第10話 森②

「あっ! 新しいスキルが追加された」


 気配察知を選んだら、付属スキルだろうと思われるスキルが増えた。

 罠感知。トラップとかそんなのがわかるんだろうな。


 まあそれはともかく、今回は気配察知と水魔術を習得した。

 まだまだお湯が沸くのに時間がかかるし、スキルの検証だ。


 気配察知‥‥目をつぶっても詩穂さんの居場所がわかる。

 これが野外エリアだったらモンスターが近づいてきたらわかるのかな?

 要検証っと。


 おし、次は水魔法。

 たぶんだけど手のひらから水が出るだけ。

 土間にもどり桶の上で念じると案の定、水が出現して流れ落ちた。

 これいったいどれくらい使えるのかな? 

 回数かMP的なものがあると思うけど、それがどの程度あるかわからない。


 1回の水魔法で作れる水はそこまで多くない。小さな桶がいっぱいにもなってないから1ℓ ~ 2ℓってとこかな?


 後はどれくらい連続で使用できるか試してみよう。

 手のひらから流れ落ちる水‥‥まじで蛇口魔法じゃん。

 もっとこう、水弾的なものはできないんだろうか? やっぱり魔法のレベルを上げないと無理かな? だとしたら一つに特化した方が良くない?

 器用貧乏より特化型がいいよなこれは。


 そう考えながら水魔術を連続で使っていると倦怠感が襲ってきた。

 くうぅぅ ‥‥やっぱり‥こうなったか‥‥

 回数的に5回‥‥これが回数なのかMPなのかわからないけれど‥‥RPG的には休めば回復するはず‥‥


「ちょっと涼真君大丈夫? 顔色やばいよ。少しやすんだら?」

「ごめん。詩穂さん‥‥少し休ませて‥‥‥」


 これ以上は危険と悟って椅子に座った。

 頭がくらくらする‥‥‥






 なんかいい匂いがする‥‥


「あっ起きた? もう大丈夫なの?」

「ごめん、寝てたみたいだね‥‥まだ少しだるいけどだいぶ良くなったよ。いったいどのくらい寝てた?」

「そうね。約1時間くらいかしら? その間に料理してみたの」


 目の前に香ばしい匂いのする肉料理と緑のスープがあった。

 匂いの原因はこの料理らしい。


「詩穂さん、これは?」

「ウサギ肉の残りと取ってきた食材で調理してみたの。こっちがウサギ肉の蒸し焼きでこっちが枝豆のスープよ」

「凄くいい匂いがする。食べてもいい?」

「ええ、もちろん。そのつもりで作ったのだからいただきましょう」

「いただきます」


 いい匂いのするウサギ肉から。良い感じの焦げ目がついていて美味しそう。

 あれ? 最初に食べたウサギ肉とちょっと違う。淡白な味わいは一緒だけどあっさりしていて食べやすい。

 こっちは枝豆のスープ? ‥‥なんとも枝豆って感じがする。

 すりつぶした豆に骨付きのお肉が入っているが枝豆の味がかなり強い。


「どう? 初めて作ったからお口に合わないかも知れないけど、材料が限られてるから我慢してね」

「美味しいです。むしろ限られた食材だけでこれだけの料理できる詩穂さんが凄いです。ほれちゃいそうです」

「も、もう馬鹿なこと言わないの。冷めないうちに食べちゃってね」


 よし! さりげなくアピールできたぞ。詩穂さんもまんざらじゃなさそうだし。良い感じ。このままアピール続けていけば‥‥いずれは。



  ◇


「次はどっちに行ってみる?」

「そうだね。ちょっと怖いけど正面の森に入ってみない? あまり遠くまで行かなければ大丈夫だと思うし。何か食べれそうな食材もあるかもしれない」

「そうね。じゃあ森に入ってみましょう」


 新たに習得した気配察知のスキルでは周辺には何も反応がない。

 あくまでもスキルでの感じでなので実際にモンスターと遭遇してみないと結果がわからない。森に擬態するモンスターや、隠れ潜むモンスターにはたしてスキルが役に立つかも謎のままだから注意しないといけない。


 草木が生い茂り、どこかで小鳥のさえずる声が聞こえる静かな森。

 これが詩穂さんとのデートだったらどんなに良いことだろうか?

 実際にはデートどころか、辺りを警戒しながらゆっくり探索しているので緊張しっぱなしである。まあ、ある意味危険なデートともいえるけど。


 むっ! まだ距離があるけどモンスターの気配がする。


「詩穂さん。この先にモンスターがいる! どうする? 倒すか迂回するか、引き返すって選択肢も今なら取れるよ」

「とりあえず近づいて様子見ましょう。倒せそうなら倒せばいいし無理そうなら逃げましょう」

「了解。じゃあこのまま進むよ」


 モンスターのいる方角がわかっても自分たちのいる場所がわからなくなったら本末転倒になってしまう。森で迷子だけは避けたい。

 しばらく進むと崩れ落ちた廃墟が姿を現した。


「ちょうどいい。ここで隠れて様子を見よう」

「ええ」


 古びたレンガでできた廃墟の壁に身を隠して様子をうかがう。

 モンスターの気配は2体。かなり近い。


 あれはゴブリン? だが、今まで遭遇したゴブリンと様子が違う。

 なにが違うかといえば武器を手にしているのだ。

 それぞれナイフと盾を持っており、それ以外は腰の布切れだけである。


「涼真君どうするの?」

「ゴブリンだし倒そう」

「わかったわ」


 ひっそりとした声で作戦を相談した。


 僕は近くの石を拾い息を潜め近づいてくるのを待った。

 

 ゴブリンたちはまだ僕たちに気付いた様子がない。

 既にかなり距離は近く、物音を立てればすぐに見つかってしまうだろう。


 ゴブリンたちは僕たちに気付かず通りすぎようとした。

 今がチャンスだ。

 僕は持っていた石をゴブリンが通りすぎた反対の茂みに向かって投げつけた。


 ガササ 茂みの揺れる音にゴブリンが反応した。

 茂みに注意がいっている隙に僕は剣を片手に走り出した。


 ゴブリンの背後への一撃。

 斬りつけられたゴブリンは粒子となり消えていった。

 仲間のゴブリンがやられたことで、ようやくもう一体のゴブリンも僕たちの存在に気が付いたがもう遅い。

 盾やナイフを持っていようが子どもの玩具のようなもの。剣術スキルを持っている僕の敵じゃない! 剣でナイフを跳ね飛ばすとゴブリンの顔面を殴り飛ばした。


 すかさず詩穂さんが持っていた竹槍でゴブリンの腹を突き刺した。


 ゴブリンの断末魔が響き粒子となって消え、その後に宝箱が残った。


「イエ~イ!」


 予想以上の結果であるお宝の出現に思わずハイタッチした。


「開けるよ」


 ワクワクしながら宝箱を開けると、中には木製の盾と毛布が入っていた。

 木製の盾はゴブリンの持っていた小型の丸いやつと違い、西洋の騎士が持っているような逆三角形の盾だった。

 そして、毛布はシンプルな灰色のシングルタイプ毛布だった。軽くて肌触りの良い生地は包まると気持ちよさそうだ。


「やったね! 盾は僕が使うとして寝具はありがたいな」

「そうね。どうせならもう一枚欲しかったのにケチよね。これも持って帰るとして他に何かないかしら?」

「他に? 魔石以外は宝箱にはこれだけしか入ってなかったよ」

「私が言ったのはこの廃墟よ。何か使える物がないか探してみましょう」


 確かに‥‥身を潜めることに集中して廃墟の中まで見てなかった。

 といっても壁は崩れ落ち苔が生えており、ぱっと見期待はできそうもない。

 崩れた壁から中に入ると木片が散乱していた。

 目に付くのは大きな空っぽの樽くらいしかない‥‥あとは木片ばかりでどう見てもゴミにしか見えない。


「ハズレだね。廃墟の周りも見てみよう」


 廃墟の裏手に回ると立派なリンゴの木があり、美味しそうに輝く真っ赤な果実がなっていた。

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