第27話 雪解けと新たな争い?


 放課後、屋上にて。


「委員長、来てくれてありがとう」


「中村君……」


 音葉さんは俺の腕にそっと手を触れながら、少し隠れ気味に中村君に相対する。

 そんな音葉さんに、中村君はまずは頭を下げる。


「すみませんでした」


 俺の時と同じぐらい、いや気持ち的にはさらに謝罪の意を込めている様に思える。

 それほど迫真の謝罪。

 とてもその場しのぎで振る舞っている様には見えない。


「中村君、私聞いていたの。中村君が悪魔にとりつかれていたってこと」


「……いや、それは関係ない。全部俺がやってしまったことだ。委員長が同じクラスにいてほしくないというのなら、退学、もしくは学校を変えることも考えている」


「そう……」


 中村君は、この強豪サッカー部を目当てにこの学校を選んでいるはず。

 その学校を辞めようというところまで……。


「中村君、あなたはサッカーがあるでしょ」


「そんなもの、俺がやってしまった事に比べれば──」


「いいわ。許します」


「委員長!」


 その返答で、ようやく中村君が顔を上げる。

 音葉さんの言葉には、驚き目を見開いた表情だ。


「いいのか? 俺は委員長に──」


「いいの。私もあまり大事おおごとにはしたくないから。でも、二つ聞いて欲しい事があるの」


「なんでも聞く」


 中村君は、キリッとした目で音葉さんに応じる。


「一つ、この学校の為にもサッカーは続けて」


「えっ」


 音葉さんが言い放ったのは、意外な言葉。


「詳しくはないけど、あなたがサッカーをすごく上手なのは知ってる。18歳以下の日本代表なことも。だからこの学校のためにも、あなたの将来の為にも、サッカーは続けて」


「委員長……」


「あともう一つは、今後二度と悪事をはたらかないこと。如月君にはもちろん、誰に対してもね」


「それは当たり前だ!」


「そう。じゃあ信頼する」


 音葉さんは意外とあっさりというか、条件を突きつけてこの話に決着をつけようとする。

 

 直接音葉さんから聞いたのだけど、あの中二病劇とか言っていたのは、どうやら彼女の機転を利かせた場の収め方だったらしい。


 だから音葉さんも怖い思いをしたはずだ。


 それでもあまり大事にしたくないとは。

 頭の良い彼女だ、何か考えでもあるのだろうか……?


「まてよ、本当にそれだけなのか? それじゃあまりにも──」


「だから、良いって言ってるでしょ」


「委員長……。わかった、ありがとう」


 少しながら、中村君と音葉さんの間に笑顔が戻る。

 彼らもすぐにとはいかないが、また普通に話せるようになるといいな。


 自分の罰の軽さに戸惑っているが、これ以上聞くのも野暮だと思ったのだろう。

 中村君は、音葉さんの条件を聞いて、一応この話の決着にはなった。


「なあ、如月、委員長」


「なんだよ、中村君」


「本当にごめん。今聞くことじゃないのは分かってる。でも、一つだけ聞いていいか?」


「? いいけど」


 中村君は俺たち二人をじっと見るようにして、言い放った。


「二人っていつから付き合ってんだ?」


「「!?」」


「な、中村君!?」


 おいおい、いきなり何を言い出すかと思えば!

 急に何言ってんだこの陽キャは!


「中村君! あなたって人は!」


 音葉さんも顔を真っ赤にしている。

 それはもう、昼休みの時ぐらいじゃないかってぐらいに。


「あ、違ったか? わりい、なんかもう雰囲気がそれっぽくてよ」


「「……」」


 俺ら、そんな風に見えてるのか?

 確かにチラッと横を見れば、音葉さんは俺の腕に手を添えてるわけだしな。


 けど音葉さんを好きかと言われると……まだ素直に首を縦に振る事は出来ない、気がする。


「あ、隠してるタイプのカップルだったか。それはわるかった」


「って、違うわ!」

「……」


 盛大にツッコミを入れた俺に対して、顔を赤くしてうつむく音葉さん。

 そんなこと言われたら余計に意識してしまうだろ!


 と、そんな時、後方の屋上の扉がバンッ! と勢いよく開く。


「賢人、委員長、今の話本当かしら?」


「ひ、ひかり!? ずっとそこにいたのか!?」


「何よ、悪いの? 中村と委員長の事は心配だったし、一応聞いてただけよ。それより……」


「!」


 ひかりはずんずんと大股でこちらを睨みながら歩いて来る。


「今の話、本当かしら?」


「いや、本当じゃないって!」


「委員長は黙っているみたいだけど?」


 たしかに、このままじゃガチカップル感が出てしまう。

 何故かは分からないが、なんとなくひかりの前じゃ気が引ける。


「お、音葉さんっ。……音葉さん?」


「……」


 だが、俺に寄せている音葉さんの手をさりげなくほどこうとするも、音葉さんは俺のすそを掴んで離さない。


「随分仲良さげね」


「い、いや、だからこれは……」


「……」


 やっべ。

 いや、やばくはないんだけど、なんとなくすごい背徳感。

 

 と、そんな状況に困っていると、黙っていた音葉さんがようやく口を開いた。


「桜花さん。負けませんよ」


「……委員長?」


「負けませんからー!」


「ちょ、ちょっと!」


 えー……。

 音葉さんは、ひかりに意味深な宣戦布告を残し、屋上を走って去って行った。


 今日の音葉さんはいつもと違っていたというか……正直だった。

 というか、今日の音葉さんが本来の彼女だったりするのだろうか。


 まあ、とにもかくにも


「「「……」」」


 ああなれば、取り残された俺たち三人は微妙な空気になるわけで。


「なるほどね。まあいいわ、それより賢人」


「……はい」


 じっと横目で見てくるひかりに向き直る。


「話、してくれるんでしょうね?」


「一体、何の話でしょうか……」


「も・ち・ろ・ん、昨日の事についてよ?」


「……!」


 目が全く笑っていないひかりの顔が近づいてきて、思わず後方に身じろぐ。

 その顔は、絶対に俺と音葉さんの事を聞く気満々じゃないか!


「ぷっ、あっはっはっは!」


 と思ったら中村君が大笑いし始めた。


「なんだよ如月。お前おもしれー奴じゃねえかよ」


「バ、バカにしてる?」


「してねーよ、一切な。ま、とりあえず俺は行くわ。委員長に続けてくれって言われたし、俺は一先ずに専念するよ」


 中村君は、そう言いながら蹴るジェスチャーをする。

 そうか、サッカーに専念するんだな。


「あと、ひかりちゃ──」


「……」


 中村君がひかりに話しかけようとした瞬間、ひかりはぷいっと顔を背ける。


「ははっ、俺はもうしばらくは邪魔しねえよ。頑張ってな、と」


「……あんたも頑張んなさいよ、サッカー」


「ん、なんだって?」


「うっさい! 早く行け!」


「おう」


 そうして、中村君も去って行った。

 印象は悪かったが、改めて見るとやっぱりイケメンなんだよなあ、中村君。


「さーて、これでとお話し出来るわね、賢人」


「お、お手柔らかにお願いします……」


 この後、予想通りみっちりと音葉さんとの関係について聞かれたのだった。





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ここまで作品をお読み頂きありがとうございます!

これにて『第1章 最強の力に目覚めた陰キャ』は完結となります。

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物語は続きますので、今後ともよろしくお願い致します!

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