第17話 真面目で優秀、頼れる学級委員長の音葉さん。の裏の顔

<三人称視点>


 賢人が中村に絡まれた日から数日。

 中村は学校に来なくなっていたが、そんなことは知らないクラスでは変わらぬ一日が始まる。


 朝のHRホームルーム前。


「おはよう」

「あ、おはよう。音葉さん」


 教室の人と挨拶を交わし、席に着いたのは『音葉おとは雅乃みやの』。


 賢人やひかりの所属するこの二年一組の学級委員長だ。

 愛称は“音葉さん”、もしくは“委員長”。


 黒髪をセミロングに伸ばし、その整った容姿は清楚せいそそのもの。

 定期試験では、常に学年一位を取る優秀ぶり。


 加えて、悪い事には男女構わず注意するなど、クラス委員長ゆえの生真面目なところがあるが、嫌われることは無く信頼も厚い。

 まさに絵に描いたような優等生だ。


 そんな音葉は、自分の席に着くと同時に一人の生徒が視界に入れる。

 

「あ」


(今日もぼっちだ……)


 彼女の目に入ったのは賢人。


 賢人は、最近のことを思い出してニヤニヤするのを隠すように頭を伏せている。

 だが傍から見れば、当然ただのぼっちだ。


 事実、先日までは暇を紛らすために頭を伏せていたのには変わりないので、周りから変化の判別がつくはずもなく。

 

 そんな賢人は、音葉からすれば気になる存在となっていた。


 思春期的な気になるではなく、このクラスの学級委員長として。

 クラスの事を気に掛ける音葉からすれば、賢人のぼっち加減はやはり気になる。


 しかし先日、そんなぼっちで陰キャな賢人と、学園のアイドルひかりが付き合ってるとの噂が立った。

 音葉は真面目だが、人並みにはそういう噂も気になる。


(けど、十中八九なさそうね……)


 音葉雅之、彼女は真面目ゆえに合理主義。

 そんな彼女は、一切噂を信じず。


 噂を信じる勢と信じない勢が半々という中でも、圧倒的に信じない勢だった。


 そうして彼女が辿り着いた答えは、


(桜花さん達が、如月君をからかって遊んでるんだ!)


 賢人を心配するがゆえの勘違い。

 

 しかし音葉からしても、ひかり達がギャルっぽいとはいえ、そんな事をする人たちには見えないのは分かっている。

 ひかりの周りははとても良い人達なのだ。


 それでも、何の関連も無しにぼっちの賢人にそんな噂が立つようには見えない。


 だから音葉は決心する。

 学級委員長として、このクラスを良くする者として。


(私は、桜花さんと如月くんの関係を暴いてみせるわ!)


 こうして、合理主義ゆえの勘違い委員長の調査が開始される。

 



 

 昼休み。

 ひかり達が根城としてるという話を聞きつけた音葉は、校舎裏の花壇に来ていた。


 しかし、どこにも音葉の姿はない。

 それもそのはず。


 カサカサ。


 花壇の草木の中に身を隠す音葉。

 繰り返すが、彼女は合理主義。


(これもクラスを良くする為だと思えば我慢できるわ!)

 

 目的のためには見栄えは二の次であり、その性格のせいでたまに変な行動をとるのもまた彼女の特徴なのであった。

 

 と、そんな所にようやく目的の者たちが姿を現す。

 ひかり、陽川、明日、いつものカースト最上位のギャル三人だ。


「でさー、実際どうなのよ? ひかりちゃんさあ」

「な、なにがよっ」

「分かってるくせに~。如月君のことだって」


 早速盛り上がるのは、賢人の話題。

 また、いるのがイツメンであることも加味し、


(これは本心を聞けるわ!)


 心を躍らせる音葉。


「賢人が、ど、どうかしたのかしら?」

「ひゅ~。賢人だって、あっちー! ていうか、そんな名前だったんだ」

「な、名前は! その……幼馴染だから知ってるだけよ。家も近所だし」

「あ、そだったの。それは知らなかったわ」


(あれ……?)


 しかし、音葉もその違和感に気づく。


「じゃあ小さい時から恋に?」

「ち、違うわよっ! もー!」


 横の二人がひかりをいじり倒す会話内容。

 頭の良い音葉は、当然気が付かないわけがない。


(意外とまんざらでもないの……?)


 この会話を聞いた者なら誰もが思うであろう考えを、音葉も持った。


(で、でも、だって……!)


 彼女は合理……以下、略。

 その為、どう見ても不釣り合いな二人の関係を信じる事は出来ない。


 ゆえに自分の信念を中々曲げられない彼女は、次の機会を伺う。


(次はきっと本性を現すわ!)





 放課後。

 この日はちょうど、賢人とひかりが花壇の水やり当番だった。

 そんな絶好の機を音葉が逃すわけもなく。


 音葉は、今度は花壇ではなく陰に姿を隠した。

 だが、先に水やりを始めた賢人に対し、ひかりの姿がない。


(やっぱりパシリにされて──!)


「ごめんごめん、ちょっと遅れたわ!」


(いるわけではないようね……)


 遅れて登場したひかりに、ふっと我に返る音葉。

 だが、見ものはここから。


もてあそばれているのなら、普通には話せないはず!)


 しかしその予想は、またも打ち破られる。

 

「いつものことだから良いよ」

「てへっ」

「てへっ、じゃねえんだよなあ」


(あれ、普通に話してる。どころか意外と仲良さげ……?)


 音葉は、カーストに大きな差がある二人が仲良く話す場面に戦慄せんりつした。

 会話は続く。


 そしてこの会話が、今後の音葉の運命を大きく変えることになる。


「ていうかどこにでもいんのな、あいつら」

「あいつら? ああ、魔物のこと?」

「そうそう」


(ま、魔物? 一体、何の話?)


「でも賢人は余裕で倒せちゃうじゃん。あんなおっきな炎、どうやって出すのよ」

「まあ、気合い?」

「気合いでなんとかなるかー!」


 実に微笑ほほえましい会話である。

 しかし、音葉の頭の中では混乱するばかり。


(魔物、炎……。この人たちもしかして……)


「って、うわっ! 水をかけるのはなしだろ!」

「炎でかき消せ!」

「ええっ!?」


 ここまで聞いて、


(やっぱり! この人たち……中二病だわ!)


 音葉の勘違いはここに極まった。

 それもそのはず、彼女にも誰にも言っていない秘密があったのだ。


(そんな、そんなの……私も混ざりたい!)


 真面目で勉学優秀、頼れる学級委員長の音葉雅乃。

 彼女の裏の顔はオタク。

 それも、中二病混じりのオタクであった。

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