第37話 音葉さんの急接近で周りもざわざわ

物語をより分かりやすくするため、途中からですが章分けを行いました。

第28話以降を『第2章 表と裏、両社会で注目を集め始める陰キャ』とさせて頂きます。

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 音葉さんが「文芸部を復活させたい」と言った事から始まった、新たな青春の一ページ(の予感)。


 今日の朝、俺達は部活動新設に必要な条件、部員五人を揃えて無事に認めてもらえることになった。

 それは良かったのだけど……。


 昼休み。

 

 ざわざわ、ざわざわ。


「……」


 周りがいつもよりざわざわしている。

 加えて、視線もめちゃくちゃに感じる。


 まあ、この光景を見たらそうもなるか。


「あの、音葉さん?」


「どうしたの。早く食べないと時間なくなるよ?」


「うん、そうだね……」


 二年一組、俺たちの教室の一番後ろの席で二人。

 俺は音葉さんとお昼ご飯を食べている。


 もはや秘密裏に会うとかではなく、四限終わりに「一緒に食べましょ」と、ふつーに誘ってきた。


 そんな光景には、


「委員長とあの人、仲良かったの?」

「いや見たことないけど」

「でも朝、一緒に何かしてたよね」

「文芸部を作るみたいな事、言ってなかった?」


 周りも俺たちの話をしているのが聞こえる。

 どう見ても珍しいからな。


「てかあいつ、桜花さんと付き合ってるって」

「やっぱガセ情報だったんだって」

「良かったー、俺たちのひかりちゃんは取られてなかった!」


 良い話題だったり、そうでもなかったり。

 とにかく注目を集めているのは間違いなかった。


 けど、そろそろ音葉さんに気を戻さないと。


「あの音葉さん、本当に良かったの?」


「うん? 別に普通じゃないかな。とご飯を食べるのは」


「ま、まあ」


 妙に「一緒の」というところを強調して言ったように聞こえたけど、そういうことらしい。

 音葉さんが良いのなら良いんだけど。


 それにしても、“一緒の部員”かあ。

 とても良い響きだ。


 なんだか嬉しいな。

 今まで特に打ち込めるものもなかったから、部活動が始まるって考えるとワクワクする。


「そういえば文芸部って何をするつもりなの?」


「うーんと、具体的には考えてなかったけど。とりあえず、これかな」


 音葉さんは筆を滑らせるジェスチャーをした。

 彼女の裏の顔であるオタクの、同人マンガ制作の事だろう。


「方針や活動内容を決めるのも含めて、今日の放課後にまた集まろうね」


「分かったよ、さん」


「もう、如月君には名前で呼んで欲しいのだけど」


「あはは、ごめんごめん」


 久遠と中村君は今日は忙しいとのことだったが、ひかりは来てくれると言っていた。


 ということは、俺と音葉さんとひかり……あれ、もしかしてこれまずいか?

 前に屋上で、音葉さんはひかりに謎の宣戦布告をしていたし。


 仲悪い……とはちょっと違いそうだけど。

 いや、これからは同じ部員なんだ、きっと大丈夫だろう。


 そんな思いを持ちつつ、昼休みは音葉さんと一緒に過ごした。





 放課後。


 教室を出て、早速部室に向かって廊下を歩く。

 歩くんだけど……状況がちょっと特殊だ。


「ここを真っ直ぐ行って、あそこの部屋だよ、桜花おうかさん」


「へー、こんなところに部室があったのね」


「部室って言うよりは、今は使われていないただの部屋なんだけどね」


 両隣から聞こえる可愛い声と、美しい声。

 右隣にはひかり、左隣には音葉さんだ。


 ギャル系学園のアイドルと、清楚系委員長。

 まさに「両手に花」というやつだ。


 そうなれば当然、注目も浴びる。


「おい、なんだよあいつ」

「てかあれ、桜花さんじゃないか」

「くそっ、誰なんだよあの根暗ねくら!」


「……」


 周りの声には耳を傾けない様に意識しても、陰キャ特有の癖でどうしても聞いてしまう。


 教室からここに来るまでも、どれだけ視線を向けられたことか。


「ちょっと聞いてんの? 賢人」

「大丈夫? 如月君」


「うわっ!」


 そうして周りに気を撮られていると、両隣のお花が急に前に入って来る。


「き、聞いてるよ。部室の事だよね」


「ふーん、賢人も知ってたんだ」


「!」


 って、しまった!

 これじゃ俺が文芸部の部室に出入りしてたことがバレる!


「その辺、詳しく聞かせてもらえるかしら」


「こ、今度な。あはは……」


「ったく」


 音葉さんもいることだし、ひかりはそれほどしつこくは聞いてこない。

 その内、二人っきりになったタイミングで鬼のように問われそうだけど。

 

「って、音葉さん? ボーっとしてどうかした?」


「あ! ううん! なんでもないの!」


「そう?」


「うん! 本当に、大丈夫だから!」


 そう言うと、音葉さんはぴゅーっと先に部室の方へ歩いて行ってしまった。


「あら、どうしたのかしら委員長」


「さあ……」


 前、屋上で唐突にひかりに「負けません」と謎の宣戦布告した時もそうだった。

 音葉さん、何かあると走っていく癖があるよな。


 何か抱え込んでいるのだろうか。

 俺とひかりの様子をじーっと眺めてたように見えたけど。


 近いうちに、そっと聞いてみるとしようか。


 そんなこんながありつつも、俺たちの記念すべき部活動一日目を始めるのであった。

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