第12話 森④

「いいからおいで。お姉さんの言うこと聞きなさい! 涼真君には明日も頑張ってもらわなきゃいけないんだから、休めるときに休んどかないと体壊すわよ」


 明日? 時計はないがスマホのカウントを見る限り、かなりの時間が過ぎていることがわかった。寝るには早い時間かもしれないが体力を回復するには寝ることも必要なのも確かである。

 だけどなぁ‥‥気になる女の子と一緒のベットってのはねぇ‥‥


「もう‥‥私がいいって言ってるんだからこっち来て寝よ?」


 これは‥‥詩穂さんも引き下がりそうもないかも‥‥

 僕が紳士なら間違いは起こらない‥‥はず。

 

「じゃあ、横失礼して‥‥」

「うん。狭くてごめんね」


 毛布から詩穂さんの悩ましい太ももがチラリと見えた。

 これはヤバい‥‥だが僕は紳士だ。


 背中越しに詩穂さんの吐息を感じる。

 それにとってもいい女の子の‥‥香りがっ‥‥!

 少しでも動けば触れてしまう‥‥ダメだ! 動いたら負けだ!

 

 身動きできない緊張感とは別にドキドキが止まらない。

 ゴブリンに襲われていたときの姿‥‥特にあの大きな胸‥‥

 詩穂さんの料理している姿も良かったなぁ‥‥


 くそ~ こんなんじゃ緊張して眠れそうもない!

 詩穂さんはこんな状況で寝れるのか?

 僕を信用してくれているのかも知れないけど、それとこれは別のような気がする。



 


 まじで寝れん。これは拷問に等しくないか?



「‥‥くん‥‥起きてる?」

「えっ!? どうしたの? 眠れないの?」


「この世界を創った神様ってどんな方なのかな?」

「神々ってんだから複数いんだろ。僕たちをこんな世界に閉じ込めて遊ぶくらいだからどうせ碌なもんじゃない。僕たちの恐怖苦しむ姿を見て楽しんでるのさ」


「‥‥複数いるってことは良い神様も悪い神様もいるってことだよね。人々が日々成長できるように見守ってるんじゃないかなぁ‥‥」

「だとしても、この世界は極端すぎるだろ! モンスターと戦うとかありえないし」

「でも、スキルとか色々助けてくれてるよ」

「‥‥たく‥‥詩穂さんは優しいんだね‥‥」

「そんなことないよ‥‥ごめんね寝るの邪魔しちゃって」


「おやすみ詩穂さん」

「うん。おやすみなさい‥‥」



 スキルとかで助けてくれるか‥‥そもそもスキルってなんだろう。

 技能とか技術が勉強や努力によって身に付くのはわかる。だが魔法、魔術とか超常的なものはどう説明するのだ? レベルアップで習得できるのはゲーム仕様? ゲーム仕様だとしてももう少しわかりやすい説明文とかあってもいいと思うんだけど考えても無駄かなぁ‥‥


 そう考えているうちに詩穂さんの寝息が聞こえてきた。

 まじ? この状況で寝れるんだ?

 僕は全然寝れそうにないんですけど‥‥


 詩穂さんと同じベットで寝ているこの状況。

 間違いが起きてもおかしくない状況。

 ‥‥‥‥

 ダメだ‥‥何を考えている! そんなことすれば嫌われるぞ!

 詩穂さんは僕を信用してくれてるんだ。

 信用を裏切るようなことはできない。



 ごろん。


 えっ!? なに? 詩穂さん? 詩穂さんが寝返りを打った?

 僕の背中に詩穂さんが抱き付くように寝ている。

 やばい やばいよ。僕の心臓の鼓動がえらいことになってる!


 






 んんんっ‥‥あれ? ここは‥‥

 そうかいつの間にか寝ちゃってたんだ。


 硬い床で寝たから節々が痛いやってあれ? 毛布が掛けられてる。

 結局僕は同じベットで寝る度胸もなく床で寝ました。


 そういや詩穂さんは? ベットにいないし部屋には誰もいない。

 どこに行った? もう起きたのかな。


 僕が目をこすりながら扉を開けると、いい匂いがした。

 女神像の泉の部屋にある簡易テーブルに並べられた料理の匂いだ。

 

「あら? もう起きたの?」

「詩穂さん!」


 声のする方を振り向くと土間から詩穂さんが出てきたのだ。

 長い黒髪を後ろで縛りアップにした詩穂さんはまた違った印象を受け、可愛らしさが増していた。

 手に持つ竹製のコップからは温かそうな湯気が上がっており、それができたであることが容易に想像できた。


「ごめんね。僕だけ寝てて」

「ううん。これは私が好きでやってることだから気にしないで」


「顔を洗ったら朝ごはんにしましょう」

「ああ」


 スマホを見ると、残り時間が表示されている。

 

 涼真 LV3 残り時間 9422:18


 今のミッションが開始されてから、約14時間経過している計算になる。

 焦る必要はないと思うが、この状況がどう影響するのかよくわからない。


 いい匂いの正体はスライスされた焼きリンゴ。

 それにお茶みたいな物。


「詩穂さんこのお茶は?」

「取ってきたアマチャヅルやクロモジなどの葉とリンゴの皮を煮立ててみたの」

「飲んでみてもいい?」

「ええ、熱いから気を付けてね」

「もう、子どもじゃないんだから。いただきます」


 確かに熱そうだ。匂いはそこまでないけど‥‥熱!


「ほら~ 言わんこっちゃないんだから」


 むううぅう、詩穂さんに笑われてしまった。

 ふうーっ ふうーっ これぐらいかな? ちょっと苦味がある薬膳的なやつかな?

 ちょっと僕には会わないかも‥‥


 気を取り直して本命に。


「バターがあればもっと美味しくできたと思うけど」


 焼きリンゴを口に運ぼうとしたところで詩穂さんから説明された。

 でもこれはアレだな。僕が食べるのを待って感想を聞きたいのだ!


 少し焦げ目の付いたスライスリンゴ。

 甘酸っぱさが消え甘く美味しくなってる! 


「詩穂さん美味しいです。甘さも丁度良くいくつでも食べれそうです。バニラアイスとか相性良さそうですね。あれば最高なのに。無いのが悔やまれます」

「ありがと。そこまで褒めてくれて作った甲斐があるわ」


 褒められた詩穂さんは満面の笑みを浮かべた。


「詩穂さん大変です!」

「どうしたの?」

「全部なくなっちゃいました‥‥」

「もう、また今度作ってあげるから今回は我慢してね」

「はい‥‥」

「そんな残念そうな顔しないの。そんなに美味しかった?」

「うん。素朴だけど今まで食べたお菓子より美味しかったです」

 

 これは本心だった。お金さえ出せば美味しいスイーツは手に入る。

 だけど、好きな女子の手作りスイーツに勝るものがあろうか?

 答えは否である。

 これは絶対不変の真理である。


「バニラアイスはそうね。元の世界に戻れたら作ってあげるからそれまで生き延びてこの世界から脱出しましょう」

「詩穂さんそれって‥‥うん。そうだね。頑張って脱出しよう!」


 はたから見たらリア充爆発しろ! と叫びたくなるような会話をしつつ冒険の決意を胸に秘めた。



 〜〜 あとがき 〜〜

 お読みいただきありがとうございます。

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