第34話 地下迷宮③
どうしてこうなった‥‥‥僕の左腕には詩穂さんが、右腕には子犬のような少女がそれぞれ僕の腕を掴んで寝ている。
地下迷宮をさまよい歩きモンスターと戦って心身ともに疲れているせいなのであろう、すぐさま眠りについたようだが、僕はふたりに挟まれて緊張で眠ることができないでいる。
事の発端は僕と詩穂さんが一緒の部屋で当たり前のように寝ようとしたことに対して、こずえちゃんが不満を漏らしたことから始まった。
「いくら恋人だからって、ふたりで一緒に寝るなんてずるいです」
「いやいや、こずえちゃん、なんか勘違いしてない?」
「おふたりが何しようが知りませんけど、わたしひとりで寝るってことですよね。そんなの嫌です。泣いちゃいます」
子犬がキャンキャン吠えている。助け出されたこずえちゃんにとってはこれが迷宮での初めての睡眠となる。迷宮での睡眠という環境に不安を感じているのもあるだろうし、彼女にとって僕と詩穂さんが一緒にいることへの妬み、うらやましさが表に出ているのだがどうしたものか‥‥‥
「じゃあ、いっそこずえちゃんも一緒に3人で寝る?」
詩穂さんの言葉に僕は「はっ!??」と理解が及ばず変な声が出た。
なんでそうなるの? 女子ふたりと僕で別れれば済むことじゃないの? それがどうして同じ部屋で寝ることに‥‥
事はそれだけではなかった。こずえちゃんはベッドをくっつけて手を繋いで寝ようと言い出したのだ。
「それぐらいなら‥‥」
「やったぁぁ。こういうのってあこがれてたんですよね」
照れながら言うこずえちゃんに対して不機嫌そうな顔をする詩穂さん。
こうなることも想定できてただろうに仕方がないなぁ‥‥
「詩穂さんもほら一緒に手を繋ごう」
詩穂さんに手を差し伸べると満面の笑みを浮かべた詩穂さんが抱き付いてきた。
―――そして、今に至る。
「おはようございます」
目を開けるとそこには詩穂さんの瞳があった。
「おはよう詩穂さん。こずえちゃんは?」
「まだ寝てるわ。涼真君は両手に花であまり寝れなかったみたいね」
「そりゃあね‥‥詩穂さんは?」
「私は安心して、いつもよりぐっすり眠ることができましたよ」
両手に花はともかく、隣にいて僕に抱きつく彼女に愛おしさが込み上げてくる。
詩穂さんの温もり、一度この心地よさを知ってしまったら、もう彼女なしでは生きてけないような気がする。
「好きだよ‥‥詩穂さん」
「うん。私も好きよ」
僕が詩穂さんに愛の言葉を投げかけると、その言葉に応じるようにふたりの顔が近づく。
「はいSTOP! そこまでです! まったく朝から何してんですか!」
残念。こずえちゃんが目を覚ましたみたいだ。
クスリと笑う詩穂さんとキャンキャン吠える子犬少女。
さあて、今日こそは地下迷宮3Fを攻略するぞ!
◇
僕たち3人は再び地下迷宮3Fへとやってきた。
目の前には黒い靄ダークゾーンがある。
罠の気配はなく、ただたんに闇が広がっているのである。
その中では灯りはすべて消えてしまう。もちろんスマホの画面も見えない。
「さて、どうしようか」
「中がどうなってるのか不明だからとりあえずはぐれないように手を繋ぎましょう」
「わ~い。でも涼真さん、どさくさに紛れて変なとこ触らないでくださいよ」
「おいこら!」
まったく‥‥まあ緊張するよりましだが弄ばれてる感が半端ない。
結局僕の左手は詩穂さん、右手はこずえちゃんが握り僕の両手は完全に塞がれてしまった。
先頭を歩く詩穂さんが壁に手を当てながら先へと進む。
今のところは直線で何も起こらず進むことができた。
「何もないわね。いつまで続いてるのかしら?」
「さあ。声はすれど顔は見えないって変な気分だね」
「涼真さん。女の子にぎゅっとしてもらって嬉しい? 私は今ドキドキしてますよ」
こずえちゃんは手を繋ぐどころか僕にべったりくっついている。
泣くよりいいけどこれでは僕の身動きが取れない。
モンスターに襲われたら危険な状況だけど、幸いなことにモンスターの気配は一切感じられない。
ほどなく進むと突然視界が明るくなる。ダークゾーンを抜けたようだ。
スマホで位置を確認するとダークゾーンの部分も反映されているのがわかった。距離的にはざっと60mくらいか。たかが60mと思うかもしれないけど実際に暗闇を歩くと倍くらい歩いたように感じてしまう。
迷路状の通路を歩いて行くと再び暗闇が広がっている。
先ほどと同じように手を繋ぎダークゾーンに侵入すると詩穂さんが通路が曲がり角になっていることに気が付いた。
曲がり角を曲がり先に進むと暗闇を抜けた。が、すぐそこにはまた暗闇が広がっている。これスマホの地図がなかったら絶対やばいやつじゃん。
そうして暗闇の迷路を進むと一枚の扉があった。
扉を開けるとそこは小部屋になっており、目につくのは壁いっぱいに描かれた壁画とその前には台座に載った3つの石板だろう。
壁画に描かれた人物は3人、それぞれが石板に手形をつけるように描かれている。
だとするとこの石板に触れろってことだよな。
僕たちはそれぞれ石板の前に立ち、手のひらを石板に押し付けると石板が眩い光に包まれ、そこには赤い宝石の付いた首飾りが宙に浮いていた。
僕が恐る恐る首飾りに触れると光は消え失せ、途端に重力が発生したように重さを感じるようになった。
「これ攻略のキーアイテムだよな。綺麗な宝石付いてるけど誰か身に着ける?」
「そういうのはちょっとねぇ」
「先輩がいらないなら私ほしいです」
「なら、こずえちゃんが持ってるといいよ」
「わ~い。涼真さんありがとうございます。せっかくなので首に着けてくださいよ」
「えええっ?」
僕はとっさに詩穂さんに視線を向けた。
彼女は困ったような顔をしながらもこくんと頷いてくれた。
僕は了承が得られたと解釈してこずえちゃんの首に首飾りを着けてあげると、こずえちゃんは赤い宝石を手に取り満面の笑みを浮かべた。
「先輩今さら遅いですからね」
「うらやましいとかそんなんじゃないから‥‥」
「もう素直じゃないんだから」
僕はそんなちょっと拗ねた詩穂さんを可愛いと思ってしまった。
そんな折、突然首飾りの宝石が光り壁画が音を出して崩れ出した。
そして、崩れた壁画の奥には通路が続いており、その奥には豪華な装飾の施された扉があった。
「やったね。扉発見!」
「ああ、きっと目的の扉だと思う」
「ここに迷宮の主ってのがいるのね」
「たぶん」
この扉には1Fや2Fのようにロックは掛かっていないようだ。
赤い宝石が鍵の役目を果たしていたのだろう。
そして、この奥には3Fの主であるボスモンスターが居るはずだった。
「じゃあ準備はいいかな」
「ええ、いつでもどうぞ」
「行くぞ!」
豪華な装飾の施された大扉を僕は思い切り押し開いた。
大扉の先は天井の高い大部屋だった。
明らかなボス部屋、そして奥にはただならぬ気配が3つ。
次第に薄暗かった部屋が全体的に明るくなる。
そこに映し出される3つの人形のシルエット。
――――あれはまさか。
中心にいるのは長剣を手に持つ男性。
その横には短い槍を持つ長い髪の女性。
そして、弓を持った背の低い女性の姿が浮かび上がる。
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