第28話 迷宮再び①

「泰阜お前どう思う?」

「久能のこと?」

「他に何があるのさ」


 僕は考える。久能と江連の危険性を‥‥

 ただでさえ危ない連中と噂される二人。

 その二人があの世界で力を得ているとしたら‥‥

 

「いくら日本の警察が優秀でもあの二人を捕まえるのは無理だと思う」

「だよねー。高校生に拳銃を向けるなんてことないだろうし、怪我人や下手したら死人がでるかも‥‥マジこれヤバくね」

「でも、僕たちにできることなんてないよ」

「そりゃそうだけど‥‥」


 篠木さんの言いたいことはわかる。

 やつらを止めることができるのは同じく力をつけた僕らだけだと思う。

 でも、ここは現代日本でやつらを捕まえるのは警察の仕事だ。


「僕と詩穂さんは奴らに会ったことはないけど、古橋先輩や篠木さんは顔バレしてる可能性がある。今後接触してくる可能性も捨てきれないから注意はした方がいいと思う。詩穂さんには僕から連絡しとくよ」


「もしまた‥‥あーしが襲われたらまた助けてくれる?」


「そんなの当り前だろ?」


「そっか、当たり前なんだ‥‥」


 女王様の顔が赤い‥‥ひょっとしてこれ地雷踏んだ?

 いやいやいや。たとえそうだとしても僕には詩穂さんがいるんだぞ。

 困っていて助けを求めている女の子をほっとける男子がいるのか? ちょっと前の僕だったら無理かもしれないけど、僕にはなぜか守らなければいけない気がする。

 それが何なのかは僕にはわからないけれど何となくそんな気がする。


「し~ずか! んでどうなったの? 進展した?」


 教室に戻ってきた篠木さんが女子に質問攻めに合っている。

 くうぅ‥‥やっぱりこうなったか、でも僕はやましいことはしていないもんね。

 だからこれは浮気ではないのだ。



 

 学校が終わった後は詩穂さんの家で勉強会の予定だった。

 

「でね~ 体育の授業大変だったんだから。涼真君も注意しなさいね」

「基本能力が上がってるみたいだから注意しないとだね」


 詩穂さんは自身の能力に戸惑っているみたいだった。

 あの不思議な世界でのレベルアップは確かに変化をもたらしている。

 数値的なものがないから実際にどれほど力が向上されているのかわからないけれど、一般的な高校生の身体能力を遥かに超え一流アスリートと同様かそれ以上かもしれない。それにスキルが加わるのだからその力は計り知れない。

 僕もこれ以上学校で目立ちたくないので、力のセーブは必然だろう。


 苦手だった科目も詩穂さんが教えてくれた。

 ほのかに香る詩穂さんのいい匂い。

 僕は詩穂さんを抱きしめたいのを必死に我慢して勉強しましたとも。


 時間軸がどうなっているのかわかんないけど、僕たちは今を大事にしたい。

 再びあっちの世界に行き次のステージをクリアできる保証はない。

 でも、僕は何としても生き残り、そして詩穂さんと同じ大学に行きやがては・・・

 そんなことは夢や理想かもしれない。

 でも僕はやると決めたのだから前に進むのみである。





 そして、詩穂さんと勉強&美味しいご飯の楽しい時間。距離感がバグっている篠木さんにつきまとわれる学校生活とも、しばしのお別れの時間がやってくる。

 次のステージが始まるの3日だとすると、時間的に今日のお昼過ぎだと予想されるの時刻が刻一刻と迫っている。

 どこからリスタートするのか、装備品は? 最初は何も持っていなかった。

 今回もそれと同じだと思われるけど、服装はどうなるのだ?

 ボロボロになった制服のままなのか? だとしたらなんかやだな。


 

 世界が暗転する。


 気が付くと僕はベットの上で寝ていた。

 横を見ると同じように詩穂さんが目を覚ましたようだった。


「詩穂さん」「涼真君」


 お互いが共に名前を呼び合う。

 再びこの部屋にやってきたのだと自覚する。


 幸いなことに服装はここに飛ばされる前の綺麗な状態にスニーカーだった。

 持ち物は相変わらずそれだけで時計もポケットに忍ばせていたコンパスもない。

 枕元にはお馴染みの謎仕様の黒いスマホと本が一冊。


 涼真 LV5 残り時間 358:02 


 次のミッションは‥‥

 ~ 転移ゲートを起動させよ ~


 はい、また説明なしのミッション来ました。

 せめてどこに向かえとか説明ぐらい欲しいものである。


「とりあえず。こずえちゃんと合流してレベルアップね」

「そうだね」


 扉を開けるとそこには案の定、童顔の小さな女の子がいた。

 

「「こずえちゃん」」

「先輩に涼真さん」


 再会を喜んで良いのか悪いのか微妙なところだが、まずはレベルアップを確かめてみることにした。


 お決まりの電子音が部屋に鳴り響いた。


 僕と詩穂さんはそれぞれレベルが上がりレベル6に、こずえちゃんは一気にレベル5まで上がった。

 涼真 レベル5 → レベル6

 詩穂 レベル5 → レベル6

 梢  レベル3 → レベル5


 僕と詩穂さんは順当として、こずえちゃんのそれはオーク戦の経験値がよほど大きかったと予測された。

 それほど強敵だったということであり、逆にいうと次のレベルアップにはそれ相応の経験値が必要ということである。


 僕はスキル:罠感知を新たに習得。そして残り1ポイントは温存。

 詩穂さんは温存してポイントを使い火魔術をレベル3に。

 こずえちゃんは全部で6ポイントある。弓術をレベル2に、そして風魔術を習得後そのままレベル2に、もう1ポイントは気配察知を習得した。


 涼真 身体強化LV2、剣術、水魔術LV2、精神強化、気配察知、罠感知

 詩穂 身体強化、火魔術LV3、土魔術、槍術、精神強化、気配察知

 梢  身体強化、弓術LV2、風魔術LV2、精神強化、気配察知


 問題は僕の装備品。剣は折れ、盾も破損している。

 回復の水でひょっとしたら修復できるかもと試してみたが何も変わらず‥‥わかってたよ。チクショー!‥‥ふたりの視線が痛い。


 そして、今後の行先はどこに行けばいいのか。

 もっとも、その心配もすぐ治まることになった。

 最初のゴブリンが出た回廊のドアがピカピカと点滅したからである。


 相変わらずの暗闇と静寂の空間。

 だが、気配察知でもゴブリンの存在は感知できない。

 扉から見て回廊のちょうど反対側に新たな扉が出現していた。


 扉を開けるとそこは小部屋になっており、地下へと続く階段と宝箱を発見した。


「宝箱!」


 やっぱ宝箱ってテンションが上がるよね。

 罠もなさそうだしウキウキしながら開けてみると中には‥‥

 一振りの長い剣、いわゆる[ロングソード]ってやつと、弓矢の束、魔石に羊皮紙らしき地図が入っていた。


「何このこれ? 動物の皮かしら‥‥地図みたいだけどこの階段の先かしらね」

「どれどれって、うおっ!」


 詩穂さんから地図らしき物を受け取った瞬間、地図は光を放つと僕のズボン、いや正確にはスマホに吸い込まれるように消えていったのだ。

 驚いてスマホを見ると新しいアプリのアイコンがあった。

 それは先ほどの地図を訪仏させるマップなのだが、表示されているのは回廊と女神像の間、それに土間と寝室に使っている部屋。次の画面には森林エリアのマップが表示されたのだけれど‥‥所々黒塗りになった状態なのである。


「なにこれ?」


 それは僕以外の詩穂さんたちのスマホにも変化をもたらしていた。


「これ、あれじゃないかな。オートマッピング機能‥‥一度行った所を表示する便利機能。だけど逆に言えば行ったことのない場所は表示されない。その証拠にマップの壁際に扉が二つ、僕たちと篠木さんたちの扉、そしてこれが神殿」


「そのようね。だから行ったことのないエリアは真っ黒なのね。そして、この真っ黒なエリアのどこかに殺人犯が潜んでいたのね‥‥」


 詩穂さんの言葉に一同に重い空気が流れる。そう、この再開された空間には久能と江連がいる可能性があるということ。

 オークを倒したのは僕たちでやつらは何もしていない。その結果がどう影響しているのかは僕らにはわからない。

 篠木さんたちも久能たちもいない可能性もある。


 ともあれ残り時間もあり、先に進むしかない。


 残り時間 336:30

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