第36話 部活を新設って、めちゃくちゃ青春っぽい!

 「私、文芸部を復活させたいの!」


 音葉さんは両手を胸の前で包んで伝えてきた。


「文芸部……」


 文芸部といえば、何年か前に廃部となってしまった部活。

 それを知ってるのは、俺と音葉さんが秘密裏に会っているのが、文芸部の部室だからだ。


 部活動か……それって何だか、めちゃくちゃ青春っぽい!


 運動部の大会などはエージェント関連でいけない可能性があるけど、文芸部なら問題ない。

 それも音葉さんと一緒となれば、言う事なし!


 ならば答えは一つ。


「一緒に文芸部を復活させよう!」

「如月君……! ありがとう!」

「うわっ!」


 音葉さんはテンションが上がって、ガバっと俺の首元に抱きつ……かなかった。


「ご、ごめんなさい……」

「だ、大丈夫……」


 放課後とはいえ、ここが廊下ということもあってギリギリで我に返ったみたいだ。

 この前の甘々な母性といい、最近なんだか音葉さんの距離感が急に近くなったような……?


「じゃあ、一緒に職員室まで来てくれる?」

「う、うん」


 あれ、意識すると急にドキドキしてきたぞ。

 ひかりへの告白(未遂)もそうだし、最近は心臓に悪い事ばかり起きるな。


 そうして胸を抑えながらも、職員室に向かった。





 職員室。

 音葉さんが、担任に部活新設のむねを話す。

 

 しかし、


「悪い、二人とも。部活新設には最低でも必要なんだ。書類は用意しておくから、集まったらまた話をしにきてくれ」


「わかりました……」

「ありがとうございます」


 すぐに新設することは出来ず。

 条件を聞かされた後、一緒に職員室を出た。


「どうしよう如月君」


 横で落ち込んだ態度を見せる音葉さん。

 あれだけ意気込んでいたからなあ。


 だが、問題はそこじゃなかったらしい。


「私、部員を頼める人がいない!」

「ええっ?」


 音葉さんはぐっと顔を近づけてくる。

 距離が近くて、さっきのドキドキの波がまた襲ってきた。


「音葉さんはたくさん友達いるんじゃ?」

「友達かあ……。うん、話せる人はそれなりにいるんだけど、部員を頼めるほどってなると……」


 クラスの誰とでも話せる音葉さん。

 でも思い返してみれば、特定の誰かといるとこってあんまり見たことない。


 みんなどこかしら、「優秀な音葉さん」、もしくは「学級委員長」としてしか接していないのかもしれない。


「わかった! 俺も協力してみるから、明日から学校で声を掛けてみよう」

「如月君……! うん!」


 この後は塾だという音葉さんを見送り、明日から部員探しをすることになった。


 だけど俺は忘れていた。

 最近、何かとうまくいっていたが、俺はただのカースト最下位の陰キャだったという事を。





 次の日の朝。


「音葉さん、一人目が来たよ」

「うん」


 二人で朝早くから教室で待ち合わせており、『クラスメイト勧誘作戦』を実行する。

 そして教室一番乗りだった俺たちに続いて、ついにクラスメイトが登校し始めた。


「お、おはよう! なぎささん」

「おはよう。音葉さん」


 自分からはなしかけるも、明らかにいつもより動揺している音葉さん。

 清楚せいそで優秀な彼女らしくない、裏返った声で挨拶をしてしまった。


「こんなところでどうしたの? 如月君と……委員の仕事か何か?」

「えっと、その……」


 音葉さんはもじもじしながら、口を開く。

 しかし、


「そう、実は委員の仕事なんだ~」

「音葉さんは今日も働き者だね。頑張って」

「あ、ありがとう……」


 勧誘に踏み出せず、顔をうつむける音葉さん。

 俺はコソッと彼女に話しかける。


(渚さんとは結構仲良さそうけど、難しかった?)

(そうなんだけど……彼女は陸上部で忙しいし)

(そっか)


 音葉さんの優しい性格。

 良いところなんだけど、それが今は裏目になってしまっているみたい。


(大丈夫、音葉さん。次だよ!)

(う、うん!)


 そうして、もう一度作戦を続行するが、


「きょ、今日も頑張ろうね~」

「はは、サッカー部は入らないかなあ……」


 音葉さんも俺も中々切り出せず。

 音葉さんは踏み込めず、俺はそもそも喋れる人が極端に少ない。

 

 気がつけば、扉の前で挨拶をしていることから『朝のあいさつ係』などと言われることになった。


(私、私委員長なのに情けない……)

(そ、そんなことないよ。音葉さんは優しすぎるんだよ!)


 落ち込みを見せる音葉さんには、本心でフォローを入れておいた。

 だがそこに、救世主はやってくる。


 ガラッ。


「ひかり!」

「賢人? 何やってんのよ、そんなところで」


 登校してきたのはひかり。

 さらに両隣には、


「おっす~。如月君じゃん」

「なになに、朝早くから仕事? 偉いね~」

 

 ひかりの友達の『陽川ようかわさん』と『明日あすさん』だ。


 これは大チャンス!

 ひかりはエージェント関連もあり、部活に入っていない。


 俺がひかりを逃すようじゃ、もう新設は無理だ!

 そしてあわよくば、ひかり伝手つてにギャルの二人も入ってもらって五人になる!


「ひかり、文芸部に入ってくれ!」

「はい?」


 不思議な顔をするひかりと、隣で小さくガッツポーズする音葉さん。

 初めて勧誘できたことで、喜んでいるみたい。


「随分と急ね。てか、文芸部なんてあったっけ?」

「音葉さんと新設するんだ! けどあと三人足りなくて」


 だがそう説明した途端、ひかりは表情を変える。


「へえ……委員長と二人でねえ」

「あれ。ひかり、さん?」


 俺は少し身を引いた。

 なんだ、笑顔なのに目が笑ってない。


「いいわよ。わたしも入るわ」

「本当に!」

「ええ、もちろん。委員長と何をしようとしていたのか、見張ってなきゃいけないし?」

「な、なにか勘違いしてないか?」


 とにもかくにも、これで三人目確保!

 あとは隣のお二人にも……


「けど、この二人は部活入ってるから無理ね」

「え?」


 と思ったが、ひかりは二人の肩に手を置いた。


「そうなんだよ如月君。うちら調理部でさ~」

「ごめんね〜、ひかりの為にも入りたいんだけど」


「そ、そっか。あははー……」


 笑顔を取りつくろいながらも、心の中でツッコむ。

 部活入ってたのかよー!


 と、そんなところに


「面白そうだね。僕にも話を聞かせてよ」

「久遠!」


 ギャル三人の後ろから、茶髪高身長イケメンが姿を見せる。


「良いのか? 例の件とか」

「んー、大丈夫じゃない。それに、毎日部活があるわけじゃないでしょ」


 例の件は、もちろん潜入調査の件の事だ。


「てことで、僕も入れておいてよ」

「久遠……ありがとう!」


 なんとトントン拍子に四人目も確保していく。


「音葉さん!」

「うん、あと一人だよ!」


 けど、俺の交友関係は尽きた。

 これ以上は……


「その紙貸せ、如月」

「中村君!」


 と思っていたのに、さらに中村君が現れた。


「あと一人足りねえんだろ? 俺が入るよ」

「けど中村君は──」

「知らねえのか、運動部と文化部の掛け持ちは別に許されてるぞ」


 そう言いながら、署名の紙を取る中村君。


「そうなの?」

「ああ、俺も去年部活を新設しようと……って俺の話はいい。とりあえずそういうことだ、名前だけになるが良いか?」


 中村君の厚意だが、一応聞いておかなければいけないだろう。

 

「音葉さんは、大丈夫?」

「うん、大丈夫!」


 一件あった二人も、今は大丈夫そう。

 教室で接したりはしないが、今の中村君に恐怖は抱いていないらしい。


 それでも「名前だけ」というのは多分、中村君なりの音葉さんへの配慮だ。


「ありがとう中村君!」


 苦労した部員集め。

 けれどこれで、


「音葉さん……!」

「如月君!」


 新設に必要な部員五人、無事に確保。

 青春の代名詞の一つ、部活動が始動するぞお!

 

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