第8話 詩穂③
見た感じは何も変哲もない戸棚‥‥しかしその実態は‥‥
「詩穂さんどうしたの? 突然大声出して!」
「涼真君、これ見て!」
「えっ! 何これ? ‥‥自販機?」
そう自販機、正確には券売機そう説明するのがわかりやすい。
ただ違うのがその形状。
戸棚の扉を開くと調味料のイラストとボタンがあった。
食用油、醤油、味噌、ソース、マヨネーズ、ケチャップ etc
各食材、調味料には代金が必要なのはわかるけどお金なんか持ってない。
塩 1M
醤油 10M
「なによMってどこの通貨よ。 あっ注意書きがある」
‥‥‥‥Mってのはモンスターを倒して拾った石のことみたい。
私も3つ持っている黒い石これが購入代金の代わりになるらしい。
そして自販機と決定的に違うのはコイン投入口がない代わりに、屑入投入口みたいな四角いが蓋があることだった。
「これが購入代金となる魔石の投入口みたいだね」
「この黒い石が魔石‥‥1個で1Mってレートかしらね」
「だと思うよ。僕の手持ちの石が5個、詩穂さんが3個だよね」
「なにか料理しようと思うと全然足りないわね」
「だね。美味しいもの作って食べようと思ったら、モンスターをいっぱい倒さないといけないんだ。こりゃ大変だ」
手持ちの石で交換できる物は限られてくる。
「塩は幸いなことに用意されてたから無駄遣いはやめて、とりあえずはあるもので料理しましょう」
「詩穂さんにお任せします」
「じゃあ、簡単なグリル焼きにしましょう」
まずはこのもも肉、すごい弾力があるわね。包丁の刃が入るかしら?
火が通りやすいように骨に沿って包丁を入れないとね。
半分ほど包丁を入れたところで涼真君の視線に気が付いた。
「そんなにまじまじと見られると緊張しちゃうわ」
「いや、ウサギ肉なんか見たことないって言ってた割に、なんか手慣れた手付きだなっと思ってさ。僕には絶対まねできないよ」
「そう? 大きな鶏肉だと思えばなんとかなるわよ。とりあえずこれだけ加工しちゃうからちょっと待っててね」
硬いスジと脂は取り除いて、厚い身の部分に切れ込みを入れてトリミングは完了っと。さてお次は味付けだけど塩と胡椒しかないから贅沢はいえないわね。
「後は焼くだけよ」
「なんかバーベキューみたいでワクワクするね」
「私もこんなの野外授業以来だからドキドキしてるわ」
網の上に塩胡椒をしたウサギ肉を乗せしばらく待つ。
肉に色がついてきたら裏返して焦げないように注意しながらしっかり火を通す。
時々脂が落ちて美味しそうな匂いが立ち込める。
「わぁぁぁ美味しそうな色。それにめちゃくちゃいい匂いがする!」
涼真君は、いい感じの焼き色にテンションが上がりまくり。
かくいう私もちょっと、いや、だいぶテンションが上がっている。
だって美味しそうなんだもん。
「もうそろそろいいかしら?」
生焼けになってないか確かめてみたけど大丈夫そう。
涼真君も早く食べたくてうずうずしてるし待たせちゃ悪いわね。
「切り分けるからちょっと待っててね」
「は~い」
焼きたてで熱々のウサギ肉はまだまだ弾力があり食べ応えがありそう。
「ではいただきます」「いただきます」
切り分けたウサギ肉をまずは一口。
「あっ、美味しい」
しっかりとした歯ごたえのある食感。ちょっと鶏肉に似てるのかな?
淡白な味わいなんだけど、噛みしめてると独特な獣臭がする。
それでも初めて食べたウサギ肉。しかも直火焼きだよ。美味しくないわけがない。
男の子と共同で火起こしから始まり調理までして食べる。これがよくわからない世界じゃなかったらホント、最高のシチュエーションなんだろうけど、残念ながらここはよくわからない世界だった。
「詩穂さん。もっと貰っていい?」
「あ、ごめんね。どうぞどうぞ。元は涼真君がゲットしたウサギだから遠慮しないで食べちゃって」
ちょっと臭みが強いけどハーブやショウガがないからどうしようもない。
でも、私的には満足なできだと思う。
食べたことのないジビエ料理って刺激的かもしれない。
それとも、気になる男の子と一緒だから?
涼真君はもう、子どもみたいにガツガツ肉にかぶりついてなんか可愛いな。
「「ごちそうさまでした」」
残ったお肉も涼真君が全部食べてくれた。
それほど美味しかったのかな? 調理していないウサギ肉はまだ沢山ある。
もっと他の食材があれば美味しいもの作れるのかな?
そしたら涼真君喜んでくれるかな?
「ねえ見てみて。新しいミッションだよ」
おっと料理で満足しちゃいけないわ。
私たちの目的はゲームをクリアして日本へ帰ることなんだから。
次のミッションは‥‥
~ 神殿を探し出し四隅のトーチに火を灯せ ~
「うわ~ またよくわかんないのきたよ」
「神殿? 四隅のトーチ? とにかくその神殿を探せってことよね?」
「だと思うよ。きっとあの広いエリアのどこかにその神殿ってのがあるのだと思う」
「時間もたっぷりあるみたいだし、少しゆっくりしましょう」
そう、残り時間は 10,267:27 1万時間 日数計算で7日 もある。
「詩穂さんはゆっくりしてて、僕はちょっとその辺探してくるよ」
もう涼真君は落ち着きがないんだから。
私は料理の後片付けと、残った炭と灰を分ける作業をした。
炭があればもっと楽ができるはず。
しばらくすると涼真君が長い竹を持って帰ってきた。
「涼真君その竹は?」
「これ? これを使って竹槍と水筒を作ろうと思って取ってきたんだ」
「竹槍と水筒?」
「そう。竹を斜めに切って先を尖らせた物だけど簡易武器としても使えるし、穴を開けて水筒にすることもできるしコップにもなるはずだよ」
「そうね。水筒はあった方がいいわね」
「でしょう。飲み水や怪我の治療に使えそうじゃん」
涼真君が私の持ってた短剣を使って竹を加工しだした。
さすが男の子。こういうときは頼りになる。
竹の節目の上で切って、ささくれがないように切り口を削った後、節に穴を開けて栓を作れば水筒が完成するらしい。
涼真君と私、予備でひとつ。計3個作成してくれた。
待っている間にスマホを見ていると新しい機能が追加されていた。
それは図鑑ともいえる機能。
カメラで写したモノの詳細がわかるという優れものだった。
これで食べて良いものか毒物か判別できる。
細めの竹で作った竹槍は私が持つことになった。
これがあれば後方からでも獲物を突き刺すことができるので、短剣よりはモンスターに近寄らなくていい分安全に戦えるはずだった。
「やみくもに探しても迷子になるわよね?」
「壁沿いに左に行くと竹藪があったけど、今度は逆側に行ってみよう」
こうして涼真君と私は未知の森を歩きだした。
〜〜 あとがき 〜〜
お読みいただきありがとうございます。
涼真君と詩穂ちゃん。ふたりの冒険が気になった
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