第39話 最近学校に来てなかったイケメンの行方
<三人称視点>
「──むぐっ!」
周りは暗闇で見えない中、
「しー、静かに」
「!」
(ひかりのお兄さん……!)
久遠を背後から引っ張ったのは、ひかりの兄である『
今回の作戦で協力体制をとる一人で、どうやら味方だったようだ。
「ここら辺はもうすぐ巡回が来る。潜入はここまでだ」
「でも! 目の前に──」
「君もわかっているだろ、ここまで単独の潜入は命令違反だ」
「……はい」
「分かったら引き返すぞ」
エージェントとしての腕は久遠の方が上だが、月影は潜入の最適な異能を持つ。
ここは素直に引き下がる久遠だった。
★
<賢人視点>
青春の代名詞の一つ「部活動」が始まって数日。
朝、俺はひかりと一緒に登校していた。
「それにしても久遠の奴、最近学校来ねえなあー」
「まあ仕方ないんじゃない。元々
「それはそうだけどさー」
そういう目的とは、もちろんエージェントの事。
久遠は凄腕エージェントで、裏側の人間からも頼りにされているのだろう。
それは分かってる。
けどあいつも、表はただの高校生。
青春を送れる年なんだよな。
一体、何が久遠をそこまでさせるのだろう。
もっとこの青春という年代を楽しめばいいのに。
最近まで全く青春を送れてなかった俺が言うのも、なんだけど。
とにかく、もっと肩の力を抜けば良いのになあ。
なーんて他の人に言ったら「エージェントを舐めるな」って言われそうだけど。
「でもまあその内、──!」
だが話の途中で、スマホが鳴る。
いつもの通話のバイブレーションとは違った、どこか不規則なバイブレーション。
これは……!
「賢人」
「うん」
ひかりのスマホも鳴っていたようなので、周囲を確認して同時に出る。
初めてだが、これは以前に一度聞かされた“エージェント関連の特殊な通信”だ。
「二人とも聞こえているな、月影だ」
相手はひかりのお兄さん。
「今すぐ来れるだろうか。場所は~」
場所を聞き、ひかりと共に学校と反対方面に走り出す。
人目のない路地裏に入ってから、『身体強化』を使ってひかりをお姫様だっこで運んだ。
「違う! あっちあっち!」
「なにっ!」
エージェントとしてはまだまだ甘い部分が出てしまったが……。
ひかりのお兄さんに指示された場所に着き、
そうして侵入する場所は、白色の地下施設。
ほんと、そこら中にエージェントの施設ってあるんだなあ。
「来てくれたね。……随分と早かったみたいだけど」
「き、鍛えてますから! この通り!」
月影さんの的確な指摘には、腕こぶしを見せて誤魔化す。
「そうか。早い分にはありがたいんだけどね」
あぶねえ……。
『身体強化』をフルに使い過ぎたのがバレそうだった。
信頼されてるのなら、そろそろひかりと久遠以外にも話しても良いのかもな。
まあ、その辺は追々か。
「じゃあこっちに」
月影さんに案内されるがまま、一面白色の通路を歩いていく。
そのまますぐに、一つの部屋に入った。
最先端らしく、自動で静音の扉がシュッと開く。
そこには、
「お、久しぶり二人とも」
「久遠!?」
「あんた!」
全身スウェットというラフな格好をした久遠がいた。
なんでこれでちゃんとかっこいいんだよ……顔か、顔だな。
「ったく、学校はどうしたんだよー」
「ははっ、ごめんごめん」
軽く冗談気味に突っ込んでみる。
だけど、思ったより理由は深かったらしい。
「彼は
「え」
「あんた、何したの?」
月影さんの突然の言葉にびっくりしてしまう。
「なんだそれ、お前何したんだよ」
「……ちょっと、一人で入り込みすぎちゃってね。潜入対象ではない所まで突っ走っちゃったんだよね。それで月影さんに助けてもらったんだ」
久遠は少し
「ほんの軽い命令違反だから、そこまで
エージェントは、その多くが異能という大きな力を持つ。
反逆の可能性は十分過ぎるほどに考慮しなければならない。
だから、命令違反や命令に則さない行動は慎重に対処される、とひかりに聞いたことがある。
「……ま、全然大丈夫だからさ。気にしないでくれよ」
「!」
久遠は笑った。
けど、その表情に確かな違和感を感じる。
「今、何か隠したか?」
「え?」
久遠の愛想笑い。
それが何だか、いつもと違って見えた。
「あんたねえ、今の愛想笑いはさすがに賢人でも気づくと思うわよ」
「ひかりまで……一体何を」
「
「!」
ひかりと久遠の間で何か知らない事が話されている。
あの件って何のことだ?
「自分から話すまで黙っていたけど、今回の事も関わっているんじゃないの?」
「……」
ひかりの言葉に、若干の余裕を持たせていた久遠も黙る。
いつものクールさがなくなった、どこか人間らしい姿だ。
「……そうだね、話すよ」
久遠がしてくれた話。
それは、俺が不思議に思っていた、久遠をここまで動かす理由に関するものだった。
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