第32話 久遠の持つ異能

第32話~第35話を少し改稿して話を分けた為、更新日時が前後しております。内容には変わりありませんので、気にせずお読み頂けると幸いです。

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 久遠くおんの細かくキレた動きに翻弄され、俺は背後を取られる。

 そうして久遠は、そっと俺の背に手を当てた。

 

「タッチ」

 

「──!」

 

 なんだこれ!

 体の中から、何か湧き上がってくるようなものを感じる!?

 

「さっきの、もう一度撃ってみてよ」


「!?」


 久遠がそう言うと、使魔法が手に宿る。

 先程放ったものと同じ『サンダーボルト』だ。


 いや、さっきより威力が強い!?


「くっ……!」


 俺は咄嗟とっさに、誰にも当たらないよう右手を前に向けて放った。

 今回は中二っぽいポーズをする余裕もなく、左手で右腕を抑える。


 ──ドガアアァァ!

 

「わお」


「なんだ、この威力……」


 さっきよりも明らかに破壊力のある『サンダーボルト』に自分でも驚いてしまう。

 先程でさえくだけた壁が、今回は半径三メートルほどの円状が粉々になった。


「本当にすごいな。それだけ見れれば満足だよ。これはいさぎよく降参かな」


「何をしたんだ? 久遠くおん


「僕の異能だよ」


 久遠は両手を広げて降参の意を示したので、俺も素直に話を聞く。


 久遠皇輝こうき、彼の異能は『異能強化』だと言う。

 たった今、俺の魔法が強化されたように、他人の力を強化できる異能みたいだ。


 また、俺の『身体強化』のように身体能力を向上させることもでき、あのサッカーの時の異様なシュート力や技術はそこからくるという。


 そう言われると今の手合わせでの体さばき、パンチ力なんかも納得できる。


「ちなみに君がシュートを決めた時、何か違和感を感じなかった?」


「あ! そういえば」


 サッカーの二対二で久遠からパスが回ってきた時、俺は勝手に『身体強化』が引き出されたような感覚があり、超気持ち良くシュートを決めた。

 中村君には裏で文句を言われたけど。


「あれも僕の異能だよ」


「なるほど……そういうことだったのか」


 あの時の感覚は、久遠の異能によるものらしい。

 たしかにあの湧き上がるような感覚は、さっきの感覚ととてもよく似ている。


「ま、とにかくそういうことだからさ」


「ん?」


 そうして簡単なネタばらしを終えた久遠は、ひかりの方を指差す。

 イケメンさは崩さないままではあるが、どこかニヤニヤとした顔だ。


「僕が降参したってことは君の勝ちだね。てことで、後はよろしくやってよ」


「後は……って、はああ!?」


 久遠と戦うのに夢中ですっかり忘れてた!

 こいつ、ここで「告白」の件を掘り返す気かよ!?


「ほらほら」


「あ、おいっ!」


 ニヤニヤする久遠に背中を押され、ひかりの前までもっていかれる。


 ひかりも動くことなくその場に留まり、俺たちは素直にご対面。

 どうしよう、急に心臓がバクバク鳴ってきた!


「あの……ひかり、さん?」


「……」


 俺が目の前まで来た今の状況に、うつむきながら若干赤面しているひかり。

 ひかりも、なんか告白されるそれっぽい雰囲気出すのやめてくれー!


「え、えと、ひかり……」


「うん……」


 チラっと視界に入るひかりは、どんどんと顔を赤くしていくのが分かる。

 これは……確実にされている表情だ。

 

 その表情が、俺をより一層恥ずかしがらせる。

 何か、何か言い逃れできる手段はないか。

 

 ……そうだ!

 久遠が近くにいるから言えないってことにすれば──


「おいおい久遠、お前が近くに居たら言えね……って遠!?」


 助け舟を求めるよう後ろを振り返れば、すでに久遠は背後にいない。

 

 身体能力を向上させて、さっさと階段付近まで遠ざかっていたみたいだ。

 おまけに、ルーム入口の隙間から親指のグッドサインだけを出しており、めちゃくちゃ空気を読んでる風にしている。


 ひかり、久遠……。

 お前たち、頼むからそういう雰囲気を作ろうとするのやめてくれないか。


「……」


 退路は完全に断たれた。

 一体どうすればいいんだ!?

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