第3話 魔物にUMA、宇宙人……あれ全部真実らしいです

 ひかりの話を聞いて、俺はようやくこの世界の真実を知った。


 今まで全く知らなかった俺たちのこの世界。

 剣と魔法とはいかずとも、実はファンタジーな世界だったのだ。


 その証拠に、先程ひかりを襲っていたのは、正真正銘のゴブリン。

 この世界には、ゴブリンやスライムなどのラノベ世界のような「魔物」をはじめ、実は動物以外にもありとあらゆる生物が住まうというのだ。


 だが、どうして俺をはじめとした周りの奴らは知らなかったのか。

 それは、ひかりが言っていた『エージェント』が、人間にあだなすものを裏で消しているというのだ。


「で、その時に異能を使うと」


「そういうことよ」


 異能とは、人ならざる力。

 エージェントになる多くの者は、異能の力を目覚めさせるために儀式を行い、自分の中に眠る力を呼び起こすそうだ。


 しかし異能は、通常一人につき一つ。

 ひかりの場合は、さっき見たような『火を出す異能』。


 対して、俺の場合は異能ではなく魔法。

 もちろん炎だけでなく、氷や雷、風など数々の超常現象を起こせる。


 そこで気づいた。

 俺チートすぎじゃん、と。


 異能は、言ってしまえば魔法と似たようなものだが、一人につき一つ。

 であれば、それは一種類の魔法しか使えないという事とほぼ同じ。


 対して俺は、使える魔法の種類はいざ知らず。

 ぶっちゃけ体の限界が来るまでは、やろうと思えばなんでも出来る。

 

「まさか、賢人も炎を出す異能だったなんてね」


「あ、ああ……そっすね」


 でも、中には儀式を行わずに異能に目覚める者もたまにいるらしく、俺がその一人だとひかりは勝手に納得したので、とりあえずそういうことにしておいた。

 前世が賢者とか言っても、どうせバカにされるだけだろうし。

 

 そして、エージェントに必須なものはもう一つ。


 公園でひかりが言っていた『人除け』だ。

 それは文字通り、不思議な力でその場に人が寄り付かないようにするもの。


 対象を密かに消さなければならないエージェントにとって、人除けは必須であり、日常的な道具にふんして人除けの道具を持っていると言う。


 ちなみに、ひかりは手鏡。

 手鏡を地面にぶっ刺すことで、一定時間その場は人除けされるらしい。


 人除けが行われると、その領域内に入れるのは「人除けを阻害出来る者」だけ。


 だけど、俺は人除けされてるにもかかわらず、公園に入ることが出来た。

 それは多分、すでに俺の中で大賢者の力が目覚め始めていて、人除けを無意識に弾いたから、と強引に理解することにした。


 とは言っても、正直まだ信じられない。


 さらには、


「まじ?」


「うん、大まじ。ツチノコやネッシーみたいなUMA(未確認生物)、さっきの魔物なんかも。それらはぜーんぶ、わたし達エージェントが失敗して、公の目に触れてしまった結果よ。あ、宇宙人も普通に地球に来てるし」


「おいおい。そんなの、都市伝説か何かじゃないのか?」


「それは、そういう事にしているの。国によっては、政府や裏の組織が結託けったくしてもみ消しているの。実は作り物でした、、ね」


「じゃあ、都市伝説っていうのは……」


「基本、全部真実と考えていいわよ。この世ならざるものが公の目に触れ、もみ消されても消しきれなかったものが、結果的に都市伝説として語られているのだから」


 なんてこった、とんでもない事を聞いてしまった気分だ。

 まあ、実際に目にしてしまえば信じるしかなくなるわけなのだけど。


「それらは、総じて『モンスター』と言われる。そんなモンスターから、何も知らずに日常を過ごす人々を守るのが、わたしたちエージェントの仕事よ」


 ひかりは言い放った。


 モンスター……人に仇なす存在か。

 と、そこまで聞いてふと、思い当たることがあった。

 

「なあ、ひかりが小学生の時、家が“怪しい”って言われていたのは……」


「あれはやらかしたわね。当時お守りとして持たされていた、エージェント用の数珠じゅずを見られたのがきっかけだわ」


「え、当時からエージェントとして働いているの?」


「ううん。正式なエージェントになったのは去年、高校生になってから。そうではなくても、家柄上危険があるの。ここ、エージェント一家だから」


「そういうことだったんだ……」

 

 じゃあ“怪しい”ってのは、あながち間違いじゃなかったのか。

 だからといって、嫌がらせから彼女を守ったことに後悔はないけど。


「これで、なんとなく分かった?」


「うん。助かったよ」


 改めて考えるとすごいことだな。

 俺たちはそんなファンタジー要素に全く気付かず、今日まで生きてきたわけだ。


 エージェントが頑張ってくれているのもそうだが、話を聞いた今となっては自分の鈍感さに呆れそうになる。


「説明はこれで終わり。その上で、あなたには選択肢が二つあるわ」


「う、うん」


 ひかりが先程以上に真面目な顔をするので、俺も今一度姿勢を正して聞く。


「一つは、今日の事は綺麗さっぱり忘れて、明日からまた日常を過ごすこと。ただしその場合、目覚めた異能は今後一切使ってはダメ。もしそれがモンスター、エージェントのどちらかに見つかれば、ろくなことにはならないわ」


 ひかりは話の中で、エージェントは全員が正義の味方ではないと言っていた。

 多くは人々を守るために戦うが、異能の力を使って悪さをする者もいると。


 エージェントに見つかってもろくなことにならない、というのはこのことを踏まえての優しさの言葉だろう。


「そしてもう一つは、わたしと同じエージェントとして人々を守るか」


 それでも、ひかりは「人々を守る」と言い切った。

 彼女は生粋の善側のエージェントなのだろう。


 正直、迷っている。

 だから、


「一つ聞いてもいい?」


「ええ、なんでも」


 真面目なひかりを前にして、俺は尋ねる。


「ぶっちゃけ、エージェントってもうかるの?」


「……はい?」


 俺の質問に、ひかりは困惑を見せた。

 あれ、そんな変な質問だったかな。


「ふふっ、あっはっはっは!」


「な、なんだよ」


「いやいや。だってそういう時、普通「命の危険は~」とか、そういうこと聞かない? 何を言い出すかと思えばそれって! 唐突過ぎてウケるわ」


「あ」


 たしかに。

 けど、言われるまで本当に思いつかなかった。


 俺は恐怖なんかより、金の心配をしていたのか。

 というより多分、それだけ賢者の魔法を信じているんだな。


 ということで、


「どうなんだ?」


「あっはっはっは! 本当に怖いものなしなのね。なら答えるわ」


 ごくり。

 俺が唾を飲んだのが分かったのか、ひかりはニヤッとした顔を見せた。


「ぶっちゃけ、ちょー儲かる」


「まじ!?」


「まじまじ。今とか特に人材不足だし、政府とか組織からヤバイほど金入ってくるから。ちなみに犯罪でない、れっきとした報酬金よ」


「……ほう」


 そういえば、ひかりんちもかなりの豪邸だしな。

 エージェント一家だから儲かっているのか。


 ならば、決まりだ。

 

「俺はエージェントをやる」


「ふふっ、金で決める人なんて初めてよ」


 こうして俺は、エージェント社会へと足を踏み入れることになった。

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