第15話 まさかの噂が立っちゃいました

 昨日のデートは最高だった~。

 またいつか、ひかりとどこかに出掛けられたなら良いな。


 なんてニヤニヤする顔を抑えて考えながら、俺はいつも通り登校する。 

 ま、学校では特別な事なんてないだろうけどな。


 今日も平穏に過ごすとしよう。


 ガラッ。


「「「……」」」


 えっ。


 いつも通りに教室に入ったはずが、クラスの異様な雰囲気を感じ取る。

 クラス全体がまるで俺を刺すような視線、それも特に男子からの視線が強い。


 今までこんなことはなかった。

 俺なんか、いないもしくは下に見られる筆頭の人間だったのに……。


 なんだなんだ、居心地が悪いぞ。

 と、教室に入った所で若干おどおどしていると、


「おー! 如月君じゃん!」

「やっほー!」


「へ? あ」


 二人は、ひかりの友達の『陽川ようかわさん』と『明日あすさん』。


 黒髪ウェーブの陽川さん。

 ひかりの明るく白めの金髪から、より金に寄せた金髪の明日さん。


 二人ともひかりよりギャルギャルしていて、それなりに人気もある。

 そんな明るい二人は、ひかりと同じくもちろんカースト最上位。


 生まれ持った名前からすでに明るいという、天性の陽キャなのだ。


 まさか、彼女たちから話しかけられることがあるなんて。

 これだけでも、カースト最下位の俺には一大事件なのだが、事態はさらに続く。


「へいへい、私達に報告することあるんじゃないのかい?」

 

「へっ?」


 そう言いながら、陽川さんにガシっと気軽に肩を組まれる。

 そうして、


「──!」


 ぎゅむっ。

 これはあああ!


 おそらくひかりより大きな胸部。

 その感覚が肘辺りにむにゅっと伝わってくるのに加え、少し甘めの香水が俺を刺激してきて、心臓が今にも爆発しそうだ。


 陰キャの俺には刺激が強すぎる!

 

「とぼけても無駄だよ? もうバレてんだかんね」

「本人からも全然言ってくれないしさあ」


 だが、話の内容は全く分からない。


「す、すみません。一体なんのことだかさっぱり……」


「も~、そこまでしらばっくれますか~」


 俺の言葉に、二人は「しょうがないなあ」という顔を見合わせる。

 そうしてニヤっとした表情を浮かべて、俺に言い放つ。


「如月君、ひかりと付き合ってんでしょっ!」

「でしょっ!」


「……はい?」


 な、なな、何を言ってるんだこの人たち!?


「昨日、たまたま見ちゃったんだよね~」


 昨日って……忘れるわけもない、俺がひかりと一緒に裏商店街に行ってた日だ。

 ってまさか、それをデートだと勘違いして!?


「二人して仲良く話してたじゃん! しかも隣に並んでさ!」

「そうそう! それも超楽しそうに!」


 な、な……。


「しかも、ひかりに連絡しても“どこにも行ってない”の一点縛りじゃん? これは勘付いたわけ」

「そ! 二人は付き合ってるんだってね!」


 そりゃそうだ、行っていたのは裏商店街。

 そんなものは一般人の二人には話せるはずがない。


「で、本当はどこ行ってたわけ? 途中で見失っちゃってさ~!」


 途中で見失った?

 はっ! そうか、二人は裏商店街への扉に入る前までの俺たちを見たのか!

 

 それならば、途中で見失ったのもうなずける。

 何しろ、途中から人除けがされたエリアに入ったのだから。


「ねえねえ、どこいってたのよ~!」


「そ、それは……」


 裏商店街行ってたなんて、言えるわけねえー!

 と、心の中で叫びを上げる中、俺の後ろで閉めていた扉が開く。


 入って来て目が合ったのは、ひかりだ。


「ん、おはよ。てかそこどいてくんない? 通れないんだけど」


「あ、お、おはよう。……あ」


 って、今来られるとまずいのでは!?

 そんな俺の予想は容易に的中する。


「おお~! 来たわね、話題の女!」


「は?」


 明日さんが声を上げたのを皮切りに、ひかりの元には一気に人が集まる。


「ひかり~! どうしてだよ~」

「私のひかりが~!」

「桜花さ~ん!」


 今しがた、俺と話していた陽川さんと明日さん。

 それに加え、クラスの一軍・二軍女子が集まる。


「ちょ、ちょっと、何の話よ!」


 当然ひかりは何のこっちゃ分からない。

 それでも周りの者は、俺とひかりが付き合ってるという噂を信じて止まず、ひかりに押しかけ続ける始末だ。


 なんだこれ、ただ睨まれていた俺とはえらい違いじゃないか。

 これが陰キャと人気者の差か。


 でも、


「「「……」」」


 今なお俺を睨み続ける、男陣からの強い視線の理由は分かった。


 こいつら、俺に嫉妬してたのか。

 でもまあ? 付き合ってはないにしても? ひかりとデートしたのは事実だし?


 ……となると、やるか? やっちゃうか?

 俺は陰キャなりに心臓をバクバクさせながら、一発かました。


「ふっ」


「「「……っ!」」」


 学園のアイドル、ひかりとのお出かけが明るみに出てしまったがゆえの、思いっきりのドヤ顔。

 嫉妬の目線を向ける男子たちの目が、まさに燃え上がるのが容易に分かった。


 してやったり!

 その後は一切、目を合わせることはなかったが、少し勝ち誇った気分を味わえた。


「そんなわけあるかああ!」


 その後、クラス中にひかりの声が響き渡ったが、信じる信じないは大体半々といったところだった。





 昼休み。


 朝は、学園のアイドルの交際という電撃ニュースが回るも、徐々にその勢いを弱め、俺への目線を少しマシになっていた。


 だが、事件は起きる。


「なんだこれ」


 トイレから戻ってくると、俺の机に一枚の紙が入っているのが分かった。

 丁寧に置かれているわけではなく、ガサツにポイっと入れられた感じ。


 えーと、なになに?


『放課後、一人で屋上に来い 中村』


 え、中村って……あの中村君だよな?

 『中村周人しゅうと』君、彼は同じクラスの陽キャだ。


 イケメンな上に、うちの強豪サッカー部では二年生ながらに大エース。

 なんでもU-アンダー18、つまり18歳以下の日本代表にも選ばれているという。


 ひかり達、カースト最上位ギャル達とつるむところは見たこと無いが、その容姿と肩書を以てカースト最上位を誇る男子生徒だ。


 そんな中村君が何の用だろう?

 特に用事もなかった俺は、指示通り放課後に屋上へ訪れることにする。

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