第30話 迷宮再び③

 探索を再開した3人。

 3人はスマホを見ながら通路を右へ左へと進む。

 まさか迷宮で歩きスマホをすることになろうとは思わなかった。


 途中ゴブリンやスライムといった雑魚モンスターとの戦闘を挟んで順当にマップを埋めていった。

 そのうち、いくつかの部屋にはギリシャ神話の石碑があった。

 それぞれオリュンポス十二神やティターン神族についての神話が刻まれていた。


 そして、何度目かの小部屋にて宝箱を発見した。


「あっ! 宝箱発見!」


 だが、僕のスキル:罠感知が初めて警告音を鳴らした。


「こずえちゃん待って、それ罠!」

「えっ!?」


 僕が戸惑っているうちに、こずえちゃんが箱に手をかけようとしたので、慌てて止めようとしたが一足遅く宝箱の蓋を開けてしまった。

 鼓膜が破れそうなほどのけたたましいアラート音が周囲に鳴り響く。


 そのアラート音とともに辺りの雰囲気が一変する。

 周囲からモンスターの気配がどんどん近づいてくる。

 どうやら、このアラート音がモンスターを呼び寄せているようだ。


「来るぞ!」

 

 最初に現れたのはゴブリンが5体。それに続くように犬のような顔をした人型のモンスターが2体現れた。


「囲まれないように注意しろ!」


 全7体のモンスター、こっちは3人。囲まれればこっちが不利である。

 幸いなことに前面のゴブリンは雑魚である。

 僕は水弾を飛ばしつつ前面のゴブリンを長剣で斬りつける。

 斬られたゴブリンが粒子となって消える前に、次のゴブリンも返す刀で斬り飛ばすしていく。次の獲物はと思った瞬間、後方に居たはずの犬の顔をしたモンスターがその牙と爪で襲ってきた。


 獣ような身のこなし、犬人間 ――― コボルトだ。

 狭い小部屋に逃げ場はない。


 コボルトは鋭い牙と尖った爪で僕に向かって襲い掛かってくる。

 素早い‥‥だがそれだけだ。

 僕の長剣がコボルトの胴体を捉え両断する。


「きゃああぁッ!」


 後方からこずえちゃんの悲鳴が聞こえた。

 しまった、コボルトはもう1体いたのだ。


 だが次の瞬間、詩穂さんがこずえちゃんに馬乗りになったコボルトを槍で突き飛ばした。

 

「こずえちゃん大丈夫?」


 詩穂さんがこずえちゃんに声をかけるも、こずえちゃんは震えたままである。


「詩穂さん!」


 突き飛ばされたコボルトはまだ生きている。

 僕は詩穂さんに注意を促して自身もコボルトに向け走り出す。

 行く手を阻もうとするゴブリンを一刀両断し、牙をむくコボルトと詩穂さんたちの前に割り込んだ。


 コボルトは獣の力強さと速さを兼ねそろえたモンスターだ。

 脅威となるのは鋭い牙と尖った爪、しかし獣の特性上動きが読みやすい。

 迫るコボルトにカウンターの要領で長剣を突き立てると、コボルトは粒子となって消えていった。


 残るはゴブリン1体、それも詩穂さんが止めを刺したところだった。


「こずえちゃん‥‥怪我はない? どうした腰が抜けた?」


 こずえちゃんはガクガクと身を震わせていた。そして盛大に泣き出した。

 よほど怖かったのだろう‥‥思えばこずえちゃんは最初の部屋から出ることもできずに石化していたのを思いだした。

 今まで我慢していたのだが、コボルトに直接襲われて恐怖が甦ったのだ。

 よく見れば彼女の座り込んでいる辺りに水たまりができている。

 大型犬のような凶暴な犬の顔した人形モンスター‥‥そんなのに殺されそうになったのだ‥‥あまりの恐怖でそうなっても無理はない。


 これは僕が見てはいけないやつと判断し、こずえちゃんから目をそらすようにモンスターを呼び寄せた宝箱の元に歩き出した。

 背後からはこずえちゃんのすすり泣く声と彼女をあやす詩穂さんの声が聞こえる。

 

 宝箱にはアラート以外の罠は仕掛けられていないようだった。

 もしこれが毒針とか毒ガスの罠だったらヤバかったかもしれない。ある意味ではアラートで助かったのも事実である。

 こずえちゃんはパンツと尊厳を引き換えに、その身をもって罠の危険性を僕たちに教えてくれました。‥‥いやあ尊い犠牲だった。


 宝箱の中身は、なぜか袋に入ったあんパンと紙パックの牛乳が3セット。

 なんでやねんとツッコミを入れたいところだが休憩にはちょうどいい。

 幸いなことに周囲からはモンスターの気配は感じられない。


 後ろを振り向かないように詩穂さんの休憩の旨を伝えたところ了承を得られた。

 

「涼真君ちょっと手を貸してもらえる?」

「どうしたの?」

「蛇口魔法を使いたいのだけどいいかしら」


 その言葉で僕は理解した。詩穂さんはこずえちゃんのパンツを洗うつもりなのだ。


「それはいいけど」

「涼真君は目を瞑って私の指示に従っていればいいの! いい、絶対に目を開けちゃダメよ。開けたら殴るからいいわね!」

「‥‥はい」


 詩穂さん‥‥自分の下着は堂々と土間に干してたのに、こずえちゃんのパンツは見ちゃダメって自分勝手すぎる‥‥なんて口が裂けても言えるわけもなく、おとなしく彼女の指示に従うことにした。


 その後は泣き止んだこずえちゃんと詩穂さんが風魔術と火魔術でパンツを乾燥させたようだ。


「涼真さんごめんなさい。色々ご迷惑かけちゃって‥‥」

「気にしちゃだめだよ。誰だって失敗はあるんだから、僕こそ危険な目に合わせちゃってごめんね」

「ううん‥‥元は私の不注意が招いた結果だから‥‥」


 問題はトラウマになってなければいいのだけど‥‥こればかりはなぁ。


「それより戦闘は平気? いったん引き返そうか?」

「ううん。私のためだけに引き返すなんてダメです。戦闘は自信ありませんけど頑張りますから先に進みましょう」

「こずえちゃんがそういうなら進みましょう」

「OK! じゃあ先に進もう」


 ちと心配だが本人がいいと言っているのだから先に進むことにした。

 多少無理をしてでも体を動かした方がいい場合もある。

 

 

 探索を再開してしばらく歩いて行くと、明らかに他と違う豪華な装飾の施された扉があった。


「これきっとボス部屋とか大事な部屋の扉だよね」

「だね。きっとそうだ」

「扉は閉まってるけどこのタッチパネルが鍵になりそうね」


 壁には迷宮には似つかわしくないタッチパネルが埋め込まれていた。


 タッチパネルに触れてみるとそこには質問が書かれていた。

 どうやらこの質問に対して選択肢を選ぶ選択問題のようだった。


【第一問:原初の神、大地の女神の名前は?】


「えっと‥‥なんだっけ?」

「もう、しっかりしてよ。ガイアよ。大地の女神の名前はガイア」

「そうだった‥‥ガイアっと」


 ピンポーン やった! 正解のようだ。


【第二問:オリュンポス十二神、鍛冶の神の名前は?】


「‥‥‥‥」

「ヘパイストスよ」


 僕ではわからないので詩穂さんと交代した。

 詩穂さん‥‥よく覚えていたな。


【第三問:オリュンポス十二神、商いの神の名前は?】 

 

「ヘルメスよ」


【第四問:運命の三女神クロートー、ラケシス、もう1人の名前は?】


「アトロポス」


 すげ~ 詩穂さん。さすが僕の女神様です。


【最終問題:農耕の神クロノスは天空神ウラノスのあるものを切り落とし追放しました。そのあるものとは何か?】


「‥‥なにこの悪意のある質問は」

「どうしたの詩穂さん」

「最終問題だけ選択問題じゃなくて入力問題なのよ」

「それで詩穂さんは答えはわかってるの?」

「‥‥ええ。それは‥‥男性のあれよ」

「あれって‥‥これ?」


 僕が指さしたそれを見て詩穂さんが真っ赤になって僕の頭を叩いた。


「痛い! なんで叩くのさ」

「うるさいわね! 罰として涼真君が入力しなさい」

「ええ~ そんな横暴な」


 詩穂さんが僕を睨んでくる。


「ごめんなさい‥‥」


 なにこの羞恥プレイは? 神々ってほんと意地が悪いな。

 

 答えを入力すると、ピンポーンと正解の音が鳴り、続いてガチャリと扉のロックが解除された音が聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る