第5話 迷宮⑤
「えっと、スキルって最初に選んだやつよね。私は精神強化ってのを選んだわ」
「そのスキル俺も取ったけど何かできた?」
「なにか不思議な力を感じるけどそれだけよ」
「う~ん‥‥やっぱりそうか‥‥となると、その短剣でも重いよね?」
詩穂さんの持っている武器は僕の片手剣と違い短剣だった。
片手剣より軽いとはいえ、女子高生が軽々と振り回せるものではない。
身体強化のスキルがあれば別だろうが、か弱い女子高生がリーチも短い短剣でモンスターと戦うには無理がある。
「ちょっと重いけど大丈夫よ。でもこれでモンスターと戦うのはちょっと‥‥」
「だよね~ 僕の持ってる剣は重いし‥‥僕がゴブリンをボコって止めを刺す方法、なんか安全に戦える方法はないかな‥‥‥」
「そんなそれだと、あなたが涼真君が危険だわ」
「身体強化のスキルもあるしゴブリンくらいなら平気だよ。詩穂さんは後ろに控えていてゴブリンに止めを刺してくれればいいから」
「で、でも‥‥」
「頼りないかも知れないけど、僕も男だから女の子くらい守れないとね」
「ううん。涼真君は頼りなくないよ。モンスターも一瞬で倒し私を助けてくれて、なんかヒーローみたい」
「じゃあ僕はお姫様を守る騎士になれるかな」
「ぷっ、なにそれ私がお姫様? 私はそんなんじゃないわ」
「そうかな? 僕の中では詩穂さんはお姫様だよ。ちょっとくさいセリフだけど、詩穂さんは絶対守るから安心して欲しい」
「涼真君‥‥ありがと。その気持ち嬉しいわ。私そんな言葉聞くの初めてよ。なんかドキドキしちゃった」
頬を赤くする詩穂さん。ひょっとして良い雰囲気?
詩穂さんて彼氏いるのかな? 美人だし彼氏がいてもおかしくない。もしくは好きな人がいるとか‥‥気になる。
めっちゃ気になるけど、彼氏がいると言われたらショックだし怖くて聞けない。
「ねえ、そっちの部屋になにか使えそうな道具ない? フライパンとかあったらラプン○ェルみたいに戦えないかな?」
「ラプン○ェルって‥‥良いアイデアだとは思うけど、鈍器として使ったフライパンで調理した物を食べるのはちょっと遠慮したいな。ちなみに次のミッション、食材を集めて調理することだから‥‥あしからず」
「そ、そうね‥‥考えてみたらそうよね。ごめんね変なこと言って」
詩穂さんも想像したらしい。フライパンを鈍器のように使いゴブリンを殴り殺した姿を‥‥そしてそのフライパンで料理をするのだ‥‥考えただけで嫌だ。
「あまり時間ないし、そろそろゴブリン退治にいこっか」
「そうね。よろしくね私の
「お姫様の仰せのままに」
「なにそれ、おかしな涼真君」
笑い合い場が和んだところで詩穂さんの手伝いでゴブリン退治に向かった。
先の見えない暗闇も、詩穂さんがそばにいるだけで安心するし心強い。
しかし、同時に彼女を守らないといけないという使命もある。
「詩穂さん、僕が前に出て戦うから詩穂さんは弱ったゴブリンに止めを刺して」
「涼真君‥‥ほんとにひとりで大丈夫?」
「ゴブリン程度なら油断しなければ大丈夫だよ」
「無理はしないでね」
「ああ、それよりお客さんだよ」
暗闇で姿は見えないがゴブリンの鳴き声がする。
僕の役割は詩穂さんを守りつつ、ゴブリンを殺さない程度に痛めつけること。
剣で思いっきり斬りつけると殺しちゃうから手加減しないと‥‥今まで一撃だったから注意しないといけない。
そうだ! 剣の鞘で殴ろう。これなら頭さえ殴らなければ簡単には死なないはず。
よし、そうと決まれば先手必勝
「うおぉぉぉ!」僕は雄叫びを上げゴブリンに先制攻撃を仕掛けた。
まずは手前にいるゴブリン。
憎たらしい顔をした痩せたゴブリンだ。
剣を鞘に納めたまま突きを繰り出した。
「グギャッ!!」突きをくらったゴブリンは後方に吹っ飛んでいった。
まずは一匹。僕に飛び掛かってきたゴブリンを剣で受け止め、左手でゴブリンの腹に一発決めた。
うずくまるゴブリンをさらに蹴って横たわらせると詩穂さんに合図した。
短剣を握りしめたまま唖然としていた詩穂さんが僕の声で我に返ると急いでゴブリンに短剣を突き立てた。
粒子になって消えていくゴブリン。
先ほど突き飛ばしたゴブリンは苦しそうに腹を押さえ倒れたままだ。
悪く思うなよ。これも俺たちが生き残るために必要なことだ。
ゲームだか現実だかわからないけど生き物を殺すことに抵抗がある。
だが、殺さないと自分たちが殺される。
ここはそういう世界だ。
「詩穂さん平気?」
「う、うん‥‥ちょっと罪悪感あるけど‥‥そんなこと言っちゃだめよね」
「生き残るためには仕方がないことだと思う。人間だれしも生きていくために必死なんだ。少なくとも今はこのクソみたいなこの世界、神々の遊戯とやらをクリアするしかない‥‥僕はこんなところで死にたくはない」
「そうね。私もがんばるわ」
お互い思うところがあるだろうが、今は何とかしてゲームをクリアするしかない。
詩穂さんのカウントも無事止まり、女神像の部屋まで戻ることにした。
「次は料理なんでしょ?」
「そうだね。兎肉を手に入れたから焼こうと思ったんだけど、肝心の火がなくて困ってたんだ。マッチみたいな物あればいいんだけどなくってさ」
「それは困ったわね。私もアウトドアなんてやったことないから‥‥木に穴を開けて摩擦で火をつける方法とか試した?」
「その前に詩穂さんの悲鳴が聞こえて助けに行って今に至ります」
「そうなんだ‥‥」
しゃべっているうちに部屋に着いた。
まずはレベルアップだ。
詩穂さんがスマホを女神像の左手に乗せた瞬間、女神像が輝いた。
これで詩穂さんもレベル2になった。
「スキルは何を選ぶの? おすすめは身体強化だよ」
「そうよね。一つはそれにするわ。ってあら? 新たにスキルが追加してるわ」
「ああ、弓術とかだね」
「違うわよ。火魔術に水魔術、風、土ってあるわ」
「えっ? 魔法? あ、ほんとだ。なんで? 僕とスキルの選択肢が違う‥‥なんでだろう? 男女の違い? それともスキルツリーが違うのかな?」
「とりあえず、一つ目は身体強化にするね。あれ?あれあれ? 身体強化を選んだら打撃術と弓術が追加されたわ。これってさっき涼真君が言ってたやつよね」
「‥‥‥なるほど。謎が解けた! 僕は打撃術と弓術はレベルアップによって増えてたと勘違いしていたようだ。実際は身体強化の付属スキルだったわけだ。そして精神強化の付属スキルが」
「火・水・風・土なのね」
「そう、各属性の魔法が使えるようになるってわけだ」
「ねえねえ、火魔術で火起こしできるんじゃない?」
「それだ! やってみる価値はあるかも」
「じゃあもう一つは火魔術にするね」
「うん。お願い」
魔法‥‥ますますゲームみたいになってきたな。
でも、心躍る自分がいた。
だって剣と魔法はファンタジーゲームの醍醐味なんだから、自分も使ってみたいと思うのは僕だけじゃないはずだ。
「これどうやって使うの?」
「スキルは念じるだけで使えるよ」
「そう‥‥やってみるわ。お願い! 火魔術!」
詩穂さんが両手を壁に向けてスキルを使った。
初めての魔法であり緊張の瞬間だ。
ぽふっ。突き出された両手から赤い火が燃えた刹那そのまま地面に落ちて消えた。
「えええっ? 今のが火魔術?」
しょぼっ! 火魔術しょぼ! 全然思ったのと違うじゃねえか。
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