第27話 再会④

 自転車を押す僕の腕に柔らかいものを押し付けるようにしがみついたまま歩いているのだが、はたから見たらどう見えるのだろう?


「また助けられちゃったね」

「結果的にはね‥‥もっと早ければ良かったけど」

「それは仕方がないっしょ。誰があんなの予想できるっての」

「それなんだけどさ‥‥じつは」


 僕は篠木さんに、あの世界の出来事とこっちの世界の関係について仮説を話した。

 もちろん岩木呂君の事故死の件も伝えた。隠してもいずれ彼女の耳に入るかもしれないし、現に篠木さん自身も被害に遭ってしまった。

 仮説が正しければ猿っぽい先輩も何らかの形で腕を失っている可能性もある。

 僕たちと違い篠木さんは何日も古橋先輩や岩木呂君と共に過ごしてたパーティメンバーである。その彼らの身に何があったかと気にならないわけがない。


 最初こそ驚いていた篠木さんだが彼女は強かった。驚くほどに強かった。


「それはそーと、あーしの身体どうだった?」

「ぶっ! 何言い出してんの?」

「あーしスタイルには自信あるんよね。おっぱいだってこの通り」


 むにゅん。篠木さんがワザと僕の腕に絡んでいる魅惑の果実を揺らす。

 腕に果実の柔らかさがダイレクトに伝わってくる。

 詩穂さんのそれとはまた違った柔らかさがあるそれ、クラスメイト、それもカースト上位の綺麗な女の子のあられもない姿が脳裏に浮かぶ。

 その魅惑の果実に僕の鼓動は速くなって、必然的に股間が突っ張ってくる。


「あれあれあれ~ 急に黙ってどうしたのかな~」


 篠木さんの普段の女王様らしさは想像もできないような小悪魔的な笑みべると、突然僕の視界が塞がれ唇が塞がれた。

 突然の出来事に僕は戸惑ってしまう。


「あっはっはっは。泰阜の反応おもしれーな。ご褒美だよ。ご褒美!」


「ご褒美って何すんだよ。誰かに見られたらどう説明すんのさ」


「そんなのいーじゃん。めんどくさい」


「ビッチはよくても僕には彼女がいんの。浮気と勘違いされたら困るんだよ!」


「ビッチって酷くね。あーしこれでも一途なんよ」


「はいはい。そういうことにしといてやるから、さっさと帰るぞ」


「ぶー、泰阜のいけず!」


 幸いなことに篠木さんの家は意外と近かった。

 まったく、彼女には調子を狂わされる。本当は辛いはずなのに僕にはそれを感じさせないように明るく振る舞っている節がある。


 せっかくなので家に上がっていけと誘ってくる篠木さんに丁重に断りを入れ、僕は帰路につく。


 詩穂さんにも学校での出来事を報告するのも忘れない。

 岩木呂君に続き、篠木さんもオーク戦と同じ結末になっていること。

 この分だと古橋先輩もどうなっているかわからない。

 連絡先もわからない先輩も気になるが、僕たちだってどうなるかわからない。

 

 誰かに相談することもできない。

 ダンジョンで生死をかけた戦いをしました。

 その結果、こっちの世界でも同様の出来事が起きました。って誰が信じる? 僕だったら精神科に行けと進めるね。

 でも、これは現実で実際に肉体的には変化をもたらしている。

 考えても仕方がないことだけど考えずにはいられない。


 唯一の救いは詩穂さんとのSNSでのやり取りだった。

 頑張ると決めた勉強の合間のやすらぎのひととき。

 まじで詩穂さん天使です。

 



 

 次の日の学校。

「おっはよー。あっ泰阜もおはよう」

「おはよ篠木さん」


 たわいもない挨拶なのだが、クラスはざわついた。

 今まで会話すらしたことない相手にクラスの女王様が直々に声をかけたのだ。

 不思議がる女子と男子からの妬みの視線。

 それだけならよかった‥‥なんと篠木さんは僕の席に居座り続けるのである。

 それにはクラス中の好奇と怨念じみた目線が集まった。


 うわあぁぁぁぁ!‥‥‥なんでこうなった。

 すごい悪目立ちしてるんだけど、篠木さんはどこ吹く風でのうのうとしている。


「静香いったいどうしたの? あんた泰阜だっけ?」


 そこにトップカーストの女子が質問をしてくる。

 クラスメイトの名前すら憶えられていない僕にとって、女子に囲まれるのはモンスターとの戦いとは別の緊張感に包まれる。


「しずしず彼氏がいるのにどうしたのよ。あっ! ひょっとして喧嘩でもしたの? それで当てつけでこんなのと一緒にいるのね」


「こんなの言うなし! もう裕君とは別れたし。泰阜を馬鹿にしてっと後悔するよ」


「ちょっと別れたって静香本気なの? あんなにラブラブだったのに」


「もう、あんなのはどうでもいいっしょ。今は泰阜にLOVEなの」


 その一言でクラス中に黄色い声が飛び交い、男子の怒号のような悲鳴と妬みの視線が集まってくる。


「ちょっと篠木さん! 僕には詩穂さんがいるから」


「知ってるよ。でも、そんなの関係ないっしょ。好きになったのはホントだし、あーし自分に嘘をつきたくないのよねー」


「泰阜! お前彼女いたのかよ! てめえ、この裏切者め。彼女いないって言ってたのは噓だったのかよ。彼女がいてさらに別の女性に言い寄られるとは‥‥なんて羨ましいやつ!」


 男友だちまで集まってきた。ごめん彼女がいなかったのは本当。しかし、迷宮で彼女を作りましたとは言えない‥‥そのうえ篠木さんとの関係も言えない。

 その結果‥‥カオスな状況になりました。


「泰阜って、あんな奴だったけ?」

「さあ、今まで気にしたことなかった」

「でもさ、何か顔つき変わってなくない? 何か堂々としてるっていうか、そんな感じ。前はもっとオドオドして自信なさげだったのに」

「あっ、それわかるかも。静香はそれをいち早く見抜いたのかな」


 そんな話が授業中にもかかわらず聞こえてくる。

 本当に勘弁してもらいたいものである。


 そして、昼休みになると隣のクラスや3年の教室で異変が起こった。

 加賀君が篠木さんとの約束を守り坊主頭にしてきたからである。

 笑いの渦に包まれる部員も本当のことは言えず、あくまでも部活動の一環で頭を丸めたと説明したようだが自坊自得だと僕は思った。

 僕にとって野球部がどうなろうと知ったことではない。

 それよりも気になる話が舞い込んできた。


「ねえ、昨日の人身事故の話聞いた?」

「農高の生徒が付き落とされたってやつよね」

「うん。それそれ、その突き落としたのが工業の久能らしくて、まだ捕まってなくて警察が探してるってさ」

「久能だって!」


 クラスメイトの女子が集まっておしゃべりしているのに篠木さんが食らいついた。

 久能‥‥札付きの悪で江連とコンビを組んで悪さをしている迷惑な連中だ。

 そして、あの世界でも篠木さんたちは遭遇し魔石を奪われたとか。


 僕は昨日見たニュースを思いだした。

 

「―――――目撃者の証言によりますと、駅のホームにて高校生同士の争いがあり、亡くなった男子高校生は線路に突き落とされ、同駅を通過中の特急列車にはねられたとのことです」

「―――亡くなったのは市内に住む高校生 ――――――――警察は逃げた男子生徒を重要参考人として行方を追っております――――」

 

 岩木呂君と駅のホームで争ったのは久能で、そのまま逃走して現在も捕まっていないということなのか‥‥‥


「工業の久能って半グレとかヤクザとかと繋がりがあるって噂のヤバいやつじゃん」


 そう、そのヤバい奴があの世界でもいて、おそらくレベルアップして相当な力をつけているのだ。本気になれば警察から逃げることなど造作もないことに違いない。

 ヤバい奴が与えちゃいけない力を持ったことで、今後同様の事件も起こるかもしれない‥‥いや、きっと起こるに違いない。

 

「泰阜ちょっとこっちへ」


 篠木さんに言われて教室を出ていく。

 クラスメイトに後で何言われるか怖いが、事態はそんなことを気にしている場合ではないのだから。


 


 

  〜〜 あとがき 〜〜

 お読みいただきありがとうございます。

 現代日本へと戻ってきた面々を襲った出来事。

 涼真君たちの今後が気になった、続きを読みたい

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