第24話 一件落着、かと思いきや……?

 「……あれ」


 俺がほどこした『完全回復パーフェクトヒール』により、ほんの数秒も経たない内に中村君がパチっと目を開ける。


「俺、一体……」


「良かった、中村君」


「如月。これは、お前が……?」


「うん」


「そうか……」


 中村君が自分の手と、貫いたはずの体を見つめ、俺に向き直った。

 信じられないだろうが、自分の体に起こった事を無理やりにでも理解しているようにも見える。


 そうしていきなり立ち上がったかと思えば、


「せっかくの見せ場がー!」


「……! ははっ」


 冗談気味に俺にツッコんだ。


「お前なあ、空気もっと読めよぉ」


「悪い悪い」


 けど、いつもの中村君の嫌な感じではなく、爽やかに冗談を言っている感じ。

 陽キャのノリは怖いけど、今の中村君はそんなに怖くない。


 それに、


「ありがとな」


「いいや、最後に見せた漢気。あれのおかげだよ」


 表情からお礼の気持ちもしっかり感じ取れたからな。

 

 正直、俺はこいつを許したかと言われると微妙だ。

 音葉さんについての事も、以前の屋上の事も、すぐに好感を持てと言われても中々難しい。

 向こうはどう思っていたとしても、友達とは思いにくい。

 

 それでも、最後はこいつの漢気がなければ、ひかりも音葉さんもやられていたかもしれない。

 その、ひかりへの想いによる漢気おとこぎだけは素直にめたい。


 今後の関係はまた考えるとして、今はそれに免じて突き放さないでおこうと思う。

 ここまでの事をしてしまったのは、彼も悪魔に心を影響された被害者だったから、かもしれないし。


「え、え……? どういうこと……?」


 しかし当然、ひかりは置いてきぼり。

 中村君はほどよくバカだが、同じエージェントのひかりはそうもいかない。


 中村君も理解しているわけではないだろうけど、今はとにかく自分の体が元通りで喜んでいる。


 そんな状況でも、場を取り持つのが上手いのが陽キャだ。

 

「そういえばひかりちゃん、俺の為に泣いてくれてたよね」


「……! んなわけあるか! あとだから気安く名前呼ぶなっ!」


「えー、いいじゃん。クラスメイトなんだし」


「いや、ガチ無理」


 あれだけ言われて、まだひかりにこんなグイグイいけるのか。

 すげえ、これが陽キャ。


「ん……あれ? みんな?」


「「「!」」」


 そんな中で、眠っていた音葉さんも目を覚ます。

 やっべ、音葉さんにはなんて説明したら……。


「もしかして私、寝ちゃってましたか!? ごめんなさい! せっかくを開いてもらったのに!」


「「「……はい?」」」


 と思ったが、音葉さんは何やら的外れな事を言い始めた。

 あれ、これもしかして音葉さん……


「わざわざ中村君が悪役を張ってくれて、如月君が助ける役だったんだよね! それなのに、私……!」


 うん、意外とイケるかも。

 中二病でありオタク、そんな音葉さんがゆえの勘違いでなんとか誤魔化せそう。


 それにしても音葉さんの『オタクバレ』が。

 いや、俺への仕打ちで音葉さんを拉致らちしたって事は、中村君は俺と音葉さんの関係を知っていたのか?


 と、そんなところに


「大丈夫か!」


「!」


 ようやくひかりの呼んでいた応援部隊が届く。

 戦闘服のようなものを着た、複数名のおそらくエージェントだ。


「あれ、モンス……いや、不審な何かを見かけませんでしたか」


 応援部隊の先頭の人が、音葉さんと中村君の顔を見て“モンスター”の名前を伏せた。

 彼らが一般人だと気づいたようだ。


 でもこの状況、どうしようか。

 そんな悩める状況には、彼女が前に出てくれる。


「ではわたしが報告します。だからこの者たちの保護はせず、まっすぐ家に返すように」


「で、ですがっ」


「桜花家の者に口ごたえがあるとでも?」


「ッ! 失礼いたしました。では桜花ひかり様、よろしくお願いします」


「ええ。あと、採集班にこの辺の残滓ざんしを集めるように言ってください。それなりに残っているかと」


「はっ!」


 おおすっげー、これが“桜花家”か。

 ひかり自身はまだまだ未熟とは言え、桜花家の名は健在か。


「な、何がどうなってるんだ? 如月」


「うーん、そうだなあ。明日、改めて話すよ。今日はとりあえず、一旦帰ろう。色々疲れたでしょ」


「お、おう……」


 中村君は納得してくれた。


「音葉さんも大丈夫? とりあえず、家まで送っていくよ」


「! え、ええ……よろしく」


「?」


 あれ、音葉さん、今俺のことをめちゃくちゃ観察するような顔で見てた気が……。

 いや、気のせいか。


「じゃあ、帰ろう」


 こうして、何はともあれ、中村君の一連の事件は解決したのだった。

 これを機に、また学校での俺の立ち位置が変わっていくこととなった。





 


<音葉視点>

 

「ふぅ……よし」


 朝、自室の姿見の前で身だしなみを整えて、覚悟を決める。

 いつも通りの制服には変わりないけど、なんとなく気合を入れる。


 今日は、やるぞ。

 何をやるかって……決まってる、如月君の本性を暴くんだ。


 昨日、私は中村君に拉致らちられた。

 あの場では、中二病劇なんて言って何も分かっていない振りをしたけど、そうはいかない。

 

 拉致られた時、最初は本当に何事か分からなくて、怖くて。

 それに中村君も、いつもの彼にはとても見えなくて、まるで悪魔のようだった。


 私には友達はいても、親友と呼べる人はいない。

 だから、心のどこかでが来てくれることを願ってた。


「……!」


 むずがゆい胸元をぎゅっと抑える。


 今思い出すだけでもドキドキする。

 ずっと助けてって願っていた如月君が、本当に来てくれて嬉しかった。


 けどやっぱり……おかしい。

 それっぽいタイミングで起きた振りをしたけど、実はその少し前から起きてた。


 ちらっと目を半開きにして前を見たら、なんか中村君すごいことになってるし。


「……ふぅ」


 自分で言うのもだけど、よく誤魔化したなって思う。

 あの場面では、私がすっとぼけるのが正解だったはず。


 でも私の目は誤魔化せないわよ、如月君!

 今日は絶対に、あなたの全てを暴いてやるんだから!





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