第4話 学校でもひかりの方から!?

 キンコンカンコン。

 学校のチャイムが鳴り、授業終わりが訪れる。


「う~ん、っと」


 今しがた退屈だった四限が終わり、今からは昼休みの時間だ。


 今日も俺は、いつもと変わらずぼっちで過ごす学校生活。

 それでも、自覚できるほどに嬉しい気持ちが混じっているのが分かった。


 それはもちろん、昨日の事が衝撃的だったから。

 モンスターやエージェントうんぬん、色々とびっくりした。


 あまりの衝撃的からか、家に帰ってもそのことは頭を離れなかった。


 だが、嬉しかったのはその点ではない。


 俺は学園のアイドル、ひかりの家に入ってしまったのだ!

 それも二人っきりで!


 俺は思わず心の中で叫んだね。

 異世界の力最高! 賢者最高!


 これはすごい事だ。


 カースト最下位である俺が、カースト最上位、今や惚れてる男の数はいざ知らず、学園のアイドルと言われるひかりの家に二人っきりで入っただと!?


「……はあ」


 なんで、なんで俺はもっと楽しまなかった、ちくしょう!

 あんなチャンス二度とないかもしれないのに!


 仲が良かった小学生時代ですら、ひかりの家には入ったことはなかった。

 それがまさか、こんな形で果たされようとは。


 あの話の後は、「後日また色々と伝えるから」ということですぐに解散となり、

素晴らしい展開は何も無かったわけだが。


 くっ、だがまあいい。

 過去の失敗をいつまでも引きずっていてはいても、一向によくならないのは事実。

 ここは前を向こう。


「……」


 でも、学校では何も変化はない。

 他男子と同様、ぼーっとひかりのその美しい姿を眺めるだけ。


 まあ、学校で俺みたいな陰キャに話しかけられても迷惑なだけだろうし、学校ではおとなしくしていよう。


 って、あれ、ひかりの席に彼女の姿が見えない。

 まあいいか、とりあえず購買で食べ物を調達──


「賢人!」


「うわっ!」


 財布を取るべく、横に置いているかばんに手を伸ばしていた俺に、突然声が掛かる。

 驚きながらも、その声に反応して声の方を向くと……


「!?」


 ひかり!?

 彼女は、俺の机に手を付いてこちらを向いている。


 改めて見ると、スカートみじけえ……。

 態勢をかがませていたので、思わず見えそうだった。


「何よ、そんなに驚いて」


「な、何って……」


 今は四限が終わったばかりで、教室にはまだ生徒が大勢いる。

 となれば……うわあ、見られてる見られてる。


 そりゃそうだよな。

 俺みたいな陰キャと、学園のアイドルが話をしてるんだから……。


「てか、ここじゃ話しにくいから。ちょっと付き合ってくんない?」


「付き合──!?」


「ほら、きなさいよ」


「なっ、ちょ!?」


 俺の反応の鈍さに呆れたのか、ひかりはぐいっと俺の手首を掴みながら、ずんずんと歩いて行く。

 そうなれば当然、俺たちの会話に自ずと耳を傾けていた教室の連中も、ひそひそと話し始める。


「あぁ? なんだあいつ。桜花さんとベタベタしやがって」

「てか誰だよ」


「桜花さん彼氏いたっけ?」

「ていうか、あの陰キャっぽいのだれ?」


 出てくる言葉が軒並み「だれ?」なのは心にダメージがくるが、目立ってしまっているのには変わりなかった。


「ちょ、ちょっと、一旦離して!」


「あら、なによ」


 俺は教室まで出たところで、ぱっとひかりの手を払う。

 本当はどこまでも掴まれていたかったが、恥ずかしさが勝ってしまった。


 それにやはり、

 

「えぇ、桜花さんてあんなのと仲良いの?」

「いやいや、便利なパシりでしょ」


「てか、あんなのと付き合ってくれてたらむしろラッキーだわ」

「あーそうだね。彼氏がウブでださかったらマウントとり放題」


 周りからは、ひかりを下げるような声がひそひそと聞こえてくる。


 ひかりは気づいていないかもしれないが、陰キャゆえに普段から周りの会話に耳を澄ます俺にとっては容易い事だ。


「あ、手ね。ごめんごめん、とりあえず付いてきてよ」


「まあ、そういうことなら……」


 ひそひそ、ざわざわ。

 俺は廊下で注目を浴びながら、構わず歩いて行くひかりに付いていった。


 俺は、学園のアイドルひかりと二人で……!

 俺の心臓のバクバクは、止まることがなかった。

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