第39話 最近学校に来てなかったイケメンの行方

<三人称視点>


 「──むぐっ!」


 周りは暗闇で見えない中、久遠くおんは背後から口元を抑えられて引っ張られる。


「しー、静かに」


「!」


(ひかりのお兄さん……!)


 久遠を背後から引っ張ったのは、ひかりの兄である『桜花おうか月影つきかげ』。

 今回の作戦で協力体制をとる一人で、どうやら味方だったようだ。


「ここら辺はもうすぐ巡回が来る。潜入はここまでだ」


「でも! 目の前に──」


「君もわかっているだろ、ここまで単独の潜入は命令違反だ」


「……はい」


「分かったら引き返すぞ」


 エージェントとしての腕は久遠の方が上だが、月影は潜入の最適な異能を持つ。

 ここは素直に引き下がる久遠だった。







<賢人視点>


 青春の代名詞の一つ「部活動」が始まって数日。

 朝、俺はひかりと一緒に登校していた。


「それにしても久遠の奴、最近学校来ねえなあー」


「まあ仕方ないんじゃない。元々で転校してきてるんだし」


「それはそうだけどさー」


 そういう目的とは、もちろんエージェントの事。

 久遠は凄腕エージェントで、裏側の人間からも頼りにされているのだろう。


 それは分かってる。

 けどあいつも、表はただの高校生。

 青春を送れる年なんだよな。


 一体、何が久遠をそこまでさせるのだろう。


 もっとこの青春という年代を楽しめばいいのに。

 最近まで全く青春を送れてなかった俺が言うのも、なんだけど。


 とにかく、もっと肩の力を抜けば良いのになあ。

 なーんて他の人に言ったら「エージェントを舐めるな」って言われそうだけど。


「でもまあその内、──!」


 だが話の途中で、スマホが鳴る。

 いつもの通話のバイブレーションとは違った、どこか不規則なバイブレーション。


 これは……!


「賢人」

「うん」


 ひかりのスマホも鳴っていたようなので、周囲を確認して同時に出る。

 初めてだが、これは以前に一度聞かされた“エージェント関連の特殊な通信”だ。


「二人とも聞こえているな、月影だ」


 相手はひかりのお兄さん。


「今すぐ来れるだろうか。場所は~」


 場所を聞き、ひかりと共に学校と反対方面に走り出す。

 人目のない路地裏に入ってから、『身体強化』を使ってひかりをお姫様だっこで運んだ。


「違う! あっちあっち!」


「なにっ!」


 エージェントとしてはまだまだ甘い部分が出てしまったが……。





 ひかりのお兄さんに指示された場所に着き、ひとけを行う。


 そうして侵入する場所は、白色の地下施設。

 ほんと、そこら中にエージェントの施設ってあるんだなあ。


「来てくれたね。……随分と早かったみたいだけど」


「き、鍛えてますから! この通り!」


 月影さんの的確な指摘には、腕こぶしを見せて誤魔化す。


「そうか。早い分にはありがたいんだけどね」


 あぶねえ……。

 『身体強化』をフルに使い過ぎたのがバレそうだった。


 信頼されてるのなら、そろそろひかりと久遠以外にも話しても良いのかもな。

 まあ、その辺は追々か。


「じゃあこっちに」


 月影さんに案内されるがまま、一面白色の通路を歩いていく。

 そのまますぐに、一つの部屋に入った。


 最先端らしく、自動で静音の扉がシュッと開く。

 そこには、


「お、久しぶり二人とも」


「久遠!?」

「あんた!」


 全身スウェットというラフな格好をした久遠がいた。

 なんでこれでちゃんとかっこいいんだよ……顔か、顔だな。


「ったく、学校はどうしたんだよー」


「ははっ、ごめんごめん」


 軽く冗談気味に突っ込んでみる。

 だけど、思ったより理由は深かったらしい。


「彼は謹慎きんしん中だよ。命令違反を犯したからね」


「え」

「あんた、何したの?」


 月影さんの突然の言葉にびっくりしてしまう。


「なんだそれ、お前何したんだよ」


「……ちょっと、一人で入り込みすぎちゃってね。潜入対象ではない所まで突っ走っちゃったんだよね。それで月影さんに助けてもらったんだ」


 久遠は少しうつむきながら一応の説明をしてくれる。


「ほんの軽い命令違反だから、そこまで大事おおごとにはなってないんだどけね。万が一の為の謹慎だよ」


 エージェントは、その多くが異能という大きな力を持つ。

 反逆の可能性は十分過ぎるほどに考慮しなければならない。


 だから、命令違反や命令に則さない行動は慎重に対処される、とひかりに聞いたことがある。


「……ま、全然大丈夫だからさ。気にしないでくれよ」


「!」


 久遠は笑った。

 けど、その表情に確かな違和感を感じる。


「今、何か隠したか?」


「え?」


 久遠の愛想笑い。

 それが何だか、いつもと違って見えた。


「あんたねえ、今の愛想笑いはさすがに賢人でも気づくと思うわよ」


「ひかりまで……一体何を」


から、なんでしょ?」


「!」


 ひかりと久遠の間で何か知らない事が話されている。

 あの件って何のことだ?


「自分から話すまで黙っていたけど、今回の事も関わっているんじゃないの?」


「……」


 ひかりの言葉に、若干の余裕を持たせていた久遠も黙る。

 いつものクールさがなくなった、どこか人間らしい姿だ。


「……そうだね、話すよ」


 久遠がしてくれた話。

 それは、俺が不思議に思っていた、久遠をここまで動かす理由に関するものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る