第21話 動き出す悪意

<三人称視点>


 午前の授業中。 


 ひかりは宣言通り早退し、賢人は二限から教室に戻った。

 そんな中、いよいよ悪意がきばをむき始める。

 

≪おい、中村≫


 中村の心の中で、人ならざる者の声が響く。


 ひかりが予想していたように、中村の中には悪魔が住み着いていたのだ。

 それもかなりの上位存在。


 中村が一週間学校を休んでいたのは、この悪魔の存在を受け入れるため。

 また、中村自身が混乱していたからだ。


(んだよ、授業中に話しかけんなよ)


≪良いじゃねえか、俺様も暇なんだ≫


 だがそれも、今となっては会話ができるほどまでに、中村は悪魔を受け入れている。


(大悪魔様が聞いて呆れるな。で、何の用だ?)


≪なあ、お前がぶっ飛ばしたい奴っていうのは、あの一番後ろの席の陰キャみたいな奴か?≫


(ちっ。ああ、そうだよ)


 悪魔にさえ陰キャと言われてしまう賢人も、中々に不憫ふびんなものである。

 そして、今思い出すだけでもムカつく出来事を思い浮かべ、授業中につい舌打ちをしそうになる中村。

 

≪あんなのにムカつく理由が分からないが、良いだろう。力を貸してやるよ≫


(ああ、でも勝手なことすんじゃねえぞ。なるべく苦しむ形でこらしめてやりたいからよ)


≪じゃあどうすんだ≫


(決まってるだろ、周りから攻めるんだよ)


≪お前も中々悪い奴だな≫


(頭が良いと言え)


 だがしかし、ここで一つの疑問が浮かぶ。


≪あの陰キャに友達なんているのか?≫


(……モブの交友関係なんて知らねえよ)


 その疑問には中村、悪魔共に若干悩む。

 だが幸か不幸か、賢人には昨日、秘密裏に仲良くなっていた人物がいたのだった。





 昼休み、すでに廃部した元文芸部の部室。

 誰もいないこの部屋で、賢人と音葉は昼食を一緒に食べていた。


 ひかりに中村を見張るよう言われた賢人。

 しかし、結局約束を断り切れず、どころか音葉と過ごす昼休みが楽しみで、むしろ自分から一緒にご飯を食べにきていた。


 そんな甘い行動が、悪意に付け入る隙を見せてしまう。


「ねえ如月君! ここは?」

「えっと、そうだな──」


 教室での真面目な委員長からは一変、賢人には態度がまるで違う音葉。

 賢人の方もデレデレであり、クラスの誰かが見れば全員が目を疑う光景だろう。


 だが、それはしっかりと見られていた。

 廊下の隙間から見ていたのは中村。


(へえ、意外なつながりだな。まさか委員長とあんなに仲良かったとはな)


≪あまりにもぼっちだからどうしようかと思ったが、これなら決まりか?≫


 そんな様子を眺め、中村と悪魔はくわだてる。


(ああ。決まりだな)


 中村と、彼に憑いた悪魔の、目標が定まってしまった。







<賢人視点>


「ん~、っと」

 

 教室の自分の席で控えめに伸びをする。

 お昼は音葉さんと一緒に食べたが、教室の席に戻ればいつものぼっちだ。


 音葉さんはタイミングをずらして、俺の少し後に教室に戻って来た。

 俺は話しかけられる人もいないので席へと直行できたが、彼女は違う。


「どこ行ってたのー? 音葉さん」

「ちょっとクラスの仕事を頼まれてて……」

「あ、そうなんだ~」


 教室に入って来た音葉さんは、俺とご飯を食べていた事を誤魔化した。

 秘密の関係……なんだか、心の底で妙に高揚するものがあるな。

 

 だからって、誰にもマウントを取ったりしないけどな。

 音葉さんが嫌がることはしないっ!


「……」


 となれば、今度はエージェントのお仕事。

 まったく、人気者は予定が多くて困る。


「お前なあ」

「だよな~」

「ははっ!」 


 中村君は、いつもの友達と教室でご飯を食べている。

 特に変わった事はなさそうだ。


 だがまあ、一応引き続き動向は確認しておこう。





 そうして、気が付けば放課後。


「うーむ……」


 今日一日、これといって中村君の目立った行動は無かった。


 今は、教室から校庭にいるサッカー部を監視している。

 まだ部活が始まる前の準備の時間だ。


 それはそうと、顔を出すか分からないと言っていた中村君は、同じサッカー部の仲間に連れられて結局部活に行った様子。

 教室から出ていくまでは俺も見ていた。


「となれば、もうすぐ校庭に出てくる頃かな」


 中村君が教室を出て行ったのは、十五分ほど前。

 部室でちょっとダラけて、準備をすればもうそろそろだろう。


 だが、


「あれ?」


 中村君を連れて行ったはずの仲間が校庭に出てくるも、中村君の姿が見えない。

 彼らと部活に行ったはずじゃ……。


 見つかれば怪しまれるかと思い、特に部室まで尾行はしなかった。

 それが裏目に出てしまった?


 若干嫌な予感がする中で、不吉にも俺のスマホから通知音が鳴る。

 俺の連絡先を知ってるのは、ひかりと音葉さんだけ。


「……!」


 送り主は音葉さん。

 だが、送信されてきた写真を開いた途端、俺の足は駆け出していた。


「音葉さん!」


 写真に写っていたのは、手足と口元をしばられた音葉さん。

 メッセージは『こいつがどうなってもいいのか?』と、場所の指定。


 加えて、


「中村ッ!」


 その送り主の名前だけだった。

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