実はファンタジーな地球で密かに平和を守るのは、学校カースト最下位の陰キャ~世界最強の彼の正体は、カースト最上位だけが知っています~

むらくも航

第1章 最強の力に目覚めた陰キャ

第1話 カースト最下位の陰キャ、前世が賢者ってまじですか

 今は学校、お昼休みの時間。

 校庭の桜もすっかり散り、春休みボケも治ってきた頃。


 わいわい、がやがや。


 みんなが楽しそうに過ごす中、俺『如月きさらぎ賢人けんと』は一番校庭側、一番後ろの席で頭を伏せている。

 すでに昼食を終えてしまった俺は、毎日の退屈な時間帯になっていた。


 周りを見渡してみれば、俺以外のほとんどの人がまだ昼ご飯を食べている。

 俺とは違い、みんな喋る相手がいるからだろう。


「なにやってんだ、あいつ」

「喋る相手がいなくて暇なんだろ」


 前の方から聞こえてくる会話は、間違いなく俺のことだろう。


 俺は二年生になっても友達もいなければ、恋人も当然いない、いわゆる陰キャだ。

 必然的に学園カーストは最下位。


 その証拠に、周りの会話に耳を澄ましてみれば


「昨日の音楽番組のさ──」

「ああ、まじかっこよかったよな!」


「ねーねー、このtikt○kの動画見た?」

「見た見た! 可愛いよねぇ」


 俺がついていけそうな会話はない。

 ついていける話題といえば、せいぜい惰性だせいでやってる可愛い女の子達のソシャゲの話ぐらい。


 俺は熱中するものもなければ、わざわざ流行りのものを自ら学ぼうともしない。

 好きなのは「ライトノベル」ぐらいか。


 そんな無気力な俺は、毎日ぼっちとして生き抜く陰キャ高校生。


 考え事をしながら、前の奴らの話を聞こえていないふりをしているうちに、俺の話題ではなくなっていた。

 ったく、そんなんなら最初から陰口言うんじゃねーよ。


 前の奴らの話題は、男子高校生らしく自然と女の子の話題になっている。


「可愛いよなあ、『桜花おうかひかり』」

「バカ、狙ってんのか? 学園のアイドルだぞ?」

「うるせえ、いいだろうがよ」


 ちらっと聞こえた会話に耳を傾け、教室の一番廊下側で話すグループの一人、『桜花ひかり』を俺も視界に入れた。


 小さな顔によく似合う、明るく白めの金髪ショートカット。

 周りと同じようなギャルっぽさがありながらも、どこか清楚な雰囲気が漂う、可愛い系のモデルのような見た目。

 

 そんな顔を持ちながら、大きめの胸に細めのスタイルをしているという、まさに絵に描いた美人。

 実際に、モデルの仕事の話を何度も持ち掛けられているらしい。


 さらにスポーツ万能とあっては、もうお手上げだ。

 彼女は陸上部よりも速く走り、体操部よりも華麗かれいな動きをするという。


 何故か部活には入ってないが、運動に関しても誰しもが認める万能さだ。


 そんな彼女は、あいつらが言う通り、この学校では知らない者はいない。

 どころか男の視線を釘付けにする学園のアイドル、桜花ひかり。


「……はあ」


 俺は誰にも聞こえない様に、ため息をついた。

 本当に出世したよなあ、


 桜花ひかり、俺と彼女は幼馴染だ。


 保育園・小・中も一緒で、おまけに家も近所。

 小学生の時は、男勝りの性格だった彼女とはよく公園で遊んだものだ。


 それは、俺が普通に話せる子だったこと、家が近所なこともあるが、実は彼女がちょっと嫌がらせを受けていたから。

 それを守る形で、よく一緒にいたのだ。

 

 彼女への嫌がらせは、実家が“怪しい”と言われていたことから始まった。


 俺も詳細を知っているわけではないのだが、何やら怪奇? やら、未確認生物? に関して何かをしている……とかなんとか。


 俺も詳細は分からずじまいだが、とにかくそんなわけで仲は良かった。


 その内、中学へ進むと校区が広がり、他の市町村からも当然来る高校ともなると、そんな話は一切聞かなくなった。


 と同時に、どんどんと陰への道を歩んでいった俺とは真逆、抜群の容姿と共に彼女は陽の出世街道を歩んでいったというわけさ。


 学園のアイドルのひかりは、もちろんカースト最上位。

 今では遠い雲の上の存在だ。


「!」


 って、やば!

 ひかりのことを眺めながら考え事をしていたら、いつの間にか目が合ってた!

 

 恥ずかしさから、ふいっと目を逸らす。


 じろじろ見んな、って思われたかな……。

 思われるよなあ、なんたってあっちは学園カースト最上位だし。


「はあ」


 またうつぶせの世界に浸ろ。


「んだよ、あいつ」

「陰キャの目線、桜花さんに向けてんじゃねえよ」


「……」


 前の奴らには反応しなかった。







 放課後。


 部活動にも入っていない俺は、さっさと帰宅することにする。

 どうせ俺が何をやっても結果は残せないんだ。


 そんなことする暇があったら、俺は家に帰ってソシャゲの女の子達みんなのレベルを1でも上げてあげたい。

 あの子たちは俺も待ってくれているからな。


 なんて考えていると……


「きゃああ!」


「!?」


 叫び声か!?

 咄嗟とっさに誰かいないのかと思い、下げていた顔を上げて周りを見渡す。


「……?」


 なんだ、いつもは人通りの多いこの道。

 どうして今は誰もいないんだ!?


「やああ!」


「!」


 なんて考えている内に、また声が聞こえてくる。

 くそっ、俺が行くしかないのか!


 聞こえたのは多分、この道を右に曲がったところにある公園の方から。

 それが分かっていた俺は、勢いのまま道を曲がる。 


 って、


「なっ!?」


 ゴ、ゴブリン!?


 公園へと足を踏み入れて目に入って来たのは、そう直感できるほどにファンタジー世界のまんまのゴブリン。


 緑色の体に茶色の棍棒こんぼう、尖った長い鼻をもった凶暴な若干人型の顔付き。


 ただ、デカい……!

 2メートルを越すんじゃないか!?


 って、近くにいる女の子。

 あれは!


「ひかり!?」


「え!? 賢人!? なんで、『ひとけ』はしたはずじゃ! ──きゃっ!」


 ひかりは、俺が呼び掛けてしまったことでこちらに気を取られ、棍棒で吹っ飛ばされる。


「なっ……」

 

 なんだよ、この光景。

 これ、本当に現実か……?


「グルルル……」


 そんなゴブリンはよだれを垂らし、下品な笑いを浮かべながらひかりに徐々に近づいていく。

 

 待て、嘘だろ?

 

 俺の好きなラノベ世界のゴブリンならば、追い込んだ女性にやることは一つ。

 衣服を全て破り捨て、その後は散々……。

 

「やめろおおお!」


 ひかりにそんな思いはさせてたまるか!

 今となっては遠い雲の上の存在だが、俺の初恋の人なんだ。


 そんなトラウマを植え付けられる姿を見るのは嫌だ!


「賢人! 来ないで!」


「え?」


 そうして走り出した俺に、ひかりが声を上げる。

 瞬間、


「グルオオォォォ!」

 

 いつの間にか地面に描かれていた魔法陣のようなものから、炎がき出す。

 その炎に体を焼かれたゴブリンは、もがきながら声を上げた。


「かかったわね……!」


 ニヤリとした表情を浮かべるひかり。

 これまさか、ひかりがやったのか?


 だが、


「グルァッ!」


 ゴブリンは両手を大きく横に広げ、炎をき消した。


「え!?」

「そんな!? まさか炎耐性持ち!?」


「グルルル……」


 そうして、今度こそ我が欲望を満たそうと、ゆっくりといたぶるようにひかりに近づくゴブリン。


「そんな、待って……」


 ひかりはゴブリンに恐怖してしまい、女の子座りから立ち上がれないでいる。

 

 俺もそうだ。

 さっきまで威勢が良かった俺の足は、信じられない光景の連続を前にして、完全にすくんでしまっている。


 それでも、それでも助けなきゃ……!


 そう強く願った時、俺の心の中で声が響く。


≪炎に耐性があるのなら、耐えきれなくなるまで燃やせばいいんじゃね?≫

 

 なんだ!?

 それは俺のようで、俺ではないような、そんな不思議な声。


 まるで脳筋にも聞こえる声が響き渡り、俺は瞬間的に手を前に構えた。


「あれ」

 

 俺は一体何を……?

 自分でも何をやっているか分からない。


 それでも、どこか懐かしい感覚。

 まるで、今まで何千、何万と繰り返してきたかのような感覚。


「燃え尽きろ、『ファイア』」


 自然と口から出た言葉に反応して、俺の右手の先から、今ほど見た炎とはまるで質の違う紅く輝く炎が飛び出す。

 ひかりが出したのは火、こちらは炎、そう直感出来るほどの差だ。


 その炎はゴブリンに点くなり、全身に燃え広がる。


「グルアアアァァ!」


 耐性があるだか言っていたはずのゴブリンは、先程までとは打って変わり、火が全身に広がる。

 そうしてわずかのうちに、


「──グルアァァァ……」


 ちりとなったゴブリンは風に乗って消え、その場には何も残らなかった。


「……」


 目の前の光景に反して、俺の心境は落ち着いていた。

 

 今のに、幾度となく聞いてきた魔物の死に際の声……。

 俺は頭の中を巡る、一瞬にまとめられた一人の男の一生の映像から、自分でも驚くほど冷静に全てを理解していた。


 ああ、そっか。

 俺、前世は異世界最強の大魔法使い、“賢者”だったのか。

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