第10話 リターン有り余ってまさかのお約束

 俺が大きな火を球を出し、ひかりの家族三人が身動きが取れない中、ひかりが割り込んでくる。


「ひかり!?」

「何をしている! 危ないぞ!」


 当然、ひかりを心配する声を上げるお兄さんとお父さんだが……


「危なくない! 賢人は絶対、あれをパパ達に放ったりなんかしないわ!」


 ひかり……。

 俺を信じてくれたのか。


「わたしも信じられないけど、あの火の球をよく見て! 三人なんてすぐにやっつけちゃうわ! その上で手を下さないのよ! これのどこが仇なす存在なのよ!」


 ひかりの必死な声で、ようやくお兄さんはこちらを向いて尋ねてくれる。


「そ、そうなのか……?」


「……えー、はい。実はそういうことです」


 力を誇示しつつも、実際にどう説得すれば良いかは考えてなかった。

 ひかりがたまたま都合よく解釈してくれたので、ここは俺もノッておこう。


「じゃあとりあえず、これはもういらないですね」


 しゅううう……。

 そう判断して、俺は大きな火の球を消した。


 ついでに、三人の足を縛っていた『土魔法』も解除する。


「僕も、ひかりのご家族さんを傷つけたくはありませんでした」


「き、君は一体……」


 ここまでくれば、後は出まかせでなんとかなる。


「ただの新米エージェントですよ。ひかりと一緒に、平和を守っていきたいと思ってます」


「! それじゃあ本当に……」


 話を聞いてもらう場を作り、ひかりの割り込み説得によって、ようやく三人は認めてくれた。


 と同時に、それぞれが深く頭を下げる。


「大変申し訳ない」

「すみませんでした」

「すまなかった」


「いやいや、良いんです!」


 ひかりは、「エージェント」は良い者ばかりではないと言った。

 だから怪しい俺のことも、しっかりと調査しなければいけなかったんだと思う。


 自分の家族の幼馴染に刃を向ける、彼らの方もつらかっただろう。

 解決したなら俺はこれ以上波紋を広げたくない。


「立派なお仕事だと思います。これから、たくさんのことを教えてください」


「賢人くん……」


 そうして俺が伸ばした手を、ひかりのお兄さんの手を……取らなかった。

 というより、取れなかった。


 ひかりが、お兄さんの手をバチンと叩いたのだ。


「許さないわ! このバカ兄貴!」


 どうやらひかりは、かなりおこの様子。


「え、えと、ひかり……?」

「あの、今のはもう仲直りの雰囲気で……」


 突然のことに、俺もお兄さんも若干混乱。

 それでも、ひかりはまだ怒った。


「許しませんー!」


 しまいには、その場でわーわー言い始めたひかり。

 半分本気、半分冗談のような感じで。


 俺のことを心配してくれたのかな……いや、それはないか。


「すまなかったの、ひかりよ。ほれ、これで許してはくれんか?」


「おばあちゃん……」


 それでも、おばあちゃんには弱いようで。


 そう言いながら、おばあちゃんがひかりに渡したのは、見慣れない鍵。

 それも金色の輝くとても綺麗な鍵だ。

 

「これは『商店街』への鍵じゃ。これに免じて、今回は許してくれんか」


「え、まじ! じゃあ許す!」


「おいおい……」


 やっぱり、それほど心配はしてくれてなかったらしい。

 というか、


「裏商店街というのは?」


「そうじゃな。簡単に言えば、一般人は入れない商店街じゃ」


 うん? 入れないってどういうことだ? 


「大規模な人除けをしておるんじゃよ。つまり、“エージェント御用達”の商店街といったところじゃな」


 おお~、なるほど。

 人除けで、一定以上の制限を設けているわけか。


「それだけじゃないわよ! 賢人、エージェントはがあるって言ったでしょ」


 ひかりはニヤっとしながら、右手の親指と人差し指で輪っかを作る。

 エージェントは儲かるって話だったな。


「品揃えはもちろん、高級ブランド品から普段の流通ルートでは滅多に手に入らない物まで、凄い物もたくさんあるのよ!」


「おお……」


 それは魅力的だな、裏商店街。

 俺もいつか行ってみたいものだ。


 しかし、その願いは突如として最高の形で叶う。


「だから……その、一緒に行かない? 今日はもう遅いから明日とかで」


「え!?」


 良いのか!?

 ひかりと……二人っきりで!?


「それってデート──」


「ち、違うわよっ! エージェント御用達だから、あたしが色々案内してあげるって言ってんの!」


「ああ、そういう……」


 若干ショックではあるが、ひかりと一緒に出掛けられるのはドキドキする。


「じゃあよろしく」


「……! わかった!」


 こうして、ひかりと裏商店街へ行く約束をして工場跡を去る。


 桜花家の皆さんとも和解をし、帰りは和やかな雰囲気で帰ることが出来た。


 なんたって、そのおかげで俺はひかりとデートの約束までしてしまったからな!

 それを考えれば、リターンどころか、余り有りすぎてるくらいだ!


 明日が楽しみだなあ。

 そうニヤニヤしながら、そーっと自宅へ帰った。





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