第2章 表と裏、両社会で注目を集め始める陰キャ

第28話 様々な波乱の幕開け<別視点>

<三人称視点>


 裏商店街、とある地下研究施設にて。

 ここでは、日々持ち込まれるモンスターの採取物、“残滓ざんし”が運び込まれては様々な物に役立てるべく研究がなされている。


 その中で、この日は先日賢人によって倒されかけた悪魔『グラエル』の残滓が運び込まれた。


 グラエルは、中村が自分を貫き動きを封じたことで消え去ったが、現状は行方不明という扱い。


 それでも、モンスターが能力を使った跡、血液、体液などからは十分に残滓を採取出来るため、今回もグラエルの採取には成功していたのだ。


 そしてたった今、その残滓の鑑定結果が出た。

 その結果に研究員は、慌てて上の者に伝える。


「施設長! 今すぐご報告したいことが!」


「どうした、お前ほどの者が取り乱して。らしくないじゃないか」


「それが、今回の悪魔が……!」


 グラエルの残滓を担当していた研究員の一人が、いつになく息を切らして報告してくる。

 この施設のトップである施設長も特に信頼している研究員だったようで、少し疑問を感じた。


「落ち着いて、その手に持つ結果を見せてくれ」


「はっ! こちらです!」


「ふむ、ふむふむ……なああああっ!?」


 施設長の研究室内に響き渡るような声。

 先程「落ち着け」と言っていた男の言葉とは思えない程のリアクションだ。


「施設長、落ち着いてください」


「これを見て落ち着いてられるかっ!!」


「ええええ!?」


「冗談じゃないぞ……」


 施設長は今一度、現時点の研究結果を凝視する。


 全世界のエージェントの界隈では、モンスターの種族や個体ごとに共通のランク分けがされている。

 それは、本体の倒す難易度・希少性・人類への有用性など、様々なものを考慮して認定される。


 ランクはF~Sの六段階だ。

 その中で今回のグラエルは、当施設では久方ぶりに目にする結果となっていた。


「び、Bランクだと……? この結果は本当に合っているのか?」


「間違いありません。我々も疑わしく思えたために何十回も鑑定・研究を重ねましたが、全ての数値からBランクが妥当かと」


「Bランクなど……ここ十年は計測していないランクだぞ」


 大悪魔グラエル、そのランクはBだった。


 これは、十~十数年に一度しか現れないレベル。

 この施設でも、実に十年ぶりの数値であった。


「ふむ……」


 ちなみに、普段出現する多くのモンスターはF・E、高くてもDランクには収まる。

 Cランクでさえ五年に一度現れるかどうか、というレベルだ。


 さらに上では、Aランクは五十~百年に一度。

 Sランクは観測史上数匹という伝説級のモンスターとなる。


 おおやけにはされていないが、歴史の世界的な感染病「天然痘」や「黒死病」などは、複数のAランク、もしくは単体のSランクモンスターの影響であると界隈では伝えられている。


 世界的なパンデミックを起こしてしまう程、A・Sランクは別格なのだ。


 その中で今回の結果は、Aに準ずるBランク。

 AとBには大きなへだたりがあるが、これは緊急事態にも等しい。


「対策が必要だ」


 界隈でも大きな権力を持つ当施設長は、全研究員及び直接雇っているエージェントに指示を出した。







 中村関連の雪解けから数日後の学校、朝。

 賢人たちのクラス、二年一組にて。


 ざわざわ、ざわざわ。

 特に女子生徒がざわつく。


 それもそのはず、


「転校生の久遠くおん皇輝こうきです」


 このクラスに転校生が来たのだ。


 爽やかな短さで、無造作風に整えられた茶髪。

 細マッチョな高身長で、適度なエロスをまとう男らしいスタイル。


「よろしくお願いします」


「「「きゃー!」」」


 そして、極めつけはそのアイドルのような笑顔。


 顔、雰囲気、かもし出すオーラ、全てが「美」であり全てが「イケメン」だったのだ。


 今は一学期の中頃。

 そろそろ中間テストが迫る中での転校は、不自然なタイミングだ。


 しかし女子からすれば、そんなものはイケメンが来ることに比べればどうでもよかった。


「なにあの人~! 超かっこいいんですけど!」

「ねえ、イケメン!」

「もしかして、中村君よりも……?」


 女子の話し声は教室内を埋め尽くす。

 どんどん声が大きくなっていく女子たちのざわつきは、当たり前のように久遠の耳にも届いている。


 だがそれに対してもこのイケメンは、にこっとした眩しい笑顔で対応だ。


「皆さん、歓迎してくれるようで嬉しいです」


「「「きゃー!」」」


 そんな突如として現れたイケメンに、賢人も気圧けおされていた。

 

(なんて余裕、なんて言われ慣れている表情! こ、これが真のイケメンか……!)


 自己紹介からすでにただよってくるカースト最上位のオーラ。

 それを直接感じ、賢人は「関わることはないだろう」という目で見つめる。


「久遠、もう一言何かあれば紹介してもいいんだぞ? 趣味とか何かないのか?」


「そうですねー」


 そんな女子にサービスするよう、担任の『島田先生』が促す。


 久遠の人気にあやかり、さらっと自分の評価を上げようとしている様は、正直バレバレだ。

 それでも今回は「ナイス!」と大多数の女子は一斉に思った。

 

「スポーツだとサッカーは得意です。部活に入る気はありませんが」


 にこっとした表情を崩さず、久遠は蹴るジェスチャーと共に言い放った。


「サッカーだって!」

「超かっこいいじゃん!」

「でもそれって……」


 クラス中の視線がある男に集まる。


「ちっ! 何が入る気はありませんが、だよ」


 今まで、イケメンでは不動の一位だった中村だ。

 今までもてはやされてきた中村からすれば、自分よりかっこいいかもしれない相手、さらにサッカーが得意となれば当然、燃える。


「お前、そこまで言うなら一限のサッカーで俺と勝負しやがれ!」


「ははっ、いいよ」


 どうみてもムキになっている中村と久遠。

 自然な流れで転校早々に勝負が決まった。


(中村君の気持ちもよくわかる。サッカーが得意とまで言われたらなー)


 それを他人事のように見つめる賢人。

 しかし、


「お、ひかりじゃん。やっぱいたんだ」

「げ、このタイミングで話しかけんなよ」


 席に着く中、久遠はひかりに話しかける。

 

「冷たいなー、僕たちの仲じゃん」

「そんなに仲良くねーわ」


 仲良くないとは言いつつ、ひかりも誰がどう見ても笑顔。


(なんだこいつら、知り合いか!?)


 そんな様子に焦りを感じ始めた賢人。

 もちろん、それを放っておく周りじゃない。


「え、あの二人知り合い!?」

「てか付き合ってたり!?」

「ちょー眼福じゃん! より断然!」


 久遠とひかりの話題で持ち切りだ。

 ちなみに“あんなの”とは、もちろん賢人の事。


(こんのやろおお! 何が“ひかり”だ、何がイケメンだ! 断じて許さん!)


 賢人も中村同様、イケメンに対してムキになってしまう。


 そして、


「……」


「?」


(……あれ? 今一瞬、俺の事を見てた?)


 久遠の視線を感じ取った賢人。


 こうして、波乱の幕開けとなった突然の転校生。

 この久遠の存在が、またそれぞれの学校生活を変えることとなる。

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