第39話 テロリスト①
「久能…お前か!」
「正解だ! 俺はお前のような奴を探していた。昼間は邪魔が入ったが楽しかったぜ! お前もそうは思わないか?」
「ふざけるな! 人を殺しといて楽しいだと? お前頭おかしいんじゃないか
? 子どもの喧嘩とは違うんだぞ!」
「弱い奴が死ぬのは自然の摂理だ。世の中弱肉強食なんだよ! お前だってモンスターをいっぱい倒したろ? 楽しかったろ? お前も認めろよ。お前も俺と変わんねえんだよ」
「ち、違う! 僕は生き残るために必死だったんだ。生き残るためにモンスターを倒した。そうしないと僕が、僕の大事な仲間が殺されてしまう‥‥だからモンスターと戦った。お前と一緒にするな!」
「くっくっく…まあいい。本題に入ろう。俺はお前とタイマンを張りたい。だが、素直に戦ってはくれまい、違うか?」
「ああ、その通りだ。なぜ凶悪犯であるお前とサシで戦わなければならないんだ」
「――だと思ったよ。なのでお前をその気にさせる舞台を用意してやった。市内のある所に爆弾を隠してある。お前が拒めばドカンだ」
「お前‥‥それ本気で言っているのか? これ以上関係のない人々を傷つけるな」
「そう思うなら、今から指定するところに1人でこい。サツにはどうせ見張られてんだろ? 言うなとは言わんが場所には1人でこい。もしサツと一緒に来たらどうなるかはわかってんだろ?」
「わかった‥‥‥‥で、場所は?」
電話を切るとそこには心配そうな顔をした詩穂さんがいた。
「本当に1人で行く気なの?」
「ああ、そうしないとたくさんの犠牲者が出ることになる。詩穂さんにも話は聞こえていただろ?」
詩穂さんがこくんと頷く。
奴の言いなりになるのは不本意だが、そうせざるを得ない。
とりあえずは、病室の外で待つ刑事さんに事情を相談しよう。
※
僕は用意してもらった竹刀と防弾チョッキを身に着け、指定された場所へと自転車を飛ばしていく。
指定された場所は山間部にあるメガソーラー太陽光発電所。
そこには黒塗りのいかつい高級車が止まっており、これまたいかにも危ない黒服の輩が立っていた。
「泰阜だな?」
僕を見つけた危なそうな人物が凄みを利かせてきた。
「ああ、久能はどこだ?」
「ついてこい」
僕を値踏みするような目で睨むと踵を返し歩き出した。
その後を僕は警戒しながら追う。
周囲には目の前の男以外にも気配が複数ある。
その先には‥‥この場でもっともデカい気を持つ男がいる。
「よう泰阜、ちゃんと1人で来たようだな」
「久能‥‥!」
そこにはふてぶてしく腕を組んだ久能が立っていた。
「この連中は何だ? タイマンじゃないのかよ」
敵地だというのはわかる。奴が真の戦闘狂なら 1 対 1 のタイマンを望むはずだ。
こいつらは僕が逃げない、逃がさないようにするため、もしくは他者の介入を防ぐためと思われるが念には念を入れて確かめる必要がある。
「心配するな。こいつらは俺のいわばスポンサーよ」
「スポンサー?」
スポンサーってこいつらが? こいつが半グレなど反社会的勢力と繋がりがあるのは知っている。そいつらがスポンサー?
「ああ、俺は今こいつらのお世話になっている。こいつらはなあ、どこかの神々と同じで糞みたいな連中だ! どこの世にも汚い大人はいるもので、政治家はもちろん実業家、金持ち連中は娯楽に飢えてんだよ。そいつらの今の興味は賭け事、ここまで言えばお前でもわかるだろ?」
「僕とお前のバトルか?」
「大当たり! 正解だよ。 なっ? 糞ったれな連中だろ? 武闘派の俺と一般人だが神のゲームをクリアした高校生。オッズは 6:4 だとさ」
「狂ってやがるな」
「ああ、狂ってやがる。だが、それこそ俺の望んだことだ」
こいつの頭の中は戦いしかないのか? どこの戦闘民族だよ‥‥もしくはバトルジャンキーか? どっちもろくなもんじゃない。
そして、この場にいる輩の黒幕も同様だ‥‥‥‥これが裏の世界‥‥知られざる日本の闇の連中の顔か‥‥‥‥
僕が戦いを拒めば関係のない大勢の人が犠牲になる。最低だな。
「それはそうと
「ふん。奴はこの場にはおらん。爆弾がどうとか言ってたがな。奴の居場所を知りたくば俺を倒してみせろ。そしたら教えてやろう」
「ならば、さっさと教えてもらうとするか!」
僕は竹刀を構える。久能は両手にメリケンサックをはめて格闘家のようなファイティングポーズを取った。
「こい、泰阜!」
久能が野太い声で挑発する。
そこへ凄まじい速度で僕は踏み込んだ。竹刀の間合いは掴んでいる。
上段から振り下ろされる竹刀。久能はそれを両手を交差して受け止める。
次の瞬間、僕は素早く後方へと跳び間合いを保つ。
竹刀と拳の間合いの差を利用したアウトレンジ戦法だ。
馬鹿正直に奴の間合いで戦うほど馬鹿ではない。
「フハハハハ。いいぞ泰阜! だが ―――」
異変を感じたのは瞬間だった。研ぎ澄まされた純粋な殺意とでもいうのか、異様な悪寒、心臓を鷲掴みにされたような感覚は背筋を震わせた。
一瞬で間合いを詰めた久能の右拳が僕の腹部を深々と抉った。
「ぐはっ!」激しい衝撃が腹部から脳天まで突き抜け、呼吸が止まる。
防弾チョッキを着こんでいてもなお意識が飛びそうになるほどの強烈な一撃。
特殊な繊維のおかげで内蔵破裂やあばらが折れるのは免れたが痣は確実だろう‥‥威力が少し分散されてもこの衝撃、化物か‥‥‥
乱れた呼吸が整う間もなく奴の拳が迫る。
逃げればやられる。僕はそう判断し歯を食い縛って反撃に転じる。
竹刀のリーチを考えればカウンターも可能だ。
激しい衝撃音が轟き、久能が苦鳴を漏らす。
そこからは異世界で力を身に着けた者同士の超常を超えた戦いだった。
竹刀と拳、蹴りも混ぜながらの極限を超えた戦い。
ソーラーパネルを足場にした戦い、次々と粉砕されるソーラーパネル。
繰り出される怒涛の攻撃に僕は多彩な技の連撃で対抗する。
それでもすべての攻撃を捌ききれず、背後に弾き飛ばされる。
大きく体勢を崩した僕を見て、それを好機到来とばかりに襲いくる。
半塲苦し紛れに放った突きを久能は易々と躱した。――だが、それは牽制であり、本命は右の回し蹴り。
左脚を軸に胸椎の回旋と股関節の回旋で放つ上段回し蹴り。
狙いは久能の顔面 ―――だが、鈍い音とともに僕も弾き飛ばされる。
久能は蹴りまで読んでいたのだ。その蹴りに合わせて繰り出される拳。
相打ち‥‥ここまで戦い、僕も久能も互いに傷ついている。
だが、ここにきて経験と地力の差が表れてきている‥‥バトルジャンキーと一介の普通の高校生の差が出ている。
戦況は僕が不利である‥‥周りはすべて敵、味方は誰もいないこの状況。
どうにか流れを変えなければならない。
「いいな。お前はおもしろい。お前と戦って俺がどれだけ強くなったのか理解したよ。この力は異常だ。残念ながらお前では俺には勝てん。本当に残念だよ」
その言葉と裏腹に久能は笑っていた。
心底戦いを楽しんでいる顔だ‥‥だけど僕だって負ける訳にはいかない。
負けられない理由がある。
僕が負けたら多くの人々が犠牲になる。
‥‥‥いや違う、そうじやない‥‥守りたいのは詩穂さんの笑顔だ。
詩穂さんは僕に言った。僕と結婚して幸せになるのだと。
僕はこいつと江連を倒して詩穂さんの元へと帰らなければいけないのだ。
こんなところで弱気になっては篠木さんにも笑われる。
「お前と江連を倒し、犯した罪を償ってもらうぞ!」
そう宣言することで気持ちが昂っていく。
「決着をつけよう!」
ふたりの異能の力を持つ戦士は同時に地面を蹴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます