第31話 迷宮再び④
「神々の遊び場って意味がわかった気がするわ。きっと神様たちはこうやってうろたえる私たちの姿を見て楽しんでいるのよ」
「うん。僕もそう思う。僕だって詩穂さんのそんな顔見たら面白いもん。って、何で叩くのさ‥‥ちょっ! やめて‥‥謝るから」
紅潮した詩穂さんは可愛い。それは認める。神様だって可愛いと思うはずなんだけど、たぶんまた怒られそうだから言わんとこ。
ロックの外れた豪華な扉を開くとそこには下へと続く階段があった。
「階段があるけど下りる? それともこの階層の残りのマップ埋める?」
「マップは埋める必要ないと思うし下の階へ下りましょう」
「了解っと」
また階段か‥‥今度はいったいどこまで下りればいいんだろうか。
しかし以外にも階段は結構短かった。
段数的にだいたい300段くらいか‥‥それが多いのか少ないのかわからんが‥‥まあいいや、とりあえず扉がある。
扉を開くとそこは結構な広さのある大部屋だった。
マップでここが迷宮地下2Fだとわかる。
「見て! あっちに光るポールと扉があるよ」
こずえちゃんの指差す壁際には1Fにもあった転移ゲートのポールと豪華な装飾の施された扉があった。
転移ゲートを起動させれば移動が楽になるのはわかる。
だけどあの豪華な扉、きっと3Fへと続く扉だよな‥‥たぶん。
両サイドの壁にも普通の扉もあるにはあるが目につくのはこっち。
「まずはゲートを起動させましょう」
「だね」
詩穂さんが光るポールに触れると、キーンと高音の耳鳴りのような音が部屋に鳴り響きポールの輝きが薄れていった。
「ゲートもこれで上層、1Fと2Fの3ヶ所になったよ」
「OKじゃあ次はこっちの扉だけど‥‥なにこれパスワード?」
豪華な扉横のタッチパネルにはパスワード入力画面が表示されていた。
「パスワードなんか知らんし‥‥ってこれかな?」
画面には新規パスワード発行の項目がある。
【ワンタイムパスワードを発行しました。30分間有効です】
「これはあれだな、ネットバンキングとかに使われる一定時間内しか使えないパスワードだ‥‥‥って、スマホに何も表示されないんだけど、そっちは?」
「ちょっと待って‥‥だめ、何も表示されてないわ」
「私も同じく」
「どゆこと? スマホに表示されんじゃないの?」
「どうやら違うみたいね。いきなり扉なんておかしいと思ったのよ。まずは別の端末を探せってことみたい。制限時間は30分」
「神様ってホント意地悪」
「同感だね。とにかく、そのパスワードを探そう」
2Fから3Fへとすぐ行けるほど世の中そんなに甘くなかった。
制限時間内にパスワードを習得して戻ってこないと無効になるとか嫌すぎる。
「どっちの扉から行く?」
「じゃあ右で」
2Fも1Fと一緒で迷路型のようだった。
違うのは2Fは水路があって通路が分断されている箇所がいくつもある。
「また行き止まりだね」
「もう水路が邪魔! 通路があっても渡れそうもないよ」
水路は幅が10mほどで水深もそこそこある。水は綺麗そうなので泳ぐことも考えたが女性陣に却下された。
水に濡れるのも嫌だし、そもそも武器を持って泳げない。
濡れた制服とか目のやり場に困るからやらんけど‥‥ちょっと想像しただけで変な気分になってしまう。
そんな僕を女性陣はからかってくる‥‥
すでに時間は30分は過ぎてしまった。それでも端末さえ見つければと思い先に進み、いくつかの分かれ道の先に怪しい赤いレバーを発見した。
壁に設置されているそのレバーは現在OFFの位置にある。
「これどう思う? 罠の気配はないけど」
「罠じゃないならONにしてみたら?」
「じゃあONにするよ」
レバーを操作してONにすると遠くから轟音が聞こえてきた。
「何かが動いた音ね。行ってみましょう」
マップで見た限りでは隠し通路の線は薄い。となると‥‥やはり‥‥
「橋ができてる。赤い橋だよ」
そう、水路に赤い橋ができていた。よく見るとその橋は道路脇の側溝の蓋が大きくなったような格子状の橋だった。
どうやら両サイドの水路脇から赤い格子状の鋼板が伸びて橋ができたみたいだ。
「乗っても崩れたたりしないよね」
「大丈夫じゃないかな。こずえちゃん軽いし」
「何よそれ、じゃあ私は重いから不安だってことかしら?」
「ど、どうしてそんな卑屈になるんだよ。詩穂さんも軽いから問題ないよ」
「ふふふっ、軽い冗談よ。さあ向こう岸へ渡りましょう」
冗談なのか本気なのかわかんないけど、そういうのはやめてほしい。なんか変な汗が出ちゃってるし。
水路を越えたことで探索範囲が広がった。
再度迷路型の迷宮を探し回ると遂に目的の端末らしき物を発見した。
「また水路ね」
「ああ」
発見した端末のある壁は水路に囲まれていた。
「あれ見て。水路脇のあの青い部分。あれが橋になるんじゃない?」
「ほんとだ、青い部分がある。じゃあ、あの青い部分に対応したレバーがあるってことだな。探してみよう」
ほどなくして青いレバーを見つけることができた。
レバーを操作するとまたもや轟音が響いてくる。
「やったね。青い橋だ。これで端末のとこに行けるね」
「だね。時間は過ぎちゃったけど、ようやく見つけることができた」
端末には当たり前のように時間切れの表示がある。
だが、これで入り口に戻り、ワンタイムパスワードを発行してここに来ればパスワードが習得できるというわけである。
僕たちは入り口まで戻ろうとしたところ、渡ってきたはずの赤い橋が無くなっていることに気が付いた。
「どうして橋がないのよ」
「ああ、これはあれだ。赤い橋と青い橋は両立できないんじゃないかな。今は青い橋が架かっているから赤い橋は消えている。逆に青い橋を消せば赤い橋が復活するんじゃないかな」
「きっとそうね。いったん戻ってみましょう」
そうして青いレバーをOFFにすると赤い橋が架かっていた。
この階層にはモンスターが出ないことも幸いして、意外と早く入り口まで戻ってくることができた。
「いい? 道順も最短ルートもわかったけど問題は制限時間よ。時間内にパスワードを覚えてここまで戻ってこないといけない」
「だね。モンスターがいつ現れるとも限らないからできるだけ別行動はしたくない。パスワードを発行したらダッシュしよう」
皆がこくんと頷く。
「じゃあいくよ。よしスタートだ!」
僕の合図で皆が走り出す。
青いレバーのとこまで約10分。
6桁のワンタイムパスワードを確認して再度青いレバーをOFFにして後は戻るだけだ。残り時間は14分。
だが、やはりというかお約束のようにモンスターが行く手を阻む。
「スライムだ。時間がないからスルーして通り抜けよう!」
「「了解」」
動きの鈍いスライムなら横を通り抜けることも可能だ。これがゴブリンの集団やコボルトだったら厄介だったがスライムなら問題なく通り抜けができる。
残り時間はあと6分。
前方にモンスターの気配。それにこの鳴き声‥‥今一番会いたくない相手、コボルトだ。それも2体。
「コボルトからは逃げられない。速攻倒すぞ!」
僕たちは走りながら武器を構える。
目の前にコボルトの鋭い牙と爪が迫る。
僕の斬撃とコボルトが交差するとコボルトは粒子となって消えていく。
もう1体のコボルトも詩穂さんが仕留めたようだが、こずえちゃんの様子がおかしい。こずえちゃんは身を竦ませて怯えているようだった。
コボルトに襲われたのを思いだし動けなくなっているのだ。
ここでこの状況は不味い。
「こずえちゃんは私に任せて、涼真君は先に進んで!」
「で、でも‥‥」
詩穂さんの言いたいことはわかる。スタート地点の広間まであとわずかの距離だ。
「わかった。すぐに戻ってくる」
「ええ、涼真君お願い」
詩穂さんにこずえちゃんを任せて僕は広間に向かって走る。
残り時間はあと2分。
〜〜 あとがき 〜〜
お読みいただきありがとうございます。
地下迷宮に翻弄される涼真君たち。
涼真君たちの今後が気になった、続きを読みたい
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★★★評価をよろしくお願いいたします。
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