第42話 反撃開始、彼女の覚醒
<三人称視点>
ひかりの兄、
それを、
「まって!」
ひかりが後ろから腕を引っ張って止める。
「待ってられないよ!」
昨日、久遠と話をしたエージェント施設にて、二人は『被毛会』のアジトの場所を聞いている。
賢人が向かったのは間違いなくその方角だった。
「ひかり! 離してく──」
「違う! わたしも連れてって言ってるの!」
「!」
その言葉で、賢人がようやくひかりの方を振り返る。
賢人の視界に入ったひかりは、決意を持った目をしていた。
「ひかり……わかった、いこう!」
そうして賢人はひかりを連れ、エージェントからの通信も無視して久遠の元へ向かった。
★
そして、今。
「ふぅ……」
(なんとか間に合ったな)
賢人は何の魔法を使うか迷った上に、「とにかくぶっ飛ばす」と考えると
久遠の位置もなんとなく把握していたが、久遠やその他被害のことを考えると正解だったと言えるだろう。
そんな中、賢人が連中をぶっ飛ばした方向から、ガラガラと
「おいおい、いてえじゃねえかよ」
「今のは効いたぜ~?」
さっきはチラっとしか視界に入らなかったが、間違いなく久遠が
「!」
さらに、
「こりゃ何の騒ぎだい」
「うるせえと思ったら侵入者か」
「おっと、エージェント様か?」
崩れた瓦礫の奥から続々と姿を現す黒スーツの者たち。
今までの戦闘音を聞いて組織の者が集まってきたようだ。
「賢人君、気を付けて。さっきの奴らは異能を使ってきた」
「異能を?」
その事実に賢人も驚きを隠せない。
「ああ。しかもこのタイミングで出てきたってことは……」
「今出てきたあいつらも異能持ちかもしれないってか」
先程の三人を含め、姿を現したのは約二十人。
その敵が全員異能持ちと考えると、いくら賢人といえど中々に厄介だ。
それもそのはず、賢人は“人を殺したくない”。
エージェントとしてはそれは甘い部分なのかもしれないが、ついこの間まで一般高校生だった賢人からすれば当然のこと。
加えて、ここは地下施設だ。
賢人の全力の大魔法をぶっ放せば、一気に崩壊する恐れがある。
(ああもう、色々と考えることが多いなあ!)
賢人は思わず頭を抱えた。
「賢人君?」
「大丈夫だ、なんでもない」
そんな中で声を上げるのはひかり。
「賢人、わたしはどうすれば!」
「ひかりは……」
一緒に戦ってくれ、そう言おうとした口を止める賢人。
月影から連絡が来た時は賢人自身焦っており、ひかりの覚悟も
だが今になって、それを後悔する。
(ひかりを連れてくるべきではなかった……!)
ひかりはエージェントとしての知識はある。
それでも現状は「ただ弱めの火を出せる」程度の異能しかない彼女。
この戦いに巻き込むのは危険だ、と賢人は考えてしまった。
「後ろで周りを見ててくれ!」
「わ、わかった……」
「?」
賢人の指示に若干落ち込みを見せるひかり。
エージェントとしては不甲斐ない気持ちを見せるが、今はそれに構う暇はない。
「いくぞ久遠!」
「了解!」
賢人が久遠と共に前へ出る。
賢人は遠目から魔法を放ってもいいが、久遠の戦闘手段は肉弾戦。
久遠をサポートしつつ敵を叩くのならば自分も一緒に前に出た方が良い、そう考えた。
「じゃあとりあえず、いっちょ頼むよ」
「久遠? ──!」
敵集団とは中距離といった範囲で、久遠が賢人の肩をタッチする。
その瞬間、賢人は体の中から湧き上がってくるものを感じる。
(久遠の『異能強化』か……!)
「任せろ!」
力が
思い描くのは先程と同じ暴風を操る魔法、『ウインドストーム』だ。
燃えたり崩落の恐れがない魔法として、最適の判断だろう。
「「「ぐわああああっ!」」」
十人程の集団が賢人の暴風に捕まり、壁に激しく打ち付けられ、めり込む。
かなりのダメージを負った事を見て取れる二人は、集団へ一気に距離を詰める。
「この内に叩くぞ!」
「そのつもりだよ!」
賢人は『身体強化』、久遠は『異能強化』により、共に自らの身体能力を向上させる。
「はあッ!」
久遠は賢人より少し前に出る形で肉弾戦、
「邪魔はさせない!」
賢人は久遠に迫る周りの連中の撃退を担当する。
「くそっ!」
「なんだこいつら!」
「強いぞ!」
施設を崩壊させることなく、一人一人確実に仕留めるなら肉弾戦の方が良い。
そう考えた二人は、即席とは思えないコンビネーションで一人一人を確実に倒していく。
それはまるで、熟年の相棒さながらの見事に支えあった動きだ。
「……!」
それをどこか、複雑な目で見つめるひかり。
自分の異能が役に立たないことは分かっている。
それでも、エージェントとしてあの場で戦えていないのがとても悔しく思えた。
そんな中、
「!」
肉弾戦を主に続ける二人に、炎を差し向ける敵がいることに気づくひかり。
賢人も周りには気を遣っているが、エージェントとしての甘さ、視野の狭さからそれに気づいていない。
「賢人! 久遠!」
ひかりは必死に叫ぶも、辺りに鳴り響く戦闘音、集中状態から賢人と久遠の耳には届かない。
「……!」
賢人と久遠に迫る炎。
ひかりは、自分の火を放ってもそれを止められない、どころかより勢いを増す結果になってしまうことを理解していた。
それでも何か出来ないかと、今しがた敵が放った炎に手を差し向ける。
ひかりの異能は『火』。
と少なくとも彼女は
(なんとかあの火を打ち消して!)
そう願ったひかりの手から放たれたのは
「──!」
その氷は敵の放った炎とぶつかり、打ち消しあう。
「「!」」
そこで賢人と久遠は、ようやく自身に炎が迫っていたことに気づいた。
同時に、
「ひかり……?」
それを打ち消したのがひかりだということも。
「わたし、今何を……」
今までは弱い火しか出せなかったひかり。
それもそのはず、彼女の本来の異能は『氷炎操作』。
空気中の温度を変化させて“火”と“氷”を同時に操る異能であり、さらにひかりの場合は、氷を操る側にかなり長けた異能だったのだ。
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