかと思うほどの衝撃。
だが、ここで倒れる訳にはいかない。
「いやああぁぁぁぁぁ!!」
後ろから詩穂さんの悲痛な叫び声が聞こえる。
僕は渾身の力で踏ん張り、手にした片手剣をオークに突き刺した。
渾身の力で突き刺した剣はオークの心臓に突き刺さり粒子となり消えていった。
そして、僕もその場で力尽きた。
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