第42話 エピローグ

 僕と詩穂さんは毎年夏になると、ある墓地を訪れている。


 霊標には若くして亡くなった篠木さんの名前が刻まれている。

 色とりどりの花が飾られ掃除も行き届いている。

 きっと、ご家族の方が先に訪れたのだろう。


 ローソクに火をつけ線香を添え、合掌する。


 篠木さん‥‥あれから2年が経過したよ。

 僕は猛勉強の末、難関の大学に合格して詩穂さんと同じキャンパスに通ってる。

 大学の学食はワンコインの500円でフレンチから和食まで楽しめるんだよ。

 篠木さんの好きだったアーティストも先日電撃結婚して世間を騒がせた。

 お相手はなんと‥‥ホントびっくりだよね。

 

 一連の事件はやはり闇へと葬られた‥‥

 江連は連続殺人犯として服役中でたぶん死刑判決が下されるだろう。

 久能の遺体は‥‥まだ見つかっていないそうだ。


「涼真君、そろそろ‥‥」


「ああ、ごめんごめん」


 篠木さん‥‥ごめんね時間みたい。また来年くるよ。じゃあね。

 僕は一礼して墓地を後にした。


「何話してたの?」


「うん、色々とね。大学の合格から世間話まで」


「そっか‥‥色々あったもんね」


 そう‥‥あの忌まわしき事件から2年が経過したのだ。





   ◇ 2年前 ◇


 ダムの上で繰り広げた死闘。それは意外な結末を迎えた。

 

 絶体絶命の僕のピンチを救ったのは詩穂さんでもなく機動隊でもなかった。

 僕を救ったのは一羽のカラスだった。

 空から飛来したカラスは脚で久能の目を潰し、必要なまでに攻撃を繰り返した。

 目を潰された久能は‥‥何を思ったか、ダムから転落した。


 湖畔に転落した久能は未だに発見されていない。

 夏場とはいえ湖畔の水は冷たい。それにあの高さだ。

 死んでいるのか生きているのか不明なまま目下捜索中であり、指名手配は解かれていない。


 そして、飛び去ったカラスはなぜ久能を攻撃したのか謎に包まれている。

 篠木さんが使役したカラスなのかと思ったが、今となっては真相はわからない。

 テイマーが亡くなっても使役したカラスはその命令を覚えていて実行するのか?

 だとしたらなぜ、あのタイミングだったのか?

 そもそもが同一の個体だったかも怪しいところだ。

 誰にもカラスの区別などできないのだから‥‥

 もしくはあのカラスは神の使いだった可能性も考えられる。

 日本神話にも登場するこの3本脚のカラス「八咫烏ヤタガラス」は有名だ。

 野生のカラスの可能性だってゼロではない。

 カラスだってムカつくこともあるだろうし、たまたまかもしれない。

 ともあれ僕がカラスに救われたのは事実だ。


 久能の生死は不明だが、江連は逮捕され、奴らが起こした一連の事件はこれで一応結末したことになった。

 しかし、事件に関与した裏組織は未だ健在で今もどこかで暗躍しているだろう。


 神々からもあれから接触は今のところない。

 あの迷宮‥‥神々の目的とは? 試練て何だったんだろう‥‥本当に全て終わったのだろうか? また呼ばれたりしないよな? 

 それとも、今頃は別の世界、別の誰かの人生に関与しているのかもしれない。



 怪我をした僕はしばらく入院する羽目になったが、元が頑丈なだけにすぐに退院できた。

 問題は事件を知った僕の家族と詩穂さんの家族だった。

 入院した僕を付きっ切りで看病してくれたことで、僕たちの関係が親たちに明るみになったのだ。

 詩穂さんの親には祝福されたが、家の両親ときたら現実を認められないでいたようだ‥‥そりゃ気持ちはわかるよ。何のとりえもなかった僕に良いところのお嬢様が恋人として現れたのだ。混乱するのも無理はない。

 母親なんて怪我人の息子をほっといて詩穂さんに夢中になっていた。

 父親は泣いて喜び、妹はお姉ちゃんができたとはしゃいでいる。

 おかげで今では両親公認の恋人になっている。


 そして、僕たちを取り巻く環境も変化している。

 僕たちの力を知っている者は少ないが、どこからか情報が洩れあちこちからスカウトがやってくる。

 スポーツクラブから格闘技、警察関連まで様々だ。

 僕たちの力があれば先人のように世界を相手に活躍できるだろう。

 だが、僕たちにその気はまったくない。

 目立つことが苦手であり、能力を私利私欲に使うつもりもない。

 むしろ、そっとしておいてほしいくらいである。

 

 そして、僕は猛勉強の末、有名な大学、詩穂さんと同じ大学に進学して今に至る。

 普通に勉強して、普通にバイトして毎日楽しく暮らしている。

 周りからはバカップルだの何だの言われるが僕たちは僕たちだ。

 住まい? 住まいは詩穂さんが大学のある街で1人暮らしを始めた部屋に、僕が転がり込んだ形で同棲がスタートした。

 

 

 ときどきジビエ料理が恋しくなったり、甘酸っぱいリンゴが食べたくなることがある。そんなときは詩穂さんが用意してくれる。

 でも、僕は忘れないだろう。

 あの迷宮で食べたウサギ肉と焼きリンゴの味を‥‥‥

 

 

 


  〜〜 あとがき 〜〜

 お読みいただきありがとうございます。

 カクヨムマラソン向けに2月末から4月頭まで毎日投稿すべく書き上げた本作

 最後まで読んでくださった読者様にお礼を申し上げます。

 ありがとうございました。 

 

 面白いと思われた方 ♡応援、フォロー

 ★★★評価をよろしくお願いいたします。


 カクヨム様にて次回作としてSFもの

「ロミナとジュリオッド ~ヴァルキュリア戦記~」

 投稿開始しました。

 そちらもよろしくお願いいたします。

 

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迷宮を生き抜くために たぬきねこ @tanunyanko3301

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