第2話 迷宮②

 扉を開けると暗闇はそのままだが少し雰囲気が違う。

 なんというか、モンスターが出るかもしれないと思うと緊張して重苦しい雰囲気になってしまう。


 通路は相変わらずの一本道。

 自分の足音以外は静寂に包まれた世界‥‥怖くないといったら噓になる。

 一寸先は闇という言葉があるがまさにその通り。

 正確には自分の周囲10mくらいは明るい。

 それ以外は暗闇なのだが、一本道なので迷うことはないだろう。


 だがそれも終わりを告げるときがきた。

 通路の先はT字路になっており左右に道が分かれていた。

 

 うう~ん。どっちに進もうか。

 迷路の攻略法として左右どちらかの手を壁に当てたまま進めばいずれゴールにたどり着けるというものだが、はたしてそれが迷宮に通用するのかわからない。

 隠し通路やトラップがあった場合はどうする? ここまでその手の類いはなかったような気がするがここからは慎重に進もう。


 とりあえず、右の通路に進むことにした。

 

 しばらく進むと今度は左に曲がる角があった。

 そして、なにやら物音が聞こえる。

 モンスターのお出ましかと思い、おそるおそる角から顔を出し覗き見る。


 通路の先は相変わらず暗闇が広がっていたが、明らかに物音いや足音がする。

 足音から察するに一体のモンスターでその足音はそう重くはなさそうだ。

 

 どうする? ここで待ち構えるべきか、それともこちらから打って出るべきか?

 待ち構えるにしても打って出るにしても、僕の周囲は常に明るくなっている。

 モンスターから見れば僕がいる場所などバレバレだろう。

 ならば先手必勝だが、相手のモンスターがどんなやつでどのくらい強いのかもわからない状況で、むやみに近づいて良いのだろうか?


 考えた末だした答えがゆっくりと進むというもの。

 待ち構えていても時間がかかるし、突撃するのは危険だと判断したからだ。


 モンスターとの距離が近づき暗闇に人影が浮かび上がる。

 その人影は二足歩行で四肢を備えた人型のモンスターだった。

 相手も僕を威嚇するように何語かわからないが喚いている。

 

 近づくにつれその容姿がハッキリしてくる。

 あれはゴブリンか? ゲームによく出てくる雑魚モンスターにそっくりだった。

 小学生低学年ほどの体躯に醜い顔つき、肌の色は緑で尖った耳、一見してモンスターであるゴブリンの特徴と一致する。


 ゴブリンと仮定してどうするべきか?

 武器は持っていないようだが、雑魚モンスターと思って舐めて掛かってはいけない。戦闘のプロならまだしも僕は喧嘩すらしたことがないのだから。


 ゴブリンと目が合った。醜く醜悪な顔つきは嫌悪感がすごい。

 言葉はわからないが、こいつ絶対僕のこと獲物だと認識してるよな‥‥鋭い目つきに尖った鼻と耳、眉毛も髪の毛もないハゲ頭、腰に巻いている布切れがいかにも知能が低そうだった‥‥そんなゴブリンに獲物扱いされてるの僕?

 こうなれば一か八か剣を振りかぶりゴブリンに向け駆け出した。


「うおおぉぉぉぉぉ!」

 

 そしてゴブリンに近づいた僕は、上段からゴブリンの肩口へと斬りつけた。

 剣から手に肉を切った感触が伝わり、ゴブリンの肩から腹まで一刀の元に切り裂くとゴブリンはその場で倒れ伏した。


 えっ!? 弱っ! あっけなくゴブリンを倒した僕。

 

 床に倒れたゴブリンが粒子となって消えていくと、その場に小さな石が残った。

 ドロップアイテムだろうか? 小さな石は黒く光っている。

 演出がどう見てもゲーム仕様だからか、ゴブリンを殺したという感情が薄い。

 黒い石を拾いスマホらしき物を見るとカウントが止まっており、ミッションクリアの文字があった。

 どうやらゴブリン一体でクリアとなったようだ。


 だが、レベル表示は0のままでレベルアップはしていないようだった。

 ゴブリン一体でレベルが上がることを期待したが甘かったようだった。

 経験値がどのようになっているのかわからないけど、レベル表示があるということはレベルも上がると言うことで間違いないであろう。


 カウントは残り28分で止まっており、本を開くとさっきは白紙だったページに文字が浮かんでいた。

 

 ~ 初ミッションクリアおめでとう ~

 次はレベルアップだね。女神像の手にスマホを乗せてごらん。


 相変わらず説明文が足りない。

 女神像ってさっきの部屋の泉のやつのことかな?

 それ以外に女神像について思い当たる節がない以上、あの部屋まで戻る必要がある。

 

 カウントダウンが止まっている以上急ぐ必要はないが、選択肢は二つある。

 まず一つ目は元来た道を引き返す。

 二つ目はこのまま通路を先に進むことだ。


 モンスターの脅威が去った今、僕の興味はこの先に何があるかだだった。

 ひょっとしたらこの先に新たな扉があるかも知れない。

 もし行き止まりだったら引き返せばいいだけだ。

 それにさっきのT字路の反対側の先も気になるところだ。


 ミッションクリアの報酬は何かな? この先に扉があってそこに宝箱があるとかだったら良いなぁ‥‥そう思って先に進む。

 



 しかし、そのワクワク感も杞憂に終わることになった。

 三つほど左に角を曲がるとまたT字路にでたのだ。

 んんんん? 正確にどれくらい歩いたかわからないけど、ひょっとして一周しちゃった? 同じような壁、先の見えない通路だが四つの角を曲がれば元の位置に戻ってきてもおかしくない。


 ならばこのT字路を右に曲がれば女神像のある部屋に通じているはずである。

 仮説を証明すべく通路を進むと扉があった。


 扉を開けるとそこは案の定、女神像のある部屋だった。


 泉に立つ女神像。右手は水の出る壷を肩に乗せ壷を支えているが、左手はちょうどスマホを乗せることができそうだった。


 差し出された左手にスマホを乗せると女神像が輝きだし、スマホの電子音が部屋に鳴り響いた。


 涼真 LV1 スキルポイントを1ポイント獲得しました。


 どうやらレベルが上がったようだ。


 スキルポイント? このポイントを消費して特殊スキルを手に入れることができそうだがどれを選ぼうか?


 身体強化、剣術、槍術、投擲術、格闘術

 精神強化、気配察知


 最初に選べるスキルは全部で七つ。

 肉体的もしくは戦闘面で役に立つ攻撃的スキルか精神面のスキルか‥‥選べるのは一つだけ。レベルが上がればまた選べるだろうけどどれにしよう。

 今後の探索、すなわち生死を左右する大事な選択肢の一つである。


 今後もモンスターと戦うことを考えれば攻撃系スキルが良いかな?

 身体強化は腕力や脚力が上がるのだろうし、剣術は剣の極意みたいなのが理解できるのかもしれないし何か技みたいなものが使えるかもしれない。

 槍術や投擲術は今現在武器が剣のみだし必要ないだろう。

 格闘術は素手や蹴りで戦うスキルだろうが痛いのは嫌だ。

 精神強化は良くわからない。精神強化ってなんだ? メンタル強化? 

 気配察知は魔物の気配を察知するスキルだろう。


 僕は悩んだ末に身体強化のスキルを選んだ。

 

 スキルを選ぶと次のミッションが表示された。

 次のミッションはモンスターを2体倒すことだった。

 そして再びカウントが動きだした。


 涼真 LV1 残り時間 89:36

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