第14話 遭遇②

「ユニークスキルって?」


 僕は篠木さんに聞いてみた。

 クラスでは話す機会はなかったけど彼女は目立つ存在だったから、こんな状況とはいえちょっと話せて嬉しい。


「あーしのスキルはビーストテイム。まだ使い方がよくわかんないんだけどー、古橋の話ではモンスターや動物を使役できるかもって」


 ビーストテイム‥‥テイマーか。クラスでも女王様のように振る舞っていたし、モンスターを従えた篠木さん‥‥安易に想像できるのが怖い。

 そして、今は男2人を従えていると‥‥


「俺のは獣人化だ」

「獣人? なるほどそれでその姿に‥‥」

「おいっ! 今、俺のことサルだと思ったろ! 言っとくがこれは素顔だからな! 俺のスキルは獣人、犬の嗅覚と力をこの体に宿すことができるのだ! サルじゃないぞ! 犬だ犬! もう一度言う犬だからな!」

「‥‥はい‥‥」


 そこまで否定するとは‥‥いや、詮索するのはよそう。


「俺のスキルはアナヲホルモノ」

「穴を掘る者?」


 目つきの悪い岩木呂君はそう語った。 アナをホル‥‥見た目もヤバい奴だったけど中身もヤバそうだな‥‥少なくとも背後には立ってほしくない。


「あの落とし穴は岩木呂君のスキルで作った穴なの?」

「そう俺のスキル‥‥だ」


 なるほどそっちの穴か‥‥どうやら彼はあまりしゃべろうとはしないようだ。


「スキルがまったく違うね」

「そうみたいね。これは意味があるのかしら? 私たちの共通点は同じ市内の高校に通っているてことだけ‥‥性別も学年も違う」


「これは仮説なんだけど‥‥神々に連れてこられたってことは、スキルも神々によって違うってことじゃない? 涼真君と私、篠木さんや古橋くんたちとは担当の神様が違うって考えられない?」


「なるほど‥‥それならスキルが違うのも理解できる。てことは、久能たちの神も違うってことで少なくとも3人の神がいるってことだよな」

「そう考えるのが普通だな」


 他にもいるかもしれないけど現状確認できるのは3つのグループだ。


「情報を整理しましょう」



 

 地面にこのエリアの簡易的な地図ができあがった。

 この森林エリアを四角形と仮定して現在地、篠木さんたちの扉を南側とすると僕たちの扉は東側、危険な人物久能たちはおそらく西側。


 となると、目指すのは中心かさらに奥の北側となる。


 僕たちはいがみ合う必要もないので、お互いに協力することにした。


「ところであなたたち、つき合ってるの?」

「へ?」


 誰と誰がつき合ってるの?


「違うの? なんかいい雰囲気だから、つき合ってるのかと思ったわけ」


「僕と詩穂さんが? ち、違います!」


「あれ~? 泰阜君は否定してるけど三郷さんの方はまんざらでもないかんじ?」


 慌てて詩穂さんも否定したけど、その顔は面白いように真っ赤だった。


「いいわね。青春って感じ、それに引き換え、なんであーしの周りはサルに無言。イケメンならともかく、この二人ってどんな罰ゲームかってわけ」


「篠木さん、そういう言い方は良くないと思うの」


「だって事実じゃん。それとも泰阜あーしに譲ってくれる?」


「ダメです! 涼真君は私の騎士なの!」

「ああっ詩穂さん! それは言わないでぇぇ!!」


「騎士? なに? あんたら、そんな遊びしてんの? マジうけるんですけど、心配しなくても取らないわよ。あーしには素敵な彼ピと下僕がいっぱいいるもん」


 ああああああぁぁぁぁ!! 篠木さんに黒歴史が知られてしまった。

 篠木さんにとっては冗談かもしれないけど、恋愛初心者の僕にはダメージがデカい。もし生き残ってもクラスで言いふらされたらどうしよう‥‥‥


「男、古橋和則、あなたの下僕となり御身をお守りいたします」


「‥‥そう‥‥がんばってね」


 こっちはこっちでめんどくさそうだった。


「三郷さんの着ているシャツ男ものっしょ? いいわね、ラブラブで」


「だから違うって! シャツを貸したのは‥‥」


 そこまで言いかけて言葉に詰まった。シャツを貸した経緯をどう説明すればいいのだろうか? ゴブリンに襲われ強姦されそうになった‥‥そんなの僕の口からは説明できない。


「涼真君は紳士的に私にシャツを貸してくてたのよ。他に他意はないわ」


「いいわ。そういうことにしといてあげる。それより奥に進んでみましょう」



 森の中を進む5人。

 前衛は僕と古橋先輩。そして後輩の岩木呂君。

 後衛に詩穂さんと篠木さん。


 古橋先輩はスキル獣人化によって臭いでモンスターの場所や果実なんかを探しているのだが‥‥どうみてもサルにしか見えない。

 

 道中バナナの木を見つけたときは笑ってしまった。


 ゴブリンとワスプとも遭遇したが問題なく撃退した。

 魔石などのドロップ品は分けれそうなものは公平に分け、その他はじゃんけんで決めることになっていた。


 そういえば篠木さんたち‥‥料理できるのだろうか? 僕は料理まったくできないし、詩穂さんに任せっきりになっている。

 篠木さんが料理している姿は想像できない。いや意外な一面があるのかもしれないし、男二人が頑張ってるのかもしれない。


「この先にモンスターがいる! この臭いは初めての獲物だ」


 古橋先輩の嗅覚がモンスターを発見した。

 僕の気配察知も過去にないくらいに危険を知らせてくる。


「気を付けろ! 強敵だ!」


 この先になにかいる‥‥ここからではわからないけど動物型モンスターだ。

 けっこうサイズはでかいな‥‥あれは熊? いや豚か猪か?


 そこに現れたのは黒い豚のようなモンスターだった。

 その体は黒くデカい。恐らく3mくらいはありそうな巨体と、ギョロっとした不気味な三つ目が禍々しさを感じさせる。

 スマホには[デビルアイズボア]と表示されている。


「泰阜いくぞ!」

「おう!」


 僕が身体強化スキルを使い剣と盾を構え巨大豚に突撃を仕掛ける。

 そのとなりには獣人化したサル、もとい古橋先輩が駆け出していく。


 巨大とはいえ豚のモンスターは1体だ。

 猪のような突進さえ気をつければ倒せなくとも陽動くらいはできる。

 

 案の定、黒い巨大豚が突進してくる。

 

 二人が身構えると同時に、巨大豚の眼前に青白い魔法陣が浮かんだ。


「魔法だ! 気をつけろ!」


 巨大豚は今までのモンスターとは違い、魔法を使ってくるようだ。


 風の刃が魔法陣より放たれる。


 僕は咄嗟に持っていた盾で風の刃を受け止めた。

 盾を持つ腕に衝撃が走る。

 古橋先輩は‥‥僕の心配をよそに豚に攻撃を仕掛けていた。


 彼は圧倒的な身体能力で豚を翻弄し、蹴りを入れていた。

 獣人化のスキルの影響か武器を持たずともその力は強く、サッカー部で鍛えた脚力は自慢するだけのことはある。

 ゴブリン程度なら蹴りだけで倒せていたが、巨大豚は見た目とおり一筋縄ではいかないようだ。


 僕も負けてはいられない。

 詩穂さんにいいところを見せなくてはいけない!


「うおおおおぉぉぉぉ!!」


 巨大豚の注意が古橋先輩にいっている隙に側面に回り込み剣を振り下ろした。

 

 悲鳴を上げるものの倒れる様子もなく、その目は怒りを宿したかのように僕へと向き直り突進してくる。


 突進だけなら問題なく回避できる。

 回避しながらのカウンターの一撃が腹を切り裂くが巨大豚はそれでも倒れない。


「泰阜! こっちだ!」


 篠木さんの声だ。どうやら準備ができたらしい。


 僕と古橋先輩はいったん下がり、巨大豚の出方を待った。

 僕たちを目標と定めると巨大豚が地響きをたてながら突進してくる。


 速い。

 だが、怒り狂った巨大豚は僕たちしか見ていない。

 だから僕たちの背後に穴が開いているのに気がつかない。


 巨大豚の突進を十分に引付けた後に身をひらりと躱す。

 勢いのついた巨大豚は急には止まれない。

 巨大豚は穴に落ちていく。


 予想以上にうまくいった。

 さあ、次はどうやって仕留めるかだ。

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