第49話 少し変化した日常
寝たきりだった
明君の病室にて。
「じゃあ明、学校行ってくるわ」
「うん、朝からお見舞いありがとう」
久遠が手を上げて明君にあいさつをする。
明君は俺とひかりの方にも目を向けた。
「賢人君にひかりさんも、早いのにありがとうね」
「全然。元気そうで良かったよ」
「わたし達が勝手に来ただけからね」
久遠と一緒に明君にお見舞いをして、俺たちは今から学校へ行く。
明君は今日からリハビリに励むそうだ。
学校までは少し遠いこの病院だけど、俺が『身体強化』でひかりを運べば、久遠は付いて来れる。
病院を出て、俺はひかりを抱えて、久遠は単独でそれぞれ飛び立つ。
人目につかないルートを通る中、久遠が口を開いた。
「なんだか久しぶりな気がするよ」
「登校するの?」
「そう」
よし、これはからかうチャンスだな。
「久遠お前、部活に一回も顔出してないもんなー。音葉さん、めちゃくちゃ怒ってたぞ?」
「え、本当に?」
「ほんとほんと。なあひかり?」
「それはもうね、すっごく」
俺とひかりはニヤニヤしながら顔を見つめ合う。
これは俺が今作った冗談だ。
「それは……悪いことしちゃったな」
「そうだぞ。ちゃんと謝っておけよ」
「そうするよ」
「「……」」
俺はまたひかりと見つめ合う……今度は真顔で。
久遠は、素直過ぎて冗談だと受け取らなかった。
「ばーか、冗談だよ!」
「そうなの?」
「おう。転校早々から学校に来てない不良とは、思ってるかもしれないけど」
「それは仕方ないかな」
久遠には言ってないが、音葉さんは俺が裏社会で行動している事を知ってる。
もしかしたら、なんとなく察しているかもしれないけどね。
「てか、そろそろテストだな。久遠は大丈夫か?」
「うーんと、まあ……」
ふと口にした言葉だったが、反応が良くない。
お? さてはこいつ。
「不安なんだろ?」
「いや、そういうわけではなくて……」
「賢人」
俺が軽く
ひかりは何やら呆れたような顔だ。
「こいつ、めっちゃ頭良いから」
「え?」
「なんなら全国模試でもトップレベルよ。名前は掲載されないようになってるけど」
「なん、だと……」
イケメン、高身長、スポーツ万能、性格良しの久遠が……さらに頭が良いだと?
何が「天は二物を与えず」だ。
こいつにだけめちゃくちゃ与えてんじゃねえか!
「……気に入らないから置いてこ」
「ふふっ! そうね!」
俺は『身体強化』の効果を増し、速度を上げる。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 二人ともー!」
なんとなく悔しくかったので、唯一(?)勝っている魔法という点でマウントを取る。
抱えられているひかりも楽しそうだった。
★
朝、教室に久遠とひかりと共に入っていく。
そうなれば……
「久遠くーん!!」
「ひかり!」
「桜花さん!!」
カースト最上位の中でもトップの“華”。
二人の周りには、当然のごとく人が集まる。
久遠の元には女子、ひかりの元にはひかりの友達と男が寄ってきた。
久遠はしばらく、そしてひかりも何日間か休んでいたこともあって、心配や寂しさから人だかりが出来るのだろう。
「……」
だが俺のとこには誰一人来ない。
俺もひかりと同じく何日間か休んでいたのに。
これが学校カーストの差というものか、現実は残酷だな。
はぁ……まあいいか。
久遠への人だかりとひかりへの人だかりの間をすーっと抜け、ため息交じりに自分の席に着こうとする。
そんな俺に、
「賢人君」
「!」
声を掛けてくれる人がいた。
音葉さんだ。
彼女はそのまま近づいて来て、そっと俺の耳元で
「忙しかったんでしょ?」
「! ま、まあ、そうだね」
「だと思った。久遠君とひかりちゃんも?」
「似たような感じ……」
「そっか」
それだけ聞くと、音葉さんはすっと離れる。
そして、笑顔で一言。
「お疲れ様」
手を後ろで組んで伝えてくれる彼女は、とても可愛かった。
「ありがとう」
だから俺も、自然と
「照れてやんの」
「なっ!?」
幸せを感じていると、ふいに後ろからの声。
俺はバッと振り返る。
「中村君、からかうのはやめてくれよ」
「やなこった。でも良かったじゃねえか」
「なにが?」
「話しかけてくれる人がいてよ」
「うぐっ」
中村君は
俺が悲しい顔をするとこまで、しっかり一部始終を見られていたのか……。
「まあよ、頑張れや」
「何を……?」
「色々と、だよ」
中村君は俺の肩に一度手を付いて、自分の席に戻っていった。
ていうか、座ってたの他人の席だったんだ。
けどまあ、俺にも話しかけてくれた人が
ずっとぼっちだった俺にとっては、これは大きな進歩かな。
★
放課後、文芸部室にて。
「部員が全員
音葉さんは両手を合わせて喜ぶ。
ここ何日間かは俺とひかりも来れなくて、寂しい思いをさせていたかもしれないしな。
「ごめんね、僕が中々来られなくて」
「ほんとよ。わたしも言えたことじゃないけど」
「中村君も来たんだ」
「……今日は部活が無かったからな」
音葉さん、久遠、ひかり、俺、中村君と、初めて五人が揃った瞬間だった。
ちなみに中村君は委員長に呼ばれて来たらしい。
音葉さんがどう思ってるのか分からないけど、今の中村君にそこまで嫌悪感は抱いていないのだと思う。
相変わらず口は悪いけど、態度自体は丸くなったからな。
「じゃあ今日は張り切って部活! と言いたいところだけど、近々テストが控えてるね。みんなは大丈夫?」
音葉さんの言葉で、お互いにきょろきょろと顔を確認し合う。
あれ……待てよ。
ここにきてふと、嫌な事に気づいてしまった。
うちの学年は“二百人”。
その中で、
「私は大丈夫なんだけど」
音葉さんは言わずと知れた学年一番。
「僕も別に」
久遠は今朝聞いたところによると、音葉さんより勉強ができるかもしれない。
「わたしも」
実はひかりも頭が良くて、大体一桁台にいる。
残るは一人。
「俺も別に、“二十番”ぐらい取れればいいしな」
そんな、中村君まで……!
ぼそっと呟いた中村君の順位は、遥か高み過ぎて絶望した。
そうすれば、自然と俺に視線は集まる。
「賢人は?」
「賢人君は?」
ひかりと音葉さんが同時に尋ねてくる。
これは……白状するしかないのか。
「前回、百六十番です」
「「「……」」」
馬鹿にされるかな、そう思いながら顔を上げると、四人は頷き合っていた。
「じゃあ私達が教えてあげる」
「もう、中学時代はもっと成績良かったじゃない」
「分からない所は答えるよ」
「今日は如月に教える回だな」
みんな俺の方を向いて、勉強を教えてくれる気になっていた。
正直バカにされるぐらい全然良かったんだけど、
「みんな……」
今はその温かさが心に
ということで、今日の部活は成績が良すぎるみんなから、勉強を教えてもらう回。
になったのだが……
「賢人、そこ違うわ」
「賢人君、ここはね」
「これは公式を使わなくても~」
「これが分からねえのか……」
勉強嫌いの俺にとっては地獄の時間となってしまった。
「もう勘弁してくれー!」
そう叫ぶも、俺は確かに実感していた。
ついこの間までぼっちだった俺が、気がつけばこうして周りに人がいる。
今朝の久遠やひかりのような人だかりは、正直
それでも、友達と呼べる人達が周りにいてくれるだけでこんなにも学校は楽しいのだ。
今の俺には、ぼっちだった頃とは少し変化した日常がある。
俺はこの青春の光景を見ながら、改めて決意したのだった。
俺はこれからも、裏社会から平和を守る。
表社会でこんな青春を送っていくために。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
これにて『第2章 表と裏、両社会で注目を集め始める陰キャ』は完結となります。
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