迷宮を生き抜くために
たぬきねこ
第1話 迷宮①
うぅぅ‥‥ん‥‥‥
えっ? ここどこ?
自分の部屋でも学校の保健室でもない。
目が覚めると知らない部屋だった。
なんなんだここは?
石造り? いやレンガかな? とにかく、そんな感じの部屋で目が覚めた。
広さは6畳くらいだが天井は高く4mくらいはありそうだった。
記憶を辿る‥‥たしか眠くなる古文の授業中だったはず‥‥
それがどうして僕はベットで寝ていたんだ? しかも靴を履いたまま。
僕が寝ていたパイプベット以外は何もない部屋。
窓はないが向こうに木製の扉が見える。
天井に照明の類いは見当たらないが、部屋は結構明るい‥‥壁や床が少しだけ光っている感じで不思議な光景だった。
悪い夢でも見ているのか? それとも誘拐でもされたのか?
拉致監禁されたと仮定して誘拐犯の目的は?
僕の家は一般的なサラリーマンの家庭で裕福ではない。
身代金なんか期待できない‥‥だとしたら?
まさか海外に売られるとか? 労働力か臓器売買‥‥どのみちろくな未来は見えそうにない。
とりあえず現状の把握だ。幸い手足は縛られていないし外傷もないようだ。
服以外は何も身につけておらず、スマホももちろん持っていない。
今が何時何分かもわからない。
朝なのか昼なのか‥‥でもお腹は少し減っているので朝だと仮定しよう。
情報があるとしたら、あの扉だ。
アンティーク風の木製扉にそっと近付きそっと聞き耳を立てる。
物音が何一つしない静寂 ――― 誘拐犯は扉の向こうには居なさそうだ。
鍵の類いはついてなさそうだが、外から鍵がかかっているかもしれない。
丸いドアノブに手をかけそっと手前に引くと扉が開いた。
なにこれ? 誘拐犯って馬鹿なの? 逃げちゃうよ。
ここがどこだかわかんないけど、物音しない状況からして地下室かも知れない。それなら窓がないのも納得がいく。
おそるおそる部屋の外へ出るとそこは一本道の廊下が続いていた。
自分のいる部屋の入り口以外は闇に覆われ先が見えない廊下。
音が一切しないシーンと静まり返った闇に包まれた空間‥‥‥
鬼が出るか蛇が出るか‥‥先がどうなっているのはわからない。
ゆっくり慎重に廊下を進む。
不思議なことに、廊下を進めば進むほど辺りが明るくなっていく。
逆に振り返ると後ろの通路は暗くなっていた。
どうやら自分の周りだけ明るくなるようだった。
なにこれ? どんなアトラクションだよ。
誘拐犯じゃなく愉快犯の仕業か? ドッキリ企画か何かかな?
どこかでモニタリングしてるのか? 最近の小型カメラは優秀らしいからどこに隠されてるかはわからない。
そう考えると少し気が楽になった気がした。
そして、再び目の前に木製の扉があった。
一応聞き耳を立てても物音は聞こえない。
ゆっくりと扉を開くと、先ほどの部屋より広い空間があった。
部屋の中央には噴水があり、女神像の持つ壷から水が流れ落ちていた。
真水を飲んで平気かどうかわからないけど、これで少なくとも喉を潤せる。
それ以外には宝箱? どう見ても宝箱だよねこれ?
映画やゲームに出てきそうな1mほどの大きな宝箱がそこにあった。
開けちゃう? 宝箱が目の前にあったら開けないという選択肢はないだろう。
幸い鍵はついておらず開けられそうだ。
くっ! 蓋が結構重い! 苦労して蓋を開けるとそこには‥‥
一振りの剣と1冊の本、そしてスマホがあった。
なぜスマホが? と思ったがこれで外部と連絡が取れるかもしれない。
ロックがあっても電源さえつけば緊急通報が使えるから問題はない。
僅かな望みを託して黒いスマホを手に取ってみる。
えっ? それはスマホではなくスマホに似たモノだった。
涼真 LV0 残り時間 102:54
画面に映し出されたのは自分の名前とカウントダウンされる時間だった。
側面のボタンとカメラ以外は充電ケーブルを刺す穴もないスマホに似た黒い物体。
考えているうちに時間がどんどん減っていく。
なんだこれ? 残り時間? 0になるとどうなるんだ?
よくわからないが電話としては使えそうもない。
仕方がないのでスマホらしき物体をポケットに突っ込み、古ぼけた本を手に取ってみた。
なになに、本のタイトルは冒険の手引き書? なんだこれ?
冒険ってなんだよ! ゲームかよ。
ページをめくってみると、そこにはこう書かれていた。
~ ようこそ神々の遊び場へ ~
あなたは神々によってこの迷宮に連れてこられました。
元の世界に帰るにはこのゲームをクリアしなくてはいけません。
これは夢ではありません。死ねばそれで終わりです。
この部屋より先に進めばモンスターの出る迷宮が広がっています。
まずは制限時間内にこの先にいるモンスターを倒してください。
ちなみに制限時間内にモンスターを倒せないと、ゲームオーバーでペナルティが待っていますので注意してください。
では検討を祈ります。
はあ? なんだよこれ迷宮? 神々? モンスター? 悪ふざけにしては手が込んでるな‥‥誘拐犯の仕業ではなさそうだが、もっとタチが悪そうだ。
神々ってなんだよ‥‥神様っているのか? 仮にいるとして暇なの? 暇なんだよね? 絶対暇だよね。そうでなかったら邪神だよね。
次のページをめくってみても白紙だった。
情報すくなっ! こんな状況説明では全然理解できないよ。
とりあえずこの先に進めってことだよな。
モンスターって魔物とか妖のことだよな‥‥武器はこの剣一本。
鉄製の剣らしく持つとかなり重い。
両刃の刀身で刃渡りは70~80cmはありそうな西洋風の剣は俗にいう片手剣、ブロードソードってやつかな。
鋭い刀身は結構切れ味が良さそうだが、僕は剣なんて握ったのはこれが初めてでありどう使っていいのかもわからない。
とりあえず素振りしてみるも剣の重さに振り回されている感が半端ない。
他に使えそうな物はと‥‥壁に掛けてあったリュックが一つ。
後は何もない。食べ物もトイレもない状況で時間だけが刻一刻と過ぎていく。
飲み水だけはあるのが不幸中の幸いか。
人間は1日におよそ1.2リットルほどの水分補給を必要とすると聞いた気がする。
そうしないと脱水症状を起こし頭痛などの体調不良になってしまう。
この部屋の温度は快適だが、水筒やペットボトルがない状況では飲めるうちに飲んでしまった方がよさそうだ。
泉の水はすごく透き通っていて飲んでも大丈夫そうだ。
旨っ! 両手ですくって飲む水はめちゃくちゃ美味しかった。
まるで体中の毒素が抜け元気が溢れ出そうなほどスッキリした気分になった。
こんな美味しい水、生まれて初めて飲んだよ。
市販のどの天然水より美味しいよこれ。
ペットボトルがあれば持っていきたいくらい美味しい水だった。
そうこうしているうちに残り時間は残り71分となっていた。
とにかく先に進もう。
本をリュックに仕舞い、背負うと剣を片手に扉を開けた。
涼真 LV0 残り時間 68:36
〜〜 あとがき 〜〜
主にノクターンにて執筆している「たぬきねこ」と申します。
この度は新作「迷宮を生き抜くために」を読んでいただきありがとうございます。
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★★★をよろしくお願いいたします。
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