第29話 迷宮再び②
「ねえ、これなあに?」
「ん?」
こずえちゃんが何か発見したようだった。
それは壁に埋め込まれたレリーフ。見方によっては扉のように見えなくもない。
隠し扉? だがそれらしきものは見当たらない。
「う~ん‥‥これは何かアイテムとかが必要なのか、それともただのフェイクか現時点では判別できないな」
「アイテムだったら先に進むしかないよね」
「そうだね。もう少し探して手がかりなかったら階段を下りてみよう」
「は~い」
結局手がかりはなく階段を下りてみることにした。
「ねえ、この階段どこまで続いてるの?」
それは僕も知りたい。さっきからずっと階段を下りている。暗闇のせいで、もうどれだけ下ってきたのかさっぱりわからない。
「これ、下りだからいいけど上りだったら死んじゃうね」
「あははは‥‥それ言わないで‥‥考えたくない‥‥」
「エレベーターやエスカレーターつけてよう」
こずえちゃんの愚痴もわかる。この階段を上るとか鬼畜すぎる。さて、いったいどこまで下りることやら‥‥そして、その先に待つのは天国か地獄か。
かれこれ一時間くらい階段を下りたところで、ようやく目的地である新たな扉が見えてきた。
敵の気配はない。
扉を開けると小部屋になっており、その奥には別の扉と光り輝くポールがあった。
そのポールは約2mほどで、まるで道標のように扉の前に存在している。
「これは?」
おそるおそる光るポールに触れてみる。
キーンと高音の耳鳴りのような音が部屋に鳴り響き、ポールの輝きが薄れていく。
それに反応するように壁のレリーフが光り輝いた。
「この模様、階段の上にあった模様と一緒だ」
「ほんとだ。じゃあ何か意味があるのかな?」
レリーフに触れると選択肢が浮かび上がる。
▷迷宮上層部
迷宮地下 1F
「んんん? これって‥‥‥」
「涼真君、本を見て!」
詩穂さんに言われて謎の本を見るとミッションが変化していた。
~ 迷宮地下 3Fの主を倒せ ~
てことは、やっぱりこれは転移ゲートなのか?
ここはつまり地下迷宮の入り口、スタート地点なのである。
「残り時間も追加されて‥‥ええと‥‥約5日分ある。どうする? いったん休憩がてらゲート試してみる?」
「そうね。この先何が待ち構えているかわかんないし、階段を使わなくていいならいったん休憩挟みましょう」
「賛成!」
レリーフの選択肢を迷宮上層部にすると壁に魔法陣が浮かび靄がかかったような状態になった。
「これで通れるようになったのかな?」
手をおそるおそる靄に通してみる。手は靄に吸い込まれていくが不快感はない。
「大丈夫そうだ。行ってみよう」
僕は意を決して頭を突っ込んだ。
そこは1時間前に見た階段のある部屋の景色だった。
僕はそのまま体も靄に突入させると、なにごともなかったように通り抜けることができた。続いて詩穂さんも顔を出す。
キョロキョロと辺りを見渡す詩穂さんの顔はとっても可愛いかった。
「これが転移ゲートなのね」
こずえちゃんの到着を待って、いったん女神像の間まで戻ってきた。
そこでは詩穂さんがリンゴを剥いてくれてたので美味しく頂きました。
「この先どう思う?」
「どうって聞かれても行ってみないと、どうなっているのか見当がつかないわ」
「ヒントは最低でも地下3階まであるということ」
「なるほどね‥‥問題はどんなエリアで、どの程度の広さがあるかね」
「そうだね。残り時間を見て森ほど広くはないと思うけど、食料や睡眠時間を考慮するとあまり時間はないかもしれない」
「その意見には賛成ね。これ食べたら探索を再開しましょう」
僕たちは簡単な意見交換をして探索を再開することにした。
転移ゲートを使い、再び地下へとやってきた僕たち。
「じゃあ、扉開けるよ」
扉を開けると、そこは石造りのような壁は一緒だが色が違う。
こっちの壁は緑色の壁で、通路はまっすぐな直線と右側にも通路が分れている。
壁の色が違うだけでなく少し薄暗く灯りが灯っている。そのおかげか通路の結構先まで見渡すことができたのだ。
「どっちの通路に行ってみる? 地図は問題なく動作しているようだから地図を埋めるためには両方進む必要があるけど」
「じゃあ、右に進んでみましょう。なんか曲がり角っぽいのあるし」
詩穂さんの提案を聞き右の通路を進んでみる。
確かに約50mほど先に曲がり角があった。
「よく、あんな距離の曲がり角見えるね。詩穂さん視力いいんだね? つか、学校で眼鏡かけてなかった? 今眼鏡かけてないけどなんで‥‥?」
「さあ‥‥それは私も知りたいわ。眼鏡もアイテム扱いで持ち込めないと考えて補正があるのかしら?」
「補正って‥‥そんな言葉が詩穂さんから出てくるとは思わなかったよ」
「これでも日本に戻った3日間で色々ゲーム関連調べてみたのよ」
「僕の勉強も見てくれてたのにいつの間に‥‥」
それには僕もこずえちゃんも驚いた。もっとも、こずえちゃんは僕と詩穂さんの関係を知っているので、少し引き気味だったけど気にしないでおこう。
通路を歩いてみて、わかったことがる。
それは明るいのは僕たちの周囲10mほど、それは上部の回廊と一緒だけど違うのは地下はある程度先が見えること。そして、10mほどが単位になるようでちょうどそれくらい歩くとマップも更新されていく。
つまりは、マップの1マスが約10mだということになる。
それがどうしたと思うだろうが、これで迷宮のサイズが大体判別できるということになるのだ。
地下迷宮は結構広く何本も分かれ道が伸びている。
「こっちも行き止まりか」
「分岐も多いし、こういった迷路型の探索系ダンジョンは骨が折れそうね」
「行き止まりだし、引き返そうか」
マップを埋めながら右へ左へと迷路を歩き回っていると、ようやく新たな扉を発見することができた。
だが、その扉の向こうにはモンスターだと思われる気配がする。
僕たちはそれぞれ武器を握りしめ意を決すると扉を開けた。
部屋の中には黒く蠢く何かがいる。
「あれはスライム?」
そう、スライムだ。ファンタジーゲームの定番モンスター。コミカルに描かれているのもあるが、こいつの見た目はかなりぐろい。
黒いゼリー状の物体に赤く光る核がある。スライムはこのゼリー状のため物理攻撃、特に斬撃とかは効きにくい。一撃で核を壊すか魔法が有効なはずである。
そのスライムが全部で3体いる。
「スライムって、あの粘々で衣服とか溶かすやつよね」
こずえちゃんがなんか変なこと言い出した。それ、かなりマニアックなやつじゃん。それをなぜこずえちゃんが知ってるのかと、ツッコミを入れたいが今はそれどころではない。スライムを倒すのが先だ。
「あの赤い核が弱点だ! 各自、魔法攻撃!」
僕が水弾、詩穂さんが炎の矢、こずえちゃんが風の刃を放つ。
それぞれの魔法がスライムの核に直撃し黒いその姿は粒子となり消えていった。
スライムが消えそこには魔石が3つ残った。
弱っ! スライム弱っ! そして魔石も少なっ! このスライムは属性などなく簡単に倒せる雑魚モンスターらしい。
スライムを倒した部屋には石碑があった。
その石碑にはギリシャ神話の文面が刻まれていた。
~かつて世界は混沌(カオス)に満たされていました。
そこから《大地の女神・ガイア》が生まれ、続いて《天空の神・ウラノス》《奈落の神・タルタロス》《愛の神・エロス》などの原初の神々が誕生した。
ガイアはウラノスと交わり、そこからさらに多くの神々が誕生しました。
「なにこれ?」
「さあ、これってギリシャ神話に登場する神々の原点とも言える存在のことよね? この世界と何か関係あるのかな?」
「ないとは言えないだろ? きっと何か意図があると思う。それが何かはわかんないけどこいつら原初の神々ってのが諸悪の根源ってことだ」
「ちょっと涼真君、そんなこと言って罰当たっても知らないわよ」
「うっ、それは困る。神様ごめんなさい」
詩穂さんがやれやれといった顔をしている。
だけど、この石碑が今後どういったものなのか僕たちにはわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます