第4話 迷宮④

「いやああぁぁぁぁぁ!! やめてっ! だ、誰かぁぁぁ!」

 

 黒髪の女の子はゴブリンに襲われパニックに陥っていた。


 鼻息を荒くしたゴブリンは僕の存在に気付いていない。

 やるなら今がチャンスだ!


 身体強化でゴブリンに向かってダッシュし、剣を振りかざした。

 最初に女の子に馬乗りになったゴブリンの首を跳ね飛ばし、返す刀で足元のゴブリンの背に剣を突き立てた。

 剣術スキルのおかげでゴブリン程度には後れを取らない。


「えっ!? えええっ?」


 ゴブリンに襲われ絶体絶命のピンチの中、突然そのゴブリンの首が目の前で切り落とされたのだ誰でも驚くは当たり前だし、理解するにも時間を要するだろう。


「だいじょ―――う――ぶ?」


 大丈夫?と声をかけようと女の子を見た瞬間言葉に詰まった。

 か、か、かわいい! なにこの子‥‥すごくかわいい!


 アイドル顔負けのかわいさ。

 艶やかな長い黒髪。パッチリとした大きな目。

 アイドルや読者モデルをやってますと言われても信じてしまうほどかわいい。


 だが、その目は涙を流し、ゴブリンに乱暴されたのか頬は赤く腫れ、口元から血を流している。それだけではない。制服のブレザーはボロボロになっている。

 ブラウスの胸元は大きく破かれ、ブラジャーと胸の谷間が見えた‥‥そこにあるのは深い谷間‥‥おおきい‥‥大きいよ。


 捲れたスカートからは白いショーツが見え、スラリと伸びた脚には所々に擦り傷があり出血していて痛々しい。


 ゴブリンが粒子となって消え、彼女と目が合った。

 彼女の扇情的な姿と可愛さに僕の心臓は高鳴りを隠せないでいる。

 なんと声をかけていいのか、わからない。

 ただただ、彼女に見惚れて時間だけが過ぎていく感じだった。


「あ、あの‥‥あなたは?」


 時間として一瞬だったかもしれないし数秒だったかもしれない。

 とにかく、口を開いたのは彼女だった。


「僕は涼真。泰阜やすおか 涼真りょうま 中山道瑞北高の二年だ」


 緊張しながらも自己紹介をした。


「助けていただきありがとうございます」

「私は中山道西高校の三年生、三郷みさと 詩穂しほです」


 ミサトシホ‥‥それが彼女の名前。

 僕のひとつ上、西高といえば有名な進学校じゃないか。

 三郷さんも、このよくわかんないゲームみたいなこの世界に飛ばされてきた被害者なんだろうなきっと‥‥


 律儀にお礼と挨拶をしてきた彼女を床に横たわらせておくのもなんだと思い、手を差し伸べたところで彼女の胸元に目がいってしまった。

 彼女も差し出された手を取ろうとしたところで、僕の視線に気が付いた。


「きゃああぁぁぁぁ!!」


 はだけた胸元を隠しながら悲鳴を上げた彼女だが、もう手遅れです。

 脳裏にしっかり記憶させていただきました。

 彼女いない歴=年齢の僕には刺激が強い扇情的なお姿もしっかり記憶済みです。

 当分の間オカズには困りません。


「じろじろ見ないでください」

「ご、ごめん」


 羞恥に頬を染めた詩穂さんも可愛いな。

 彼女の姿から目をそらし後ろを向いた僕に彼女が問いかけてきた。


「あの気味が悪いのってモンスターよね? ここってどこなの? ゲームの世界なの? あなた以外に人はいるの?」


「そんなにいっぺんに質問されても困るけど。ここは現実の世界だと思う。ただ日本、地球上とは違う世界? 空間? 異世界みたいなところだと僕は認識している。

そして、それは神様だか悪魔だか知らないけど、その人?たちによってこの世界に連れてこられゲームみたいなことをやらされている。ここまではいい?」


「ええ、そうね。たぶんその通りだと私も思うわ。あっごめんなさい。もう振り向いても良いわよ。あなたが悪いわけじゃないから気にしないで」


 気にしないでと言われても無理です。ボロボロになった制服姿の詩穂さんに欲情しない男の子はいません。理性を保つのがやっとです。

 破れたブラウスを手で押さえてもエロい姿はエロいのです。


「ごめんなさい。よかったら僕のシャツ使って下さい。汗臭いかも知れないけど破れたブラウスよりはましだと思います」

「ありがとう。じゃあ遠慮なく貸してもらうわ」


 上着を脱ぎ詩穂さんに渡すとまた後ろを向いた。

 僕の後ろで詩穂さんが僕のシャツを着ていると思うとドキドキする。


「ありがとう。もういいわ」


 振り向くと僕のワイシャツを着た詩穂さんがいた。

 サイズ的には少し大きいくらいだが、その胸の膨らみは隠せていません。

 僕のシャツを着ていると思うと、余計にエロく感じてしまうのはなぜだろう‥‥


「さっきの話の続きだけど、ここがどこだかわからない世界だというのは理解できるわ。地球上にあんな生き物いないもの。それに死ぬと消えたりするのはありえないわ。いったい、どういう理屈でそうなってるのよ」


「ああ、謎の本とスマホが手がかりだけど‥‥詩穂さんも持ってる?」


「ええ、持ってるわ。さっきので壊れてなければだけど‥‥」

「詩穂さんカウント大丈夫?」

「あっ! ちょっと待って‥‥」


 詩穂 LV1 残り時間 43:46

 

「残り43分! まだ余裕だし。いったん部屋に戻ろう」

「うん‥‥でもいいの? あなたの時間は?」

「僕の時間はたっぷりあるから大丈夫。それより傷の手当しないと」

「わかったわ。ありがとう」


 詩穂さんと共に女神像のある部屋に戻ってきた。

 打撲痕や擦り傷だらけの彼女の治療をしないといけない。

 治療と言っても消毒液も絆創膏もない。

 とりあえず水で傷口を洗い流すぐらいしかできない。


 う~ん、何か水を汲む柄杓みたいなのがあればいいのだけど・・・・あっ!


「あっ! 詩穂さんちょっと待ってて」


 たしか土間に手鍋があったはず。それを使おう。

 

 ええとたしかここで見たはず・・・あった手鍋だ。

 手鍋を持って詩穂さんの所に戻ると彼女は目を丸くして驚いた。


「私には入れなかった扉の先にそんなのあったんだ」


 ん? 扉があっても入れない? 鍵なんかないけど、土間へと続く扉はミッションクリアしてないと開かないのか?

 それはともかく詩穂さんの治療が先だ。


 手鍋で泉の水を汲み、傷口を洗い流そうとしたときだった。


「えええっ? 傷が治ってる!」


 痛々しい擦り傷が水を流した瞬間、みるみるうちに傷が治っていったのだ。

 マジで? なにこれ? この水、ポーションとか神水とかそんな感じのものなの?

 とにかくすごい水なのには違いない。


 水で流せない場所は、詩穂さんの破けたブラウスをタオル代わりに水に浸し、拭くことで傷の手当てができた。

 もちろん僕が見てはいけないところもあるので、そこは自分で拭いてもらった。

 傷跡はもちろんなく元通りなのだが‥‥改めて詩穂さんの肌‥‥いや‥‥肌もそうだがその容姿がすごく綺麗でドキドキしてしまう。

 こんなまじかで女子の素足や顔に触れる機会なんてそうあるもんじゃない。

 治療目的とはいえ役得なのは間違いない。


 詩穂さんはどう思っているのだろうか? 初対面の年下の男子に非常時とはいえ体を触られているのだ平常心ではいられないはず。

 顔を見上げると案の定、羞恥心で顔を染めている。

 心臓の鼓動がヤバい‥‥落ち着け‥‥これは医療行為‥‥けっして欲望を向けてはいけない‥‥けっして前屈みになって起き上がれないことを詩穂さんに悟られてはいけない。 


「詩穂さん。スキルって何選択したの?」


 このままではいけないと思い、気になっていたことを質問した。

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