第6話 うわの空、からのやらかしの予感

 ひかりとの話が終わった後で、若干上の空のまま購買へ寄り、俺は教室へと戻る。

 まだ夢の中みたいだ。


 そうして、話題の渦中だったのか、俺が教室へと戻ったタイミングで視線やらひそひそ話を感じる。


 ざわざわ、ひそひそ。


「本当に桜花さんが?」

「いや、ないでしょー。釣り合ってなさすぎ」


「まじそれな。全然冴えないじゃん」

「てか、この学園にあんなのいた?」


「……」


 昼休みは他クラスの生徒も入り混じることもあって、ますます話が膨らんでいるようだ。


 それもそうか。

 普段、ひかりは話しかけられることはたくさんあっても、基本的に自分から話しかける事なんてギャルの友達ぐらいにしかないもんな。


 そんな学園最上位カーストのひかりには、妬みや嫉妬なんかがこびりつく。

 やれ自分の好きな男がひかりのことを好きだの、そういう感じの事でだ。


 そんな高嶺たかねの花が、カースト最下層の俺に好意的に話しかけるなんて、まあ事件だな。


 けど、ひかりはさっき言ってたように、こんなくだらないゴジップなんて全く気にしないんだろうな。

 ならば俺も彼女を真似して、全く気にしないようにしよう。

 

 俺はひかりに習ったんだ、俺も好きなように生きてやる!


「てか、あれじゃん? 罰ゲームで告るやつ」

「あー、あるわ~。桜花さん、性格悪そうだもん」


「……」


 いや、やっぱちょっと傷つく。

 ひかりはそんな人だと思ってないけど、やっぱり引っ掛かる。 


 そうすぐにひかりみたいなメンタルにはならないか……。


 そうして、なるべく周りから目を逸らしてこの日を過ごした。







 テンテンテレレン。


「んぁ?」


 枕元に置いていた電話が鳴っていることに気づき、しょぼしょぼな目を開ける。

 時計は、深夜の一時五十五分を指している。


 こんな時間に誰だよ……ってひかりか。

 ああそういえば、あのお昼の時に連絡先交換したんだったな。


 クラスのグループにいないからって、直接聞いてきたんだ。

 うるせえ、こっちは誘われてねえんだよ、余計なお世話だ。


 その時の事と、寝起きともあって、若干のイラつきを隠しながら応答する。


「もしもし」


「あのさあ」


「……はい」


 だがそんな俺のイラつきは、ひかりの声を聞いた瞬間に引っ込んだ。

 あれ、なんか怒ってる?


「二時集合なんだけど、まさか遅刻ってことはないよね」


「え……?」


 二時……集合?

 あれ、そういえばそんな話をどこかで聞いた覚えが……ああっ!


 しまったあああ!

 お昼の時間、ひかりの横顔に見とれていてうわの空だった時の話だあああ!


 ひかりに、早速エージェントの仕事を教えるからって、話を持ち掛けられていたんだった……。


「ちなみに今、どこ?」


 まずいまずいまずい!

 完全に怒ってる!


 だが焦りに応じるよう、俺はとんでもないことを口走っていた。


「すまない。あと三分で着く」


「あらそう。わたしの早とちりだったみたい。じゃあ待ってるわ」


 そう言うと、プツッと通話は切れる。


「……」


 冷静になり、今の自分の一言を今一度考える。

 場所は近くの工場跡。

 少なく見積もっても十五分はかかる。

 

 そうなると……うん、まずった。


 これ、完全に遅刻常習犯のキメ台詞言っちゃってますねえ!


 くっ、このままでは俺の信頼がゼロになる!


「……ふう」


 仕方ない、本気を出すか。

 ベッドから体を起こした俺は、静かに決意した。

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