第2話 この世界って、ファンタジーなの?

 俺の前世は、異世界最強の大魔法使い、賢者。

 それも、ラノベでよく見る剣と魔法の世界に、魔王まで住まう超常的な世界においても、最強の名をほしいままにした大魔法使いだ。


 しかし、そんな賢者も寿命に抗うことは出来ずに死を迎える。

 ただ一つ、普通の人間と違った点は、記憶と力を保持したまま転生したこと。


 だから、今の俺は如月賢人には変わりないし、簡単に言えばただ前世の記憶と魔法を受け継いだ男子高校生というわけだ。

 今のも、記憶が刻まれた俺の体が勝手に反応して、力を使っただけ。


 そうして魔法を使ったことがトリガーとなり、記憶を完全に蘇らせた、といったところかな。


 だが、そんな事情を目の前で倒れているひかりは知るはずもなく、


「……えっ?」


 俺が右手を前に構えたまま、ひかりの驚きを隠せない声だけが辺りに響く。

 一息ついて状況を理解しよう。


「ふう……」


 うん、まとまった。

 つまり俺は、やらかしたのだ。

 

 いや、わかるよ?

 焦ってたし! ひかりのこと助けたかったし!

 けど、もうちょっとやりようはあったかもしれない、そう思えてならない。


 今のはさすがにやりすぎた。


「……賢人」


「は、はいっ!?」


 すでに恐怖からは立ち直ったのか、すっと立ち上がったひかりは、俺から目を離さず一歩ずつ近づいて来る。


「今の、何?」


「いや~、なんでしょうねえ。自分でもよく分からないっていうか、あはは……」


 やべえ、どう誤魔化そう。


 目の前で、もろに炎ぶっ放したもんなー。

 の魔法とはいえ、明らかにひかりの炎とは勢いが違った。


「怪しいわね。とにかく白状──」


「待ってよ~!」

「やだよーだ!」


「「!」」


 ひかりが何かを言いかけたところで、後ろの方から声が聞こえる。

 振り返って見た先には、小学生ぐらいの子たち。


 それに、公園の外の道にも急に人がうろつき始めた。

 妙だ、さっきまでは人一人いなかったのに。


「人けが切れたわね」


「人、よけ?」


 ひかりはそんなことを呟きながら、少し考える素振りを見せる。

 ややあって、俺の顔を下から覗いた後に歩き出した。


「付いて来て」


「へ?」


「詳しいことはわたしの家で聞くから。あんたも聞きたいことあるんじゃないの」


「え、あ、おう……」


 そうだよな、言い逃れ出来ないよな……。

 

 って、ん!?

 今、ひかりの家って言ったか!? 

 あの学園アイドルの家に、二人っきりで!?


 色々と整理したり聞きたいことはあるが、それも全て吹っ飛んで俺は歓喜した。


 この機会を生んでくれた、前世の賢者様に感謝を込めて。

 ありがとうございます。



 

 

「うお……」


 久しぶりにひかりの家の前まで来て、改めてその大きさに見とれてしまう。

 近所とはいっても、俺の家から普段通う学校とは逆方向なので、最近は見ることもなくなっていた。

 

 敷地内外を分ける大きな引き戸を開け、等間隔に置かれた石の道を抜けた中には、まさに「和」という雰囲気の屋敷のような家。


 幼馴染といっても、入るのは初めてだな。


 ひかりに案内されるがままに付いて行き、二階の寝室らしき部屋の前でひかりはこちらを振り向いた。

 

「中で着替えるから一旦そこで待ってて。覗いたらぶっ飛ばす」


「お、おう……」


 少し時間が経ち、


「いいわよ、入って来て」


 中から声がしたので部屋へと入る。


「お、お邪魔しま~す……」


「ふふっ、何よ。別に楽にしていいわよ」


 変に緊張して、肩を上げながらそろりそろりと入ると、ひかりが微笑混じりに言ってくる。

 

 そんなことは言ってもだな。

 ただでさえ、カースト最上位の天上人となってしまったひかりとは、最近ろくに話すらしていなかった。


 それでいきなり部屋はハードルが高すぎるんだよ!


 ってそれにしても、


「可愛らしい部屋……」


「なっ! バカにしてんの!」


「あ、いや、ご、ごめん!」


 つい口に出てしまっていた。

 バカにしているとかではなくて、純粋にそう思ったからだ。


 一般的な部屋よりかなり広く、こちらも全体的には「和」を感じさせる部屋。

 それでも、所々に置いてある小物やピンクのベッドなんかはとても可愛い。


 そんな思いから、ぽろっとこぼれてしまった言葉だった。


「そんなに興味あんの」


「ご、ごめん」


「……まあ、別にいいけど」


 じっくり見すぎたか?


 それにダメだ。

 緊張しすぎて、もはや謝るだけの機械と化してしまっている。

 幼馴染とも話せないのか、この陰キャめ!


「まあいいわ。とにかく話を始めましょう。それにしてもびっくりよ。まさかあなたも『エージェント』だったとはね」 

 

「え、えーじぇん?」


「……? 何を言ってるの? だってさっきのでしょ?」


「い、異能?」


 魔法じゃなくて?

 それって、解釈違いじゃなければ『人間の特別な能力』とかそういうやつ?


「え、違うの?」


「ごめん、何の話をしてるんだかさっぱり……」


「なっ……」


 絶句したひかり。


「ねえ、もしかしてだけど──」


 そうして口を開いたひかりの話は、驚くべきものだった。

 俺に合わせて一から説明をしてくれて、ようやく真実を知ったのだ。


 この世界は、実はファンタジーだということに。

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