第31話 賢者の中二病的魔法で、俺つええ!

 久遠くおんから提案され、その過程でひかりに告白する雰囲気が出てしまった中、とにもかくにも俺たちは手合わせをすることに。


 そうして三人でやってきたのは、エージェント一家としてお馴染みの桜花家。

 なんでも、桜花家の地下に好きに暴れられる施設があるというのだ。


「ここに来たのも久しぶりだなあ」


「え、久遠はここに来た事あるの?」


「そりゃあ僕も桜花家にはお世話になってるし」


 なんだと!?

 俺はこの施設に入ったのはおろか、知ったのもついさっきだぞ!


 くっ、ちょっと悔しい。

 だ、だが!


「じゃあひかりの部屋は入ったことあるのかよ」


「いや、ないけど」


「っし!」


 そこは俺の勝ち。


 その子の部屋に入っことがあるか否か、これは関係値を表す上でかなり重要な指標となる。

 ならば、ひかりへの距離は俺の方が近いと言っていいだろう(と思いたい)。


「でも、賢人君はここに来たことはないんだよね。僕は来てるけど」


「ぐぬっ」


 久遠のニヤっとした挑発するような顔。

 こいつ、俺をおちょくって遊んでやがる!


 はっ! いや違う!

 まさかこいつ……ひかりのことを!?


「……はあ、何の張り合いしてんのよ。ほら着いたわよ」


 そんなやり取りをしつつ、呆れたようなひかりの言葉に耳を傾け、視線を前に向ける。


「おおっ!」


 階段を降りた先、目の前に広がったのは一面銀色で造られた大きな施設。

 装飾などは一切なく、まさにトレーニングをするためだけの広い広い施設だ。


「全身が鉄で出来た蜘蛛くも、『アイロンスパイダー』の素材をふんだんに使ってるわ。すっごく高かったらしいけど、耐久性は抜群よ」


「これなら思いっきりやれそうかな、賢人君」


「そうだな」


 トレーニングルームに入ると、俺たちは間髪かんはつ入れずに準備を始める。

 軽い準備運動の後、すぐに手合わせの開始だ。


「大きな怪我をさせるようなことは無し。あとの判断は各々、もしくはひかりが止めるまで、でどうかな?」


「了解」


 俺たちは距離を取って向かい合い、ひかりは遠目から眺める。


「ふう……」


「!」


 久遠は一息つき、構えを取った。

 左腕左足を前に、とん、とん、とステップを踏みながらボクサーのような構えだ。


 なんだそれ、かっこいいな。

 独自の構えが羨ましく思った俺も、対抗して構えを取る。


 姿勢を落とし、拳を握った右腕を前に、後方の左手は親・人・中指を曲げて力を入れる。

 まさにドラゴ○ボール、某主人公の構えだ。

 構えてみて分かる、これ多分意味ないやつだ。


「準備はいいんだね、賢人君。構えは意味分からなすぎるけど」


「気にしないで。いつでもいいよ」


「じゃあ遠慮なく!」


 俺が返事をした途端、久遠はその場をり出す。

 なるほど、まず遠距離系ではないと。


 てことで俺も『身体強化』をして迎え撃つ。


「頑張れ! 賢人!」


「……!」


 ひかり!

 声援を送ってくれるのが嬉しくて、俺はつい横を振り返ってしまう。


「バカ! 前!」


「へ? ──ごへぇっ!」


「あ」


 そして当然のように、久遠の拳をもろにもらってしまった。

 久遠の強力な一発、俺は後ずさる。


「くっ、中々やるじゃねえか」


「いやいや、今のは僕というより君が──」


「面白え!」


「……とりあえず大丈夫なんだね?」


 俺は再度構えを取ることで返事をした。

 びっくりはしたが、ぶっちゃけ『身体強化』でそれほど効いていない。


 というか……そうだ!

 どうせひかりには賢者の事を言うのだし、この際自分に何が出来るかの確認もねて、大魔法をぶっぱなしてみよう。


 もちろんヒットさせるのは無しで。


「ふっ」


「どうしたんだい? 急に強気じゃないか」


「まあ見てろって」


 俺は右手に、バチバチっと閃光をまき散らす大きな雷の球を発生させた。


 これは四大属性の『水魔法』と『風魔法』の合わせ技。

 両方の魔法を極め、さらに調整する能力を以て初めて出来る『複合魔法』だ。


 魔法が発達していた異世界でも、出来る者は数える程しかいなかった。

 賢者クラスならではの魔法と言っていいだろう。



「なんだそれ……!」


 さすがに焦る表情を見せる久遠を見つめ、俺は言い放った。

 人生で一度は言いたい中二病テンプレセリフ、第三位ぐらい!


「頼むから避けてくれよ」


「──!」


「『サンダーボルト』!」


 あふれんばかりのエネルギーを持った雷の球を、久遠(のちょっと右)に向け、一気に放つ……!

 さらに、左手人差し指と中指を広げ、間に目がくるよう添えれば、構えは完璧だ。


 ドゴオオォォ!


 俺の放った雷球を追うよう閃光が撒き散らされ、一筋のまばゆい道ができる。

 一閃となった『サンダーボルト』は久遠の横を通り抜け、壁に突き刺さった。


「うそでしょ……」


 魔法の衝撃で、ひかりが耐久性を誇ると言っていた銀の壁がくだける。


「賢人君……まじかよ」


「お、お……」


 俺つええ!

 大魔法の反動が来るかとも思ったが、なんとなく感覚で魔力のバリアを張っていたらしい。

 

「降参するか? 久遠」


「これはちょっと敵いそうにないかな。……でも」


「?」


一矢いっしむくいるぐらいはしてみたいね」


 久遠は姿勢を落とし、ニッと笑った。

 手合わせは続行ってか!


「──はッ!」


「!」


 速い!

 姿勢を落とした久遠が、右・左と細かい移動をしながら突っ込んでくる。

 俺も姿勢を落として対処しようとするが──


「!」


 こいつ、さらにやがった……!


 久遠は一瞬の内に、スライディングのような低さで俺のわき下を抜け、背後に回った。

 そしてそのまま、


「タッチ」

 

 俺の背に手を当てる。


 って、これは──!?

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