第33話 ひかりへの告白……?

 どうしよう、空気感がもう告白のそれになってしまってるってー!


 「……すー、はー」


 ならば一旦、深呼吸をして冷静に考えよう。

 まず最も重要であろう「俺はひかりを好きなのか?」という事について。


 うーん……ひかりは、たしかに初恋の人だし幼馴染でもある。


 だけど、あの頃みたいに想っているかと言われると、勢いよく首を縦に振ることは出来ない。

 もちろん「付き合いたいか」と言われれば、首がちぎれるまでのヘッドバンキングで肯定するけど。


 でもやっぱり……そうだな。

 いい加減な気持ちで告白するのは失礼だし、これ以上変な思わせぶりをさせるのもよくない。


 ここはきっぱりと本心を伝えよう。


「ひかり、あのさ……」


「違うんでしょ?」


「へ?」


 ようやく決心してひかりと再度目を合わせると、ひかりはニコっと笑っていた。

 そこに今までの空気感はなく、普段通りのひかりに見える。


「話したい事って、告白じゃないんでしょ? って言ったの」


「! うん、実はそうなんだ」


「もう。わたしが本気でそう考えてるって思った? まったくこの思春期野郎め」


「ええっ! 違うって分かっててそんな態度取ってたのか?」


「当たり前じゃない」


 腕を組みながら、上目遣いでそう伝えてくるひかり。


 これは完全にやられた。

 ひかりもどうやら、雰囲気にノッていただけのようだ。

 

「……期待、しなくはなかったけど」


「え、なんだって?」


「な、なんでもないっ!」


「?」


 ボソっとつぶやいたひかりの言葉は聞き取れなかった。

 あと何故か、ぷくっと頬をふくらませている。


「……ばーか」


「おいおい、いきなりばか呼ばわりはひどいな」


「ふーんだ。ばかはばかでしょ」


「なんなんだ一体……」


 ひかりは口を尖らせながら、その明るい金の横髪を人差し指でくるくるさせている。

 その仕草、可愛すぎるだろ……。


 そうして無事誤解も解き(?)、久遠も再度呼び掛ける。

 そこで俺は、他人に初めて「賢者」の事を話したのだった。


 ちなみに、久遠も告白の件は半分からかっていただけらしい。

 ……まじでこいつら。


 俺の前世である「賢者」の事を話し終えると、二人は少し息を吐いて口を開く。

 生涯全てを話したわけではないが、力や魔法についてなるべく分かりやすく話したつもりだ。


「賢者ねえ……。最初から意味わかんない力を持ってるわけね」


「正直僕も、もっと良い勝負になると思ってたから。一応は納得かな」


 二人は話を素直に信じてくれた。


 ひかりも真実を知ってすっきりしたようで、桜花家にはなんとなく誤魔化しておくとのことだった。


 俺としては桜花家にも話して良いのだけど、話を広げたくないと言われればたしかにそうだ。

 ここはひかりに任せておくことにしよう。


「けど、まだ全ての力を使えるわけじゃない。本気で炎を使おうとしたら多分俺の体が燃えるし、他の魔法に関しても周りへの被害もまだ制御できない」


「それであの力なんだ……」


「僕としては味方で良かったと思うばかりだよ」


「俺は正義のエージェントを裏切る気は無いよ」


 その返事に、二人はにっこりと相づちを打ってくれる。

 そして、改めて久遠が真面目な顔で口を開く。


「これで本当に信頼して、今回の作戦を話せるかな」


「グラエルと、組織の件か?」


「いや、グラエルの件は動向を追ってになる。だから組織の件に関して、かな」


 久遠も凄腕エージェントだ。

 最初から、俺に対してしっかりと信頼を得られてから作戦を話すつもりだったのだろう。


「けどもう一日くれないかな。色々まとめたいことがあるんだ。明日には話せるよう連絡するよ」


「了解」

「分かったわ」


 よし、これで今日の話は終わりかな。

 そうして、自然と床に座っていた姿勢から立つと、ひかりが何かを思い出したかのように口を開いた。


「そうだ賢人、悪魔グラエルの件で一つあるの」


「グラエルの件?」


 なんだろう、久遠の話だと行方は分からないって話だけど。

 首をかしげながらひかりを眺めていると、懐から何やら封筒を取り出した。


「はいこれ、初報酬」


「……え、ええ!? これってまさか!?」


「うん、そのまさかよ。中を見てごらんなさい」


「……」


 ごくり。

 俺は唾を飲んで、分厚い札束をそーっと封筒から出した。


 そこにはなんと、


「ご、五十万ー!?」


「今回はあの悪魔の行方も不明だから、まだ暫定ざんてい的なものよ。それでも“残滓ざんし”に対して払われるものだから、その報酬ね」


「あ、ああ……」


 手に持つ大量の札束。

 今まで過ごしてきた普通高校生には有り余るお金だ。

 

 って、待てよ?


「暫定的ってことは……本討伐をしたらもっと?」


「ふふっ、かもね」


「ほぁー」


 その時点で俺の頭は限界に達し、それ以降はあまり覚えていない。

 後で聞いた話だと、少しの間桜花家で看病されていたそうだ。

 

 こうして、俺はエージェントとして初報酬をもらい、改めて裏社会のすごさを思い知った。

 エージェントとしても、一歩成長出来た気になったのであった。

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