第7話 詩穂②
スマホを見ると残り時間が少なくなっていた。
私の自称騎士君が守ってくれるらしい。
ちょっと恥ずかしいけど彼に甘えようと思う。
迷宮のモンスターはゴブリンという名前らしい。
そのゴブリンに涼真君が雄叫びを上げながら突っ込んでいった。
彼はゴブリンくらい油断しなければ大丈夫だというけど、私は心配だった。
でもその心配は杞憂に終わった。
涼真君の一撃をくらったゴブリンは後方に吹っ飛んでいき、もう一匹のゴブリンも難なくあしらっていたの‥‥すごい!
「詩穂さん今です! 止めを!」
涼真君の凄さをまじまじと見せつけられて唖然としていた私は、彼の声で我に返り彼に言われるままゴブリンに持っていた短剣を突き立てた。
肉をえぐる感触‥‥気持ち悪い‥‥もう一匹も同じように仕留めた。
「詩穂さん平気?」
涼真君の優しさが嬉しかった。彼の言う通り生き残るためにはモンスターを倒さないといけない。泣き言を言ってる暇はないのはわかっている‥‥
私が弱いままでは彼の負担になってしまう‥‥それだけはいや。
なにか私にでもできることがきっとあるはず。
それを見つけるためにも頑張るのよ私!
部屋まで戻りレベルアップを無事果たした私はスキルを選ぶことになった。
どうやら精神強化の付属で魔法が使えるみたい。
火魔術、水魔術、風魔術、土魔術の四つがあるけど今現在選べるのは一つだけ。
もちろん他のスキルを選ぶこともできるけど、どうせなら魔法を使いたい。
魔法少女って歳じゃないけど魔法を使ってみたい。
「ねえねえ、火魔術で火起こしできるんじゃない?」
料理をするには火が必要だった。だけど肝心の火を起こす道具がなく困っていた涼真君の役に立てるかもしれない。
「それだ! やってみる価値はあるかも」
「じゃあ、もう一つは火魔術にするね」
我ながらナイスアイデアだと思った。
涼真君も賛成してくれて私は火魔術を選択した。
「これどうやって使うの?」
「スキルは念じるだけで使えるよ」
なるほど‥‥そんなことだけで使えるのね。
「そう‥‥やってみるわ。お願い! 火魔術!」
初めてのスキル! しかも魔法よ魔法!
私はテンションを上げながら両手を壁に向け火魔術と念じた。
不思議な力が手のひらに集まってくるのがわかる。
手のひらの先で小さな炎が出現した。
やった、できたと思った瞬間、火はその場に落ちて消えてしまった。
ええええぇぇぇぇぇ! なにそれ? こんだけ? 飛んだりしないの?
私の期待と緊張を返して!
涼真君のがっかりした様子で申し訳ない。
「涼真くうぅぅ‥‥ん」
「ほら、あれだマッチだと思えば使えるんじゃない?」
「マッチ?」
「そうマッチ。小さい火でも枯草やおが屑があれば種火になると思うよ」
泣きそうな私を涼真君が必死にフォローしてくれた。
「とりあえずやってみよう!」
ミッションをクリアしたことで、今まで開かなかった扉を開けて通ることができるようになった。
そこは古民家にあるような土間で
涼真君が困っていたのも納得よね。
ガスコンロや電磁調理器のあるキッチンならいざ知らず、いきなり竈は難易度が高い。もちろん私も実物を見るのは初めてだった。
とりあえず、ふたりで火をつけるための枯草や薪拾いをするためにさらに奥に進むと、屋外に出たかと思うような緑の世界が広がっていた。
「嘘でしょ‥‥あれ? でも背後には壁がある。やっぱり室内なの?」
「僕も最初は驚いたよ。まだ遠くには行ったことないけど竹藪とか変なキノコとかあったよ。探索は後回しにして落ち葉とか燃えそうな物拾おう」
「そうね。確か杉や松なんかの針葉樹が良く燃えるそうよ」
「詩穂さん凄い! どこでそんな知識を知ったの?」
「子どもの頃、子ども会で落ち葉を集めて焚火と焼き芋を作ったことがあるの。そのときに近所のお爺さんから教わったのよ」
「そうなんだ」
たわいのない話だけれど、ちょっとは涼真君の役に立てたかな?
ふたりで手分けして落ち葉を集め、部屋に戻った私たちは竈の前でしゃがみ込み火をつける準備をした。
手筈はこう。まずは私が杉の葉にマッチ魔法で火を付ける。
それだけでは火は起こせてもすぐに消えてしまうので、涼真君が火吹き竹で息を吹き込み薪に火をつける。
これが私たちの立てた火起こしの作戦だった。
「じゃあいくよ。火魔術!」
私が力を込めて火魔術と唱えると手のひらから小さな炎が出現した。
ここまではさっき試したときと一緒。
でも今回はその炎を杉の葉の上に落とした。
ほんとに火がつくのかな?
なかなか燃え広がらない‥‥ああっ火が消えちゃう‥‥そう思ったときだった。
トゲトゲの葉がゆっくりと燃えだした。
「やった火がついた」
「後は火が消えないように空気を送って薪に火をつければ良いんだよな」
「うん。涼真君がんばって」
涼真君が一生懸命に頬を膨らませながら火吹き竹を使って竈へ息を吹き込んだ甲斐があって薪がメラメラと燃えだした。
こんだけ燃えればもう大丈夫。
「これがウサギ肉なのね。ちょっと大きすぎるから切り分けましょう」
解体済みのウサギ肉。でも、もも肉ひとつだけでもかなり大きい。
このままでは焼けないので細かく切ることにした。
「詩穂さん料理できるの?」
「自慢できるほどじゃないけど簡単なもの、お弁当のおかずくらいは作れるわよ」
「へえ~ 以外だね」
「ちょっと! 以外ってどういう意味よ!」
「ごめんごめん。詩穂さんって清楚でお嬢様っぽいから勉強はできても料理なんてしないと思ってた」
「失礼ね。家は両親が共働きで忙しいから自分のできることは自分でしていただけよ。料理だって凝った物は作れないし家庭的な料理ばっかりよ」
「そうなんだ。でも料理経験者がいるだけで心強いな」
「こんなジビエ料理もアウトドアもしたことないから期待しないでね」
「それでも詩穂さんみたいな美人の手料理をご馳走になれるかもしれないなんて僕は幸せ者です」
「美人だなんて
「ちぇっばれたか。でも美人だと思ったのはホントだからね。で、僕は何をすればいいのかな? 何でもお手伝いしますよ」
「とりあえず水を汲んできてくれるかしら。その間に私は使えそうなもの探しておくわ。何か調味料みたいなのあるといいのだけど」
「了解です」
涼真君が水を汲みに行っている間に私も何か探さないと。
‥‥美人とか‥手料理とか幸せ者とか‥‥もう、なんで彼は私をドキドキさせること言うのよ。どうしても意識しちゃうじゃないのよ。
この壷は塩かしら? こっちは砂糖ね。それと胡椒‥‥
たしかに焼くだけなら素材は揃っているわね。
欲をいうならハーブソルトとかうま味調味料が欲しいところ。
あら? この棚は何かしら?
「えええええぇぇぇぇ! 何これぇぇぇ!!」
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