第38話 襲撃③
火薬の破裂音‥‥銃声? 警察官がいきなり発砲したのかと思ったが、警察官の反応を見る限りどうやら違うようだ。
では誰が発砲した? 僕も久能も無事だぞ?
その答えは最悪な形ですぐに判明した。
「きゃああぁぁぁぁぁ!!」
女生徒の悲鳴だ。
その女生徒の足元には倒れた別の女生徒の姿があった。
僕と久能が戦っているこの場所からだいぶ距離が離れているので、誰が撃たれたかまでは判別できないが女生徒だというのはわかる。
そして、発砲した犯人とおぼしき拳銃を持った男、鋭い切れ長の目とエラの張った顔が特徴の男がこちら、いや久能に手で合図を送ってくる。
久能の仲間なのか? 警察官に囲まれる前に別の所で騒ぎを起こしその隙に逃げる魂胆なんだろうがそうはいかない。
「逃がすと思うか!」
奪取した金属バットを持ち、久能の行く手を阻むように金属バットを振り上げ―――渾身の力を込めて振り下ろした。
肉を打つ重い音が響く。
「ぐうっ…!」
肩口を狙った金属バットは左腕でガードされてしまったが鈍い音が聞こえた。
骨折少なくとも骨にヒビが入ったはずだ。
このチャンスを活かすべく追撃を掛けようとしたとき僕を呼ぶ声が聞こえた。
「泰阜、静香が! 静香が死んじゃう!」
――――ッ!!
ま‥‥まさか‥‥撃たれたのは篠木さん?
泣いて僕の名を叫ぶのはクラスメイトの女子。篠木さんの取り巻きのひとりだ。
泣き叫ぶ彼女は、普段から篠木さんの味方をして僕と関係を持つように画策してくる困った人だが悪い人ではない。
その彼女が僕の名を必死で呼ぶ理由‥‥‥‥だが、そうすると久能には確実に逃げられてしまう‥‥‥どうする?
僕は‥‥篠木さんを選んだ。
それが愚かな行為だということも知っている。
ここで奴を逃がせばさらなる犠牲者が出てしまうだろう。
だけど‥‥僕は‥‥篠木さんを‥‥そのままにはできなかった。
「篠木さん! しっかりして!」
左胸を撃たれた篠木さんが虚ろな眼で横たわっている。
もう意識がない虚ろな眼だ‥‥
彼女を抱きかかえて、彼女の名前を叫ぶ。
「篠木さん!」
なんで篠木さんがこんな目に? せっかく生き延びたのに‥‥
「りょ‥う‥‥ま‥く‥‥」
彼女の目が動き僕と目があった。
か細い声で僕の名前を呼ぶ。
彼女の手を握りしめる。
「ああ、僕はここにいるよ。だからしっかりするんだ」
「‥‥‥‥」
彼女は安心したように笑みを浮かべた。
だが‥‥無情にもその瞳は次第に光を失っていった。
クラスメイトの女の子の泣き叫ぶ声が木霊する。
※
「泰阜‥‥君だね? ちょっとよろしいかな?」
篠木さんを乗せた救急車を見送って呆然とする僕に声を掛けてきたのは警察手帳を持った男性だった。
「学校を襲撃した犯人は、この久能 剛嗣と江連 清慈の両名で間違いがないのだな」
「はい。間違いありません」
任意同行を求められ先で出されたのは犯人とおぼしき写真だった。
江連の方は一瞬しか見ていないが蛇のような顔つきは見間違える訳がない。
駅のホームでの突き落とし事件から始まった2人の犯行は、それだけにとどまらず、病院での学生の殺害、逃げる際に巻き添えになった市民、警察官にも死傷者が出ているようだった。
僕は亡くなった岩木呂君、古橋先輩、そして篠木さん、犯人であり現在も逃亡中の2人との共通点であるあの世界のことを包み隠さず話した。
もちろん、その世界から帰還した詩穂さんとこずえちゃんのことも話した。
最初こそ何言ってんだこいつ? みたいな顔をされていたが、途中から現れたお偉いさんは意外にも僕の話を真剣に聞いてくれた。
これには僕も驚いた。だって迷宮だのモンスターだの魔法や神様だって出てくる話を、大の大人が真面目に聞いてくれるとは思わないだろう普通。
だが、そのお偉いさんから話されたことはもっと衝撃的だった。
公にはなっていないが、神々の遊戯については昔から存在しており国もその存在を把握しているそうなのである。
内容についてはその時々により様々らしいが過去にも同様の遊戯は行われ、生還者も複数いるらしかった。
生還者はその与えられた力を使いスポーツや格闘家として成功しており、最近では東日本大震災後の被災地から選ばれた生還者が遊戯に参加したらしい。
表向きはちょっと感の鋭い人、身体能力が高い人、動物と会話ができる人、様々であり今でも普通に暮らしてるそうだった。
だが、良い人ばかりではないらしく、能力を悪用する人ももちろんいる。
暴力沙汰を起こす者、過去一番最悪なのは僕が生まれる前に起こった事件。異能の力を悪用し新興宗教団体を作りテロまで起こしたこともあったそうだ。
今回の久能と江連の2人も能力に溺れ悪用するケースだ。
おそらく奴らの目的は同じ生還者である僕らとの戦いであり、弱い奴から殺されている。狙いはゲームをクリアした僕らとの戦い‥‥
すでに詩穂さんとこずえちゃんは警察官が無事保護してくれているらしいので一安心なのだが、問題は逃げた奴らの足取りと行動だった。
もとより半グレや暴力団である黄龍会との繋がりが噂されていた危ない連中だ。
江連の持っていた拳銃もそのルートから入手したものと推測される。
※
―――病院のとある一室。
そこで僕は泣いていた。
詩穂さんの胸に身体を預け泣いていた。
「彼女は‥‥篠木さんは‥‥昼間で元気にしてたんだよ。それなのに‥‥それなのにどうしてこんなことに‥‥‥‥」
篠木さんはクラスでも目立つ存在だった。
それまで話したこともなく憧れの存在だった彼女。
あの世界で共に戦い生き残ったことで仲良くなった。
野球部とのいざこざで彼女を救ったこともある‥‥それから彼女につきまとわれることになったのだが嫌じゃなかった。
お昼は一緒にお弁当を食べたり、小鳥と戯れる彼女を見るのは楽しかった。
彼女のおかげで学校生活も楽しくなった。
だが、その彼女はもう‥‥‥
詩穂さんが優しく僕の頭を撫でてくれる。
「僕の腕の中で篠木さんは‥‥」
僕は声を出して泣いた。
そんな僕に詩穂さんは優しく語り始めた。
「ねえ、見て彼女の安らかな顔‥‥ 昨日ね、私に彼女はこう言ったの『いつか涼真君を振り向かせてみせる。私から奪い取る』って、だから私は言ったの『取れるものなら取って見なさい』って、そうして笑い合ったの。ねえ、彼女らしいでしょ? それくらいあなたのことが好きだったのよ‥‥‥」
僕は無言で詩穂さんの話を聞いた。
「そんな彼女は最後に好きな男の子の腕に抱かれて逝ったのよ‥‥素敵なことだと思わない? 私もできることなら、あっ勘違いしないでね。死にたい訳じゃないの。私はあなたと大学に行って結婚‥‥して子供産んで‥‥歳を取って孫の面倒みて、そして寿命で死にたいの。もちろんあなたも一緒よ」
‥‥‥‥詩穂さん。
「私の言いたいことね‥‥彼女のことは悔やまれるし悲しいことなんだけど、彼女は最後だけは幸せに包まれて逝けたのよ‥‥‥」
僕は詩穂さんの言葉で胸を締め付けられるような感じになった。
彼女の安らかな笑顔が思いだされる。
悲しさが溢れ、涙が止めどなくこぼれてくる。
「いいのよ。この場には誰もいないわ。悲しいときには泣いていいのよ‥‥泣いても誰もあなたを責めないから‥‥‥だから‥‥強く生きなさい」
ひとしきり泣いた僕は考える。
どうして彼女はこんな目にあったのだろう。
僕がもっと注意していれば‥‥久能に共犯者がいることを見抜けなかったこと‥‥明らかにおかしな気配を見逃したこと‥‥考えたらキリがない‥‥
久能と江連‥‥あいつらは絶対許さない!
そんなおりスマホの着信音がなった。
こんな時にいったい誰だ? 無視しようかと思ったが画面に表示された名前を見て戦慄が走った――――そこには篠木さんの名前が表示されていた。
どうして篠木さんから? 彼女は僕たちの前にいる。
じゃあ誰が? 彼女のスマホはどうした? 誰かが使用しているのか?
「‥‥もしもし?」
「よう泰阜、俺が誰だかわかるな」
スマホから聞こえる野太い声は‥‥忘れもしない奴の声だった。
〜〜 あとがき 〜〜
お読みいただきありがとうございます。
悲しみに暮れる涼真君に掛かってきた一本の電話。
涼真君たちの今後が気になる、続きを読みたい
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