第30話 ひかりの思春期ならではの勘違い?

 俺やひかりと同じエージェントだというイケメン転校生の久遠くおん


 彼とは軽い挨拶を交わし、隅々まで隠れ音葉さんがいないかチェックもしたので、話を進める。

 

「僕が来ること、ひかりから言ってなかったんだ」


「まさかこんな早く来るとは思わないじゃない」


「まあ、緊急事態らしくてね。


「?」


 そう言いながら久遠は、ここに来た理由を話してくれる。


 見ず知らずの俺にも話してくれるとは、よっぽどひかりの事を信頼しての事だろう。

 ぐぬぬ、なんだかモヤモヤする気持ち……。


 とにもかくにも、彼がここに来た理由は二つ。

 

 まずは中村君にいていた悪魔グラエル。

 どうやらあの一件から行方が知れないとのことで、それについての調査というのが一つ。


 それともう一つ。

 この辺を根城にする組織が、モンスター関連の何かをかくまっている可能性があり、その調査とのこと。


 この二件に関して、他にもエージェントグループが動いているらしいが、彼はこの通り単独行動。

 もちろん俺たちも協力するが、久遠が相当信頼されていることがうかがえる。


「あとは賢人君に興味があってさ」


「俺に? どうして?」


「賢人君が倒したグラエル、あれが相当なモンスターらしくてね。それを倒した君が、どんな人物か知っておきたかったんだ」


「へー、そうなんだ」


 確かに最後の攻防では一杯食わされたが、全体的に見ればそれほど強くはなかったような……。

 媒介にしていたのが一般人の中村君だった、というのもあるのかな。

 

 というか、教室でのチラ見もサッカーで指名してきたのも、俺の事を知っててわざとやったのか。


 こいつ、中々にいい性格してやがる。

 エージェントならそれぐらい必要だろうけど。


「だからさ」


「?」


「僕と勝負してくれないか?」


「……はい?」


 そうして何を言い出すかと思えば、イケメンの久遠が自分の胸に手を当てて言い放ってきた。

 そんな突然の提案には、ひかりも戸惑った様子。

 

「ちょ、! あんた、何言ってんのよ!」


「えーいいじゃん、味方の力はやっぱ先に知っておかなくちゃって思って」


「それは! そうだけど」


 二人の言い合い。

 だがその中で俺は、あるを聞き逃さなかった。


 ひかりはこいつを「久遠」と呼んだ。

 対して、ひかりは俺の事を「賢人」と呼ぶ。


「ふっふっふ」


「賢人君?」

「賢人?」


 二人の関係には少なからずモヤモヤしていたが、その事実が俺に余裕を持たせる。

 調子に乗った俺はそれを受けたのだ。


「いいよ。やろうか、久遠」


「お、そうこなくちゃ!」


「ちょっと、賢人まで!」


 俺たちが勝手に話を進め、ひかりが止めに入る姿勢だ。

 

「大丈夫だって、手加減するからさ」


「へー、言ってくれるじゃないか賢人君。こう見えて、僕は割と凄腕だけど?」


「え、そうなの?」


 自信満々に受けて立ったが、その発言には一旦待ったをかける。

 賢者の力を持つとはいえ、俺はエージェントは素人も素人、実際に何度も油断からやからしかけているからな。


「そうよ、こいつは割と有名なエージェントなのよ。コードネーム『クオン』と言えば、日本の界隈ではまず知らない人はいないわ」


「へ、へー……」


「おや? ビビったのかな?」


「ビ、ビビってねーし!」


 その情報には自分でも分かりやすいぐらいに動揺してしまう。

 いや、それでも。


「だから賢人──」


「ひかり」


 止めようとするひかりに対して、俺は向き直る。

 彼女の両肩に手を添えて、じっと目を合わせた。


 単に調子に乗って受けたのもあるが、今日ここにひかりに呼ばれた時から、実は話そうと思っていた事がある。

 それはタイミング的にも、久遠との勝負の後で言うのがベストだと思う。


「これが終わったら、話そうと思っていた事があるんだ」


「えっ? それってどういう……」


「だから、久遠と勝負させてくれないか?」


「! そこまで言うなら……わ、わかった」


 俺の言葉にひかりは素直に納得して、俺から目を逸らすように少しうつむいた。

 彼女の明るい金色の前髪が前方を覆って、ひかりの表情を隠す。


 そんな俺たちの会話に、


「賢人君、君も罪な男だねー」


「何を言ってるんだ」


「ほら」


 話に割り込んできた久遠は、不思議な事を言いながらひかりの方を指す。 

 ひかりがどうかしたのか?


「ひかり?」


「……! こ、こっち見ないでよっ!」


「ええ、どうしたの急に……って、ああ!」


 今になって気づく。

 そういうことかー!

 

 これが終わったら話そうと思っていた事って、これじゃまるで「告白」のようにも聞こえるじゃないか!


 違う違う!

 俺が話そうとしたのは前世の記憶と力、「賢者」のことで!


「僕に勝って良い所を見せた後に、って? 君も良い度胸してるなー」


「ち、ちげーよ! 余計なこと言うな!」


「……賢人」


 ほらあ!

 久遠が余計な事言うから、なんか勝ったら告白しなきゃいけない雰囲気になってるじゃないか!

 

「まあ、それでも手は抜かないけどね」


「! それはもちろん」


 久遠のいかにも楽しみにしている顔で、俺も一層燃えてくる。

 告白うんぬんの誤解を解くのは後にして、止める人がいなくなったのなら好都合。


 そうして俺たちは、なんやかんやありつつも勝負をすることにする。

 凄腕エージェントという久遠の実力、見物みものだな。

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